044 ハーゲン
「発毛剤(毒)!!」
あまりにも必死なギルドマスターに見かねて、ひとまず話を中断して毛根を甦らせてあげた。
毒が頭を覆って、スキンヘッドに少しだけ毛髪が復活した。
「おおっ!髪よっ!!」
毒のせいで、ギルドマスターの信仰にまで影響を与えてしまったか……。
先程までの無表情が嘘のように明るい表情になって、良かったね。
でもグラサンは外さないのね。
そもそも何故この世界にサングラスがあるんだろう?
私以外にも転生者とか転移者がいたりするのかな?
「終わったなら話を戻そう」
「あ、はい……」
レイアさんが若干呆れ顔だよ。申し訳ない。
「君の目的は何だ?」
目的って言われてもねぇ?
「一番は伯爵から逃げる事だったんですけど……、フライシュ伯爵ってその後どうなったか知りません?」
事情を知ってそうなギルドマスター——面倒だからギルマスと呼ぶ——に聞いてみる。
「伯爵は侯爵相手に多額の借金をして、その地位も危ぶまれていると聞きました。さすがに貴族の事なので、あまり詳細に知る事は出来なかったのですが、たぶん今必死で貴方様の事を探しているでしょう」
そっかぁ、じゃあ暫くはまだ逃げ隠れしないとダメかな?
それはいいとして……、
「何故そんな言葉遣いになってるんですか、ギルドマスター?」
「もちろん、貴方様に忠誠を誓ったからです。主様とお呼びしてもよろしいですか?」
「うむ、よきにはからえ」
「なんで君はそんなに偉そうなんだ……?」
レイアさんが本気の呆れ顔になってしまった。
「じゃあ、とりあえずの目的は伯爵から逃げる事です。……あと、友達になったミミィを探す事かな?」
「……闇王と友達?」
「そうですね。同じヴァンパイアなので意気投合しました」
レイアさんの眼に映る景色が、段々遠くなってるように見えるのは気のせいかな?
「主様、伯爵の件でしたら私が何とかします。我ら『ハーゲン』が総力を結集すれば、王国の一貴族など敵ではありません」
「こらこら、『ハーゲン』の名を軽々しく出すでない」
ギルマスが何とかしてくれるのはいいけど、ハーゲンって何?
ジっちゃんも何か知ってる口ぶりだけど、軽々しく話せないような組織なの?
「ハーゲンってのはギルマスやクソジジイみたいな禿が集まってる集団だ」
「「もう禿じゃねーしっ!!」」
「ハモるなっ!!」
それって貴族に対抗できるとは思えないんですけど……?
「ご心配には及びません。ハーゲンには各国の重鎮も所属しています。そして我らが救世主を見出したライエル神官は幹部候補に抜擢されました。主様を害する者を組織は全力で潰す事でしょう」
おお、頼もしいっ!!
情けは人のためならずだね。
人に親切にしておくのって大事だよ。
「あと、ギルドカード偽造の件も、ギルドで暴れた件も私がもみ消しますのでご安心ください。主様に絡んで来たそいつらは除名しときますから」
「ちょっ、ギルマスっ!?俺は絡んだ訳じゃないですよおぉっ!!」
「ぼ、僕達もあの子が方向オン……この辺の地理に明るくなさそうだったので、地図を渡してあげようとしてただけですっ!!」
おっさんと少年達がギルマスと揉め始めちゃったよ……。
あとは向こうで何とかしてくれるかな?
「じゃあ話は纏まったようなので、私はこれで……」
「逃がす訳ないでしょうが」
レイアさんからは逃げられない。
もう解決してるんだから、逃がしてよー!
「ヴァンパイアを放置など出来る訳がないだろう」
「……まぁ普通そうですよね」
「君は冒険者登録しに来たんだったな。丁度いい、私が登録試験の試験官を担ってやる。剣を交えれば君の本質も理解出来るだろう」
脳みそ筋肉で出来てるのかな?
私のスキルは『毒針』だから、剣使わないんですけどー!?
この物語はファンタジーです。
実在する発毛剤とは一切関係ありません。




