059 自棄
ムキムキのオネエさんの食べる勢いが凄い。
みるみるうちに蟹が消えていく……あぁ、私の蟹ぃ……。
そして水色髪の少女も私とそう変わらない体格の割に、めっちゃ食べる。
でも、この2人と敵対したくはないので、賄賂として差し出すのが賢明だと判断した。
「悪いわねぇ。携帯食料が尽きちゃって、そろそろ魔物でも狩ろうかって思ってたのよ。それにしても気前良く分けてくれたけど、毒とか入ってたりして……なんてね。まぁ私達に毒は効かないけど、ウフフフ」
毒入ってますが何か?
強いとは思ったけど、毒も効かないって、何その化物?
絶対戦いたくないんですけどぉ!!
半分ヴァンパイアだって知られるのは絶対拙い。
人族の国ではアンデッドは例外無く忌避されるものだし。
ミミィみたいに魅了が使えれば……でも、この2人には効きそうにないね。
「ところでお嬢ちゃんは、この森で何してたのかしらぁ?」
ここは正直に話すべきだと思う。
人間関係は、誠意を持って話し合う事からだよ。
「私はCランクの冒険者で、スタンピードによる魔物の暴走を食い止める為に戦ってました。それで調子に乗って森の奥に入り込んでしまったら、迷子になっちゃって……。お腹も空いたので、倒した蟹の魔物を料理して食べてました」
何一つ嘘は無い。
仮に相手が『真実の宝玉』とか持ってたとしても、嘘を付かなければいけない部分を会話に混ぜなければいいだけの事なのだ。
だけど何故か2人の雰囲気が剣呑になっていく……。
「へぇ、スタンピードねぇ……。この辺に冒険者ギルドがあるような街は無いわよ?そもそも人里までかなり距離があるし、スタンピードが起きたなんて話も聞かないわ」
「作り話は多少の真実を含めないとだめ。いくら何でも嘘が下手すぎ」
もう一度言うが、何一つ嘘は無いっ!!
でも全く信じて貰えなイイイイイイイィっ!!
仮面に血ぃ垂らして人間やめたろかっ!
獣人とヴァンパイアのハイブリッドだから、既に人間とは言い難いけどぉ。
「嘘はついてないんですけど……。冒険者カードもあります」
緑色のカードを懐から取り出して2人に見えるように差し出した。
「Cランク冒険者……という事だけは嘘じゃないようね。このカードが偽造じゃなければね」
「確かに冒険者カード。偽造じゃなければ」
偽造はもうしませんってば!ジっちゃんの名にかけてっ!!
そりゃ見た目10歳の少女がいきなりCランクになれる訳ないから、逆効果だよね……失敗したかも。
「さて、そろそろホントの事話してくれないかしらぁ?」
ホントの事しか話てないのに、2人の眼がどんどん鋭いものになっていく。
なんかもうどうでも良くなってきた。
なんで会ったばかりの人に、へりくだって弁明しなきゃなんないのよ。
もぅどーにでもなーれっ!
私は自棄を起こして、大の字で仰向け状態になり叫んだ。
「もう煮るなり焼くなり好きにしてっ!!どうせ私は、ヴァンパイアと獣人のハイブリッドですよーだ!!Cランク冒険者なのは嘘じゃないし、スタンピードもホントに有ったのに!ふーんだっ!せっかく蟹分けてあげたのにいいいいぃっ!!」
全く信じてくれないから、もう激おこですよ。
好きにしたらいいじゃない。
多少痛めつけられるぐらいなら回復薬(毒)で治療できるし、手足もげたぐらいなら何とでもなるもん。
ヴァンパイアの生命力舐めんなよ!
さぁどう出る!?……と思っていたら、2人が何故か唖然として沈黙したまま、ばつが悪そうにしている。
「あ、あの……ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだけど」
「ごめんなさい。軽い冗談のつもりだった」
軽くないんですけどぉ!!
化物どもに絡まれるとか、命の危機感じるんですけどぉっ!!
「それにしてもヴァンパイアだったなんてね。どうも気の流れが普通じゃない気がしたから。っていうか、獣人とのハイブリッドって何かしら?」
「私も魔力の流れがおかしいから、魔物の類いだと思って……ヴァンパイアだから魔物だけど」
普通じゃないとかおかしいとか、全然弁解してもらってる気がしないんですがっ!?
私はもう面倒くさくなったので、そのまま丸まって寝る体勢に入る。
「おやすみっ!」
「……えぇ?この状況で寝るの?」
「私達放置……?」
もう、ふて寝だもーんっ!
 




