053 聖女
一般人の魔力量が少なすぎたので、魔力量を調整しました。
おっさんの最初の魔力量50→500
4人の魔力解放後の魔力量1万未満→10万未満
先程のケガ人のような欠損部位は無いが、それでも全身血まみれでかなりの重傷である。
ケガ人を運んで来た人は聖女に縋るように目を向けるが、当の聖女は慌てる様子も無い。
「それほどの重傷ではお布施として金貨30枚必要になりますが、よろしいですか?」
金銭を先に提示するのはこの世界では普通である。
この世界には借金奴隷というものがあるので、後出しで高額請求する方が問題となるのだ。
それによる利点も有り、お金の事を先んじて言う人に対する忌避感は少ないし、聖職者だからボランティアで治せなどと言う愚か者もいない。
しかし、それでもあまりにも金額が高額で、命の対価とはいえ顔を顰める者もいた。
「そこまで高額では……くっ!」
悔しそうに拳を握りしめる。
冒険者は常に危険と隣り合わせなのだから、聖女を責める事など出来ないのである。
それでも何とかして欲しいという思いは捨てきれいし、割り切れない。
「だ、誰か回復魔法を使える奴はいないか……?」
わらをも掴む思いで周りに問いかけるしか無かった。
聖女の魔法と冒険者の魔法では雲泥の差だ。
聖女は教会で人体の構造まで学んでいるので、少ない魔力でも効果的な回復が出来る。
それだけの努力をしてきた対価なのだから、高額な医療費を請求できるのも当然と言えよう。
対して、冒険者はそういった事を学んでいないため、治癒魔法を使う際のイメージ力が足りない。
イメージ力が足りない分は魔法自体が補完してくれるのだが、その代償として多大な魔力が必要になってしまう。
治癒系のスキルを持っていればそれを補ってくれるのだが、実はこれこそが最も期待出来ない。
治癒スキルを得た者は、教皇国があらゆる手段を使って自国に取り込んでしまう為だ。
それは、場合によってはかなり卑劣な手段を使って自国に監禁する事もある程。
治癒に関しては教皇国がほぼ独占しているに等しいぐらい格差があった。
そういう事もあり、冒険者の回復魔法は気休め程度しか期待できないのである。
さっきの少女を探しに行っていてはとても間に合いそうに無いぐらいケガ人が消耗していて、もはや虫の息だ。
しかし、そこで一人の少女が名乗りを上げた。
「わ、私がやりますっ!」
3人組の紅一点、エルフィは見かねてケガ人に駆け寄った。
それを聖女は冷ややかな目で見つめる。
多少回復魔法の心得があったとしても、所詮は冒険者でしかないのだから、ここまでの重傷者には焼け石に水だろうと。
先程の少女のような特別なスキルを持つ者などそうそういる筈が無いと、高を括っていた。
「回復っ!」
エルフィの両手から回復系魔法の波動が放出され、ケガ人へと注がれる。
昨日までの要領で、全力で魔力を注ぎ込んだ。
そう、昨日と今日でエルフィの魔力量は数十倍にも膨れ上がっているにも拘わらずだ……。
金剛の煌めきは周囲を包み、溢れ出た魔力はエルフィの背中に天使の羽根を模した。
見る見るうちに傷口が塞がっていき、血色が良くなるケガ人を見て、周囲の人々は思わず呟いた。
「聖女様……いや、天使?」
すぐ側に聖女を名乗る者がいるにも拘わらず、誰もがそう思ってしまっていた。
そして、当の聖女すらも唖然と口を開けて、言葉を発する事すら出来ないでいた。
もちろん、それを行ったエルフィ自身が一番驚いているのだが、それはケガ人の治療が終わってからだと戒めた。
「まじか、エルフィ……」
「うそだろ……エルフィの回復魔法ってこんなに凄かったっけ?」
同じパーティのホルスとヨルンも目の前の光景が信じられなかった。
それと同時に、この原因は昨日のアレだろうなと思い至る。
確かにこれは、契約魔術を使ってでも絶対に口外してはならない事なんだろう。
今、多くの人の目に晒してしまっているが……。
「い、異端者……」
聖女がまた何かほざいていた。
その視線を遮り、エルフィを庇うようにホルスとヨルンが前に出た。
「エルフィに手は出させないぞ」
「俺達は教皇国と敵対してでもエルフィを守る」
2人の言葉にエルフィはほのかに頬を染める。
「この街には複数の異端者がいるようですね……」
聖女は10分経って騎士が復活したので、若干強気になっていた。
しかし、牽制するようにホルスとヨルンが魔力を溢れ出させた結果……
「ひぃっ!」
聖女の護衛である騎士達は魔力に当てられ、怯えた表情を見せ、足を竦ませた。
「なっ……なんなのこいつらはっ!?」
聖女も手の震えを隠しきれない。
と、そこへ一人の冒険者が歩み出る。
「何の騒ぎだ、ギルマス?またあの嬢ちゃん絡みか?」
酒臭さを隠しもしないその冒険者は、フラフラとギルマスに近寄って来て聞いた。
「いやウルズ、今はその子が絡まれている状態だ」
ウルズと呼ばれた冒険者は、ギルマスの指す方向を確認する。
そこには昨日一緒に魔力を解放してもらった3人組がいて、その中の少女が絡まれていると言う。
冒険者のリーダー的存在であるウルズは、仲間思いで弱い立場にある冒険者達の面倒をよく見ていた。
この3人組も、最初の頃から目を掛けている。
それに絡んで来た奴がいるのであれば、ウルズは当然の如く加勢する。
「どこのどいつだ、うちの可愛い後輩達にいちゃもん付けやがるのは?」
昨日解放したばかりでろくに制御できていない魔力を、ウルズは酔いに任せて解放してしまった。
「ひゃああああっ!!」
「うわああああっ!!」
「た、助けてくれぇっ!!」
「もう嫌だあああああっ!!」
それに当てられた聖女の護衛騎士達は、我先にと一目散に逃げ出した。
そして、青ざめた顔で立ち尽くしていた聖女も、震える声で何かを呟いた後、冒険者ギルドから立ち去った。
「なんでぇ?大した事ねぇ奴らだな」
ウルズの魔力が爆上がりしている事に、周囲の人々は唖然とするしか無かった。




