051 治療
「聖女様、ありがとうございます!」
治癒魔法を掛けてもらった人が感謝を述べるも、
「ではお布施として金貨1枚いただきます」
「……は、はい」
聖女は、にっこりと笑ってお金を請求する。
お布施の金額を聖女側が決めるんだ……。
いや、好きにしたらいいと思うけど、治療してもらった人の顔の引き攣り具合から、かなり高額なんじゃないかなと思う。
相場がどの程度のものか分からないけどね。
私は足場を解除して地面に降りる。
3人組の所に戻って、金額について聞いてみた。
「金貨なんて見たことないですよ」
「平民の生活で金貨なんて使わないしな」
「大手の商店が取引の時に使うぐらいじゃないですか?」
それなりに大きい金額だとしか分からなかった。
前世では、医療保険の無い国だとかなりの高額請求されて、医療破産なんて事もあったと聞く。
そう考えると、医療が発達してないこの世界において、難病を治せる治癒魔法の価値はかなり高いのかも知れない。
まぁ私は毒針で同じような事出来るけど。
針治療院でも開いたらけっこう儲かるかな?
実態は毒治療院だけど……。
それにしても、聖女がいるんなら尚更時間をずらした方がいいのかも知れない。
しょうがないから、すっぽんは夜に食べる事にしよう。
諦めて宿に向かおうとした時、冒険者ギルドの入り口付近が突如騒然となった。
「頼むっ!こいつを治療してやってくれぇっ!!」
只でさえ混雑している入り口に、人だかりが出来てしまっていた。
もう一度透明な足場を作って上から覗いてみると、大ケガした人がいるようだった。
右腕が途中から無くなっているし、大量の出血からか、意識も失っているみたいだ。
早急に治療しないと危なそうだと思ったところに、人垣が割れて聖女が近づいて来た。
「せ、聖女様っ!どうかこいつを助けてくださいっ!!」
地面に頭を擦りつけて、ケガ人の連れらしき人が懇願した。
それを見た聖女は慈愛の表情を浮かべるが、目の奥は全く笑っていない。
「お助けしたいのは山々ですが、残念ながらそちらの方は手遅れです」
「……えっ?」
「それ程の治療には丸一日の祈祷が必要ですし、……何より、部位欠損までとなると、お布施も金貨100枚になってしまいます。傷を塞ぐだけでも、全身に渡る裂傷となれば金貨30枚です。お支払いできますか?」
「それは……」
悔しそうに俯いて拳を握りしめる。
この世界じゃ信用の問題もあって、分割払いとか出来なそうだもんね。
うーん、聖女とは関わりたくないけど、早く助けないとヤバそうだし……。
まぁ、助けないという選択肢は無いよね。
私は足場を更に形成して、人垣の上を飛び越えてケガ人の下へと降り立った。
「うわっ!?空から人が!?」
「なんだ!?金髪の少女っ……?」
白銀髪だとヴァンパイアってバレる可能性があるから、髪の色は元々の金髪に偽装している。
ヴァンパイアは白髪が多いらしいから。
私は胡乱げな眼を向ける聖女を無視して、連れの人に話しかける。
「おっきな鍋を買ってくれたら、私が治してあげるよ」
「えっ?嬢ちゃんが?……いや、治してくれるなら何でもいいっ!鍋ぐらいいくらでも買ってやるから何とかしてくれっ!!」
「おk」
やった!これですっぽんの素材売らなくても鍋が出来るぞー!!
私は張り切って毒針に魔力を込めて、大ケガしてる人のクリティカルポイントに回復薬(毒)を打ち込んだ。
「うああああああああああっ!!」
大きな叫び声を上げて、一瞬ケガ人の体が跳ねたけど、みるみるうちに傷口は塞がっていき、次いで欠損していた右腕も生えてきた。
すっぽんが食べれる喜びで、調子に乗って魔力込めすぎたかな?
聖女が24時間かかるところを、2.4秒ぐらいで回復しちゃったよ。
「「「えっ……!?」」」
「嘘……」
「な、治ったのか……?」
観衆は響めき、聖女は唖然と口を開け、連れの人は眼を飛び出さんばかりに見開いた。
程なくして、連れの人はその瞳から涙を溢れさせた。
「よがった……よがったよぉ……」
怪我をしていた人はまだ目覚めないが、呼吸は安定してるし、もう大丈夫だろう。
「じゃあ、あれが入るぐらいの鍋買ってね」
「ああ、分かってる。何でも買って……は?岩?……嬢ちゃん、あの岩を鍋に入れてどうするつもりだ?」
「もちろん食べるんだよ?」
「岩……食うのか……」
岩みたいな甲羅の部分はさすがに食べないけどね。
食べ残した部分は、素材として売れるかな?それは無理か……。
何にせよ、これですっぽんが食べれるー!
しかし、私が意気揚々と帰ろうとした所へ、聖女とその取り巻きの騎士達がやって来て、取り囲んだ。
「あなたには異端者の疑いが掛けられました。異端審問を行いますので、同行してください」
やっぱりこうなったー!!
この物語はファンタジーです。
実在する回復薬とは一切関係ありません。
 




