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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第一章『逃亡編』
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004 お爺さん

 行けども行けども岩ばっかり。生物の気配すら無い。

 逆に魔物や盗賊に襲われないのは安心材料なんだけど……。

 女神様が『そのスキル、序盤は苦労するかもね』って言ってたし、スキルレベルが上がるまでは無茶な戦闘はしたくないし。


 この世界のスキルにはレベルがあって、スキル自体が成長する。

 スキルを得ただけでいきなり超人にはなれない訳だ。

 それでも特殊なスキルであれば、使い方次第で急激に強くなれる。

 私の『毒針』なんてその最たるもの。

 だけど基礎になる私の体はまだまだ子供だし、栄養不足の今の状態ではゴブリン程度でも絶対安全とは言い切れないし、戦わなくてもいいならそれに越した事はないよね。


「それにしても、植物すらほとんど生えてないのは困る。食べ物が無い……」


 由々しき事態だ。

 とりあえず、何か見つけられるまで歩くしかないかな。

 魔方陣での転移だったから追っ手の心配はまだ無いと思うけど、それでも少しでも早く遠くに逃げておきたい。


 しばらく歩くと、何か金属のようなものがぶつかり合う不快な音が聞こえてきた。


——戦闘!?


 魔物同士、魔物と人、人と人。

 いずれにしても、両方敵になる可能性もある。

 迂闊にこちらの存在を気取られないようにしないと。

 私はなるべく音を立てないように、気配を消しながら音のする方へ向かった。


 音が大きくなったので、岩場から少しだけ顔を出して覗き見る。

 そこには、白髪の大柄な老人(♂)が大きな戦斧を振り回して、巨大な亀の甲羅みたいなものをガンガンと殴っていた。

 何だこれ?


「ぬおおおおおおぉっ!!顔出さんか亀えええええぇぇっつ!!わしゃ、腹減ってんじゃああああああああっ!!」


 亀らしきものはワンボックスカーぐらいの大きさで、頭や手足は完全に甲羅の中に引っ込めているようだ。

 あのお爺さん、あの亀を食う気なの?

 そういえば昔、父が巨大なトカゲを狩ってきて食べた事あったけど、なんか鳥に近い味で意外と美味しかったっけ。

 食べれるなら私も食べたい。

 でも、お爺さんが戦斧でいくら叩いてもびくともしていない。

 あんなに固い甲羅だと、料理するのってどうしたらいいんだろう?


「ふぬうううううっ!!だめじゃああああああっ!!こんのクソ亀めっそ固いいいいいぃ!!」


 めっそって何やねん……。

 それだけ叫べる元気あるなら、別の食べ物探した方が良くない?

 なんて思ってたら、お爺さんふいにこちらを向いた。


「そこにおるやつ、ちょっと手伝わんかい!!」


 あ、バレてーら。

 うーん、姿を見せても大丈夫かなぁ?

 でも私もお腹空いてんのよね。

 背に腹はかえられないか……。


「手伝ったら、私にも食べさせてくれる?」

「おおぅ、どうせ儂一人じゃ食べきれんからくれてやるぞ!」


 まだ敵かどうか判断がつかないけど、最悪スキルでなんとかするか。

 私はお爺さんの元へ歩いていく。

 このお爺さん、筋肉は隆々でめっちゃゴツいなぁ。

 戦斧振り回せるぐらいだから、それなりに戦闘できるのかも知れない。

 もし戦う事になったら、不意をついて毒で機動力を奪うのが先決かな?


「なんじゃ娘っ子、小人族か?ずいぶんちっこいのぅ……。よくこんなとこまで来れたもんじゃ」

「いや私、普通の人族だけど」

「人族じゃとっ!?じゃあまだ子供なのかっ?」


 普通に10歳になったばかりの子供ですよ?

 この世界では10歳にもなったら普通に働いてるし、一人で旅する子もいる。

 何がそんなに不思議なんだろう?

 まぁこの辺は大人でも来そうにないような場所だけども。


「そんな事より、この亀の頭を出させればいいんでしょ?私が頭を出させるからその戦斧でやっちゃってね」

「おぅ、分かった。でも、出来るのか?」


 私は亀の前に立つ。

 頭は完全に引っ込めて、首の周りの肉を盛り上げて蓋をしてるみたいだ。

 甲羅だけじゃなくて、この肉の蓋も固そうだ。

 しかし、私のスキルの前ではただのお肉だよ。


 私の『毒針』のスキルにはサブスキルがある。

 相手の『クリティカル』なポイントを視る能力だ。

 視るというのは脳裏に直接描かれるという事で、相手が後ろに居ても見えている。

 私の後方にいるお爺さんに不審な動きがないのは、このクリティカルポイントの動きで分かる。

 股間をボリボリ掻いてるな……ワタシオトメ、メノマエニイルヨ。

 そしてもちろん、この亀のクリティカルポイントも視えている。

 そのポイントに『筋弛緩剤(毒)』を注入する。

 普通であれば固くて針なんて刺さらないだろうけど、クリティカルポイントなのでブスリと刺さり、肉の蓋が弛緩して少しだけ開いた。

 その僅かな隙間から見えた亀の頭に、今度は『筋膨張剤(毒)』を注入。

 グググっと、亀の頭が外に出始めた。

 動かない敵は簡単に針が刺せるから楽だなぁ……っと、亀と目が合った。

 私は攻撃されないように、すぐさまその場から飛び退く。

 亀の頭が完全に出たと同時に、お爺さんが飛び上がる……って、何その跳躍力老人の動きじゃないよ!

 数十キロはあると思われる巨大な戦斧を持って跳ぶって、何者?


「どっせいいいいいぃぃっ!!」


 勢いよく振り下ろされた戦斧が、亀の頭を切断した。

 亀の頭が重力を無視して宙を舞う。思ったより頭部がゴツゴツしてるけど、あれって南米とかにいるワニガメ?

 噛まれてたら大変な事になってたかも……次からはもうちょっと気をつけよう。


「うむっ!美味そうじゃわい!!」


 まだ血が滴る亀の頭を持ち上げてお爺さんが喜ぶ。

 その状態で見て美味そうって思えるんだ……。

 猟師さんは生きたままの動物が既に食べ物に見えるらしいし、このお爺さんも猟師か何かかな?

 ……って、こら!そのままかぶりつくなっ!!

この物語はファンタジーです。

実在する筋弛緩剤及び筋膨張剤とは一切関係ありません。

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