042 誤解
紅い髪をポニーテイルにしている女性は、私の方を睨む。
「これは君がやったのか?」
この場に立っているのは私だけだし、一番に疑われるよねぇ……まぁ私がやったんだけど。
「せ、閃紅姫っ!?」
「たっ、助けてくれぇっ!!」
今凄く痛々しい二つ名みたいのが聞こえた気がしたけど、気のせいだろうか?
地面に伏している冒険者達はコーヒー蛇が迫る恐怖で錯乱しながらも、紅髪の女性に助けを求める。
……この人かなり強いかも?
魔力測定機で測定したらレベル120、魔力量15万、スキルランクはなんとA。
私が勝てるのは魔力量だけだ。
スキルランクAってだけでかなりの驚異だろうに、レベル120は勝てる気がしない。
ここは正直に話して、それでも敵対するようなら奥の手を使うしかないかな。
「私がやりました。冒険者と冒険者ギルドが手を組んで、冒険者登録しようとしていた私を食い物にしようとしたので。やむなく反撃して今逃げようとしていたところです」
私が正直に話すと、女性は眉を顰める。
「貴様ら、そんな下衆な事をしていたのか……。すまない少女よ、こいつらは私が叩き切っておく」
「ちょ、待てええええぇっ!!俺達はそんな事してねぇっ!!」
「そ、そうだっ!!その子の勘違いだああああっ!!」
「本当に親切心からやってたんだよおおおおっ!!」
冒険者達は口からコーヒーを零しながら必死に言い訳を始める。
あれ?よく思い返してみると、顔は厳ついけど言ってる事は確かに親切っぽかったような……?
でも、めっちゃガラ悪かったし、受付のお姉さんも変な目配せしてたし。
やっぱり怪しいよね?
「うわっ!何だこれっ!?」
あ、冒険者の少年達3人が戻ってきた。
この子達もグルだと思ったけど、何か反応見ると違うっぽいね。
一応、売り渡された訳じゃないのかな。
「あっ、ミミィさん。これ、何があったんですか?」
「あぁ、何か絡まれたから……」
「か、絡んでねぇっ!!」
冒険者のおっさんが何か叫んでたけど、それどころじゃ無くなった。
何故か突然、紅髪の女性の雰囲気が変わったから……。
「ミミィだと……?その膨大な魔力……貴様、闇王かっ!?」
あれ?ミミィの知り合い?……にしては顔を知ってないみたいだけど。
じゃあ、ミミィの中二病の自称『闇の王』が王国にまで届いているの?
なんて残念な……うわっ、あの人剣抜いたぁっ!?
「ここで何をしてる、闇王っ!!」
正眼の構えで私に剣を向けてきた。
武術素人の私でも分かるぐらい綺麗な構えから、相当な達人である事が窺える。
ドラゴンと戦ってからちゃんとした針の補充が出来てないから、この女性程の達人と戦える針は2本しかないんだよね。
今一酸化炭素とコーヒーを生成してる針は、私が石から削り出した即席の針なのでいまいち精度が良くない。
どうやら精度が良くないとイメージを完全に再現できないので、強者と戦える程の高性能な毒を生成できない為使えない。
まぁ奥の手は1本あれば出来るんだけど……。
そもそも、私ミミィじゃないんだし、誤解を解けばいいだけじゃない?
——と思ってたら、冒険者ギルドの2階から新手の増援が降りてきた。
クリティカルポイントの流路が、これまた達人級にヤバそうなのが……。
「なんじゃいこりゃ?騒がしいと思って降りて来てみれば……」
聞き覚えのある声に振り返ると、頭頂部だけ黒髪の白髪おじいさんが階段を降りて来ていた。
「あれ?ジっちゃん……?」
「んぅ?誰じゃったかの?」
あ、髪の色が違うから分からないか。
私は髪の色をヴァンパイア化する前の金髪に偽装した。
「私、私」
「ん?……おぉ、ヒナではないか!」
良かった、ちゃんと覚えててくれた……。
ここでジっちゃんに会えたのは幸運だ。
これで私がミミィじゃないって証言して貰えるもんね。
「い、今、髪の色が変わった……!?」
「え?ミミィさん?ヒナって……?」
「どういう事だ?クソジジイの知り合いなのか?」
とりあえずこれで何とかなりそうかな?
「なんじゃヒナ、またギルドカード偽造でもしてトラブルになっとるのか?」
あっ、あの時のバレてたんだ……。
ちょっとぉ!偽造って聞いて、紅髪の女性の眼がまた鋭くなってるんですけどぉ!?
この物語はファンタジーです。
実在する一酸化炭素及びコーヒーとは一切関係ありません。




