040 お金
ミミィの所に戻ろうとして全力で走ってたら、いつの間にか闇王国を出てしまっていたみたい。
それにしても、獣王の腕輪で脚力が強化されてるからって、一足飛びに帝国すら通り越して王国まで戻ってしまうとは……。
「ミミィさんは何処から来たんですか?」
そうね〜、何処から来たっていうか何処に行ったんだろうね、ミミィは?
「ミミィさん……?」
「……はっ!はい、ミミィですっ!」
「ふふっ……。どうしたんですか、ミミィさん?」
冒険者の少年達に偽名を名乗ろうとして、咄嗟にミミィの名を名乗ってしまったんだった。
どうも急に名前を聞かれると頭が回らなくて、知ってる名前言っちゃうんだよね。
「いや、何でもないよ。私は田舎の名前すらないような場所で暮らしてたから、何処って言われてもちょっと説明が難しいね」
「あぁ、なるほど……」
ん?何か変な納得をされたような……。
さながら迷子の子に住所を聞いた時のような眼をしているのは気のせいかな?
助けてもらったお礼がしたいから付いて来て欲しいって言われたけど、私は街に入っても大丈夫だろうか?
伯爵家がどうなったかによるけど……、それを調べる為にも街には入らないとか。
例に漏れず、この街も大きな外壁に囲まれており、入場には門を通る必要があるみたいだ。
順番待ちの列に並んでいると、前方で何やらお金を払っているのが見えた。
「あ……私、お金持ってない」
「「「ええっ!?」」」
え?そんなに驚く事?
まだ子供だし、そもそも私が住んでた付近には家も無くて、ほぼ自給自足だったから通貨なんて持ってないよ。
伯爵邸では当然の如く小遣いすら貰えなかったし。
「それならあの素材燃やさない方が良かったですね……」
あぁ、あの熊の素材を売ればお金が手に入ったのか……。
肉以外は食べれないし、いつも燃やしてたからついついやってしまった。
この少年達は勿体ないって言ってたけど、あの程度の熊じゃ大したお金にならんでしょ。
あっ……その僅かなお金すら無くて今困ってるのか。
次回からは、高く売れそうな物だけでもとっておこうかな?
でも、お金が無くて街に入れないのに、どうやって売るの?卵が先かコカトリスが先か?
それはお金が必要になってから考えようか。
「お金無いから街には入れないし、私はもう行くね」
「ま、待ってくださいっ!!お礼のついでに僕達がお金出しますからっ!!」
んんっ?何でそんなに必死になって引き留めようとするんだろう?
なんか怪しいなぁ……。
でも、結果的にだけど仮にも助けられた相手を罠に嵌めようなんてしないよね?
まぁここは奢られとこうかな。
「ありがとう」
「……いえっ、と、当然の事をしてるだけですっ!」
笑顔でお礼を言ったのに、何故か赤面して挙動不審に……。
そして何故か、パーティ唯一の女の子に脇腹をつねられている。
益々怪しいんだけど……大丈夫?
少年達に払ってもらったので、門を通って無事街に入る事が出来た。
田舎から出て来たって言えば、とくに身分証明とかも要らないらしい。
一応手配書みたいなもので確認されたけど、大丈夫だった。
伯爵とか侯爵が手配書出してるかもと思ったけど、これなら街にも出入りできるね。
「冒険者登録しておくと通行料無しで出入りできるんですけど、まさかミミィさんが冒険者じゃないなんて……」
「それな。あれだけ強いのに冒険者じゃないって、王国騎士団ぐらいだよな」
「ミミィさんってもしかして王国の騎士団とか魔導師団の人ですか?」
「ううん、普通の村人だよ」
「「「普通って何だっけ……?」」」
冒険者登録しとけば街に入る時にお金いらないからと、かなり熱烈に登録を薦められた。
3人は他にやる事があるとかで、後で冒険者ギルドで待ち合わせる事にして一旦別れた。
私は冒険者登録するために先に冒険者ギルドに入る。
そういえば、前に街に入った時——というか転移させられて街に入っちゃった時——には、ギルドカード偽造しちゃってヤバそうだから近づかなかったんだよね。
今度は冒険者ギルドに堂々と入れる。名前は偽名で行くつもりだけど……偽名で登録ってできるのかな?
ギルドの中は日中にも拘わらず意外と賑わっていた。
併設された酒場のような場所で飲み食いしている人が多い。
冒険者割引とかあるなら利用してみたい。
私が入るとかなり注目を浴びてしまった。
何故だろう……見かけない顔だからかな?
白銀色の髪に碧眼なんてそこら中にいるだろうに。
人が多い割に、受付はガラガラだ。
ここにいる人達は本当に冒険者なのかな?
ニートが仕事するふりするために冒険者を名乗ってここで屯してるのでは?
まぁ私には関係ない事なので好きにしたらいいけど。
私は、綺麗なお姉さんがこちらに微笑んでいる受付に向かった。
「今日はどういったご用件ですか?」
「冒険者登録をしたいんですが」
「……はい、冒険者登録ですね」
ん?何、今の間は?
「それではレベルとスキルのランクを測定するので、この石版に触れてください」
……スキルとかレベルはあんまり知られたくないんだけどなぁ。
「あっ、大丈夫ですよ。レベルの数字とランクが表示されるだけで、スキルの内容やその他個人情報に関わるモノは表示されませんから」
うーん、じゃあ大丈夫かな?
私は少し警戒しながらも石版に触れる。
石版は淡い青色に輝き、そこに数字が『38』とランクらしき『F』の文字が表示された。
「えっ……?」
あれ?お姉さんが困惑してる……?
38はたぶんレベルだよね。
比較対象が無いから多いのか少ないのか分からないなぁ?
でもこの石版は面白そうだから、後で毒針で再現出来ないかやってみよう。
そう思ってたら、何やら受付のお姉さんが私の後方へ目配せした。
私にバレないようにやってるつもりだろうけど、クリティカルポイントの動きで丸わかりだ。
直ぐに後方から、大柄なクリティカルポイントの塊が近づいてきた。
「ランクFでレベルが38ねぇ……。お嬢ちゃん、パワーレベリングは良くねぇぞ」
振り向くとガラの悪そうなおっさんが私の鑑定結果に文句を付けてきた。
……これは罠に嵌められたかな?




