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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第一章『逃亡編』
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038 闇王と騎士団長と龍王

 ロバールはヴァンパイアの能力を最大にして駆けた。

 大猿が現れた事で、計画が頓挫してしまうかも知れないのだ。

 弱体化した魔王を勇者に倒させ、勇者が魔王の装具を継承出来ない事を利用して、自分が次代の魔王になろうとしていた。

 弱体化しても闇王『ミミィ・ヴァンプ・モッサリ』はロバールには倒せない。

 しかし帝国の勇者ならば——予想した程強くは無かったが——倒せる可能性はある。

 だが、せっかくお膳立てした闇王の弱体化を、あの大猿に奪われかねないのだ。


 後方でドラゴンが現れたのが見えた。

 あれは情報にあった勇者の『龍化』だろう。

 あれが現れたなら大猿の隙をつけるかも知れない。


「なんとか闇王を連れ去って、『闇王の耳飾り』を大猿から遠ざけなければ!」


 程なくしてロバールは闇王が倒れている場所にたどり着いた。

 闇王の髪をかき上げ、そこにある筈の物を確認するも……


「無いっ!?まさかあの大猿がっ!?」


 思わず叫んだ事で、闇王が身動みじろぎする。


「うーん……臭いのじゃあっ!!」


 寝ぼけたミミィが魔力の塊をロバールに向かって放った。


「ぐああああああっ!?」


 闇夜に向かって飛んでいくロバールを夜空に佇む月だけが見送った。


「何じゃ、うるさいのぅ……?」


 闇王ミミィは目を擦りながら起き上がる。

 そして半分閉じた目で辺りをキョロキョロと見回した。


「はて?妾は何をしてたんじゃったか?」


 記憶を辿ろうとすると、何故か尻に痛みが走った。

 そして、何か違和感がある事に気付く……。


「あれ?耳飾りが無くなってる?」


 近くに落ちていないかと辺りを見るが、何処にも無い。

 そもそも一度付けたら誰かが継承しない限り外せないものであった。


「んんっ!?『闇王の耳飾り』が誰かの手に渡ったのか!?」


 ようやく飲み込めた事実に目を見開く。

 僅かに震える手を握りしめ、闇王——いや、元闇王は叫んだ。


「やったー!!自由の身じゃー!!」


 闇王国の者が聞いたら正気を疑うような歓喜の声を上げた。


「いやー、魔王ってこの国から出れないから退屈じゃったんよなぁ。妾、責任とか言う言葉大っ嫌いなんじゃ。もう闇王じゃ無くなったし、何処へでも行けるどー!!」


 と、そこで最近知り合った少女の事を思い出す。


「そういえば妾の親友がおらんな。まずはあやつを探す事にしよう」


 嬉々として軽やかにステップを踏み、闇夜の中へと消えて行った。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 騎士団長は自身の目で見たモノが信じられなかった。

 帝国の一部を焦土と化した程の龍化した勇者ドラゴンを瞬殺した。

 それはもはや魔王に匹敵する力を持つと言っても過言では無いだろう。

 その大猿が、勇者に止めを刺そうと動き出す。


「ま、拙いっ!!」


 龍化が解けたと思われる勇者は、恐らく気絶している。

 騎士団長は決死の覚悟で駆け出したが、何故か大猿は勇者にたどり着く事なく消えてしまった。

 一瞬、裸の少女のようなものが見えたが……。


「はっ!?私はこんな時に何を……!」


 不埒な考えが何故こんな緊急時に過ぎったのか?

 長時間に渡る緊張でおかしくなったのか?

 しかしそれどころではないと思い直し、騎士団長は勇者の元へ駆けつけた。

 不思議な事に、あれだけダメージを受けたと思われた勇者の少年は、衣服こそボロボロになっているが、ほぼ無傷と言っていい状態だった。

 ほっと胸をなで下ろすも、更に疑問が増す。

 龍化時に受けたダメージは、本体である彼の体には届かないのか?

 以前帝国領内で龍化した時は直ぐに魔力が尽きて元に戻ったため、その辺の確認はされていない。


「いずれにしても無事で良かった」


 だが、この勇者の失態については追求されるだろう。

 そして新たな脅威となる魔物についても報告しなければならない。

 頭を悩ませる問題は山積みだが、もうこれ以上の侵攻は不可能だろう。

 イレギュラーであるあの魔物のせいにでもするしかないかと嘆息し、騎士団長は少年勇者を担いでの地を後にした。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「な……なんだ、あれはっ!?」


 眷属であるドラゴンにそれなりの力を渡したにもかかわらず、大猿に玩具にされただけで終わった。

 龍王は眷属を通してその先の様子を探る事が出来る。

 白銀色の大猿の腕には、見たことのある腕輪が装着されていた。

 あれは『獣王の腕輪』ではないのか?

 しかも『闇王の耳飾り』まであの大猿が手に入れてしまった。

 仕舞いには、何かの回復系スキルを使ったと思われるが、眷属と化していた帝国の少年勇者との接続が切られてしまったのである。


「あの小娘は、アースドラゴンを通じて見た勇者ジオ・ストームと共にいた娘ではないのか?

 あの時はそこまでの力を感じなかったが、今や我ら六大魔王に匹敵するやも知れん。

 ……いや、最も問題なのはあのスキルだ!

 我が眷属との接続を切れるスキルなど、放ってはおけぬ!」


 龍王は血が滴る程に強く拳を握りしめた。


 そして——侯爵どころか魔王にまで目を付けられてしまった少女は今、道に迷って王国へと戻ってしまっていた。

ここまでで第一章『逃亡編』終了となります。

引き続き第二章『冒険者編』をお楽しみください。


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