037 ドラゴン
見る間に収束していくオーラ。
シュウシュウと、オーラの代わりにミミィの体からは湯気のようなものが立ち上った。
内包していた魔力が漏れ出しているのかも知れない。
そして少しずつ体は小さく、元の大きさに戻り始めた。
「あ、やばいかも?このまま小さくなるとミミィの尻が大変な事になっちゃう」
私は急ぎミミィの尻に突き刺さった針葉樹を抜いた。
「あふぅっ!?」
恍惚の表情でミミィは前のめりに突っ伏した。
変な性癖に目覚めないといいけど……。
完全に元の大きさに戻ったミミィを転がしてみると、白目をむいて気絶していた。
ロバールとか言う奴はこれを狙ってたんだろうね。
ミミィを弱体化させて何をしようとしてたのやら……。
でも、白目むいてるのは私のせい?
ちゃんとした針じゃないから、毒がうまくコントロール出来なかった可能性はあるけど……深く考えたらダメだ。
一応、疑似血(回復毒)を生成してミミィの口付近に垂らしておく。
「むむぅ……この血……臭いのじゃ……」
尻に刺さってたせいかな?
ヴァンパイアって食事しないから排泄しないだろうに、何故臭う?
一応血を飲んで回復したようで、まだ白目むいてるけど魔力は戻って来てるみたいだ。
……と、突然ミミィの耳の辺りが輝き、何かが髪の隙間から飛び出した。
「耳飾り?」
今まで髪に隠れてて分からなかったけど、どうやらミミィは耳飾りを付けていたようだ。
その耳飾りがふいに私の方へ飛んで来て、私の耳に装着された。
なんかこんな事、前にもあったような気がするよ……。
この耳飾りも獣王の腕輪と同じ種類の装飾品だとすると、一年間は返せないんだよね?
……しょうがない、暫く借りておこう。
さて、私はどうやって戻ればいいんだろうね?
同じように元に戻るイメージで毒を生成すればいいか……あれ?もしかして自分で尻に樹を突き刺さないとダメなの?
ん、もうちょっと細い樹探そう……。
「ギャオオオオオオオオオオオォッ!!」
突然静寂を破って、後方から咆哮が……決してダジャレではない。
どこから現れたのか、赤いドラゴンが狂ったように吠えていた。
背中に翼が生えてるし、どこかから飛んで来た?
いや、あの大きさのクリティカルポイントが近づいたら絶対に分かるから、あれは突然あの場所に現れたんだと思う。
そもそも体に対して翼が小さすぎるし、あれで飛べるとは思えない。
飛べないドラゴンはただのドラゴンだ……赤いし『紅のドラゴン』と呼ぼう。
そういえば、ジっちゃんとダンジョンで食べたドラゴンは美味しかったなぁ……。
そう思うと、あのドラゴンもただのお肉の塊に見えてくるよね。
赤い鱗の下にプリップリの白身が詰まってたら——ジュルリ……。
念のため、一応いつもの確認はしておこう。
「ねぇ、あなたは話せるドラゴン?」
「ギャオオオオオオッ!!」
よし、お肉だ!決定っ!!
魔力測定機でドラゴンを見ると、魔力量は20万程だった。
巨大化する前の私と同じぐらいなら、問題無く勝てそうかな。
あのアースドラゴンと同じドラゴン種だけど、強さは同じぐらいなんだろうか?
だとしたら、今の私はまだアースドラゴンと同程度って事で、それを一瞬で倒したジっちゃんの足下にも及ばないって事だ。
私の強さはまだまだだなぁ……。
巨大化した今の私の魔力はかなり増大しているはずだし、せめてあのドラゴンぐらいは一瞬で倒せないとね。
私は針葉樹を右手に持って構える。
紅のドラゴンが私を敵として捉えたようで、こちらを向いて一際大きく吠えた。
私は地を蹴り、一足でドラゴンとの距離を詰める。
ドラゴンは大きく息を吸い込んでブレスの体勢に入っている——が、遅い!
針葉樹の先に可燃性のガス(猛毒)を生成して、ドラゴンの口に突っ込んだ。
既に口の中で炎が渦巻いていたため、轟音とともにドラゴンの牙を砕く程の爆発が起こった。
「グギャアアアアアっ!?」
蹈鞴を踏んだドラゴンに追撃をかける。
クリティカルポイントの集中している腹部に、低い姿勢から気を限界まで込めた拳を叩き込む。
くの字に折れたドラゴンは、そのまま針葉樹を巻き込み数十メートル程吹き飛んだ。
よし!ジっちゃん程圧倒的じゃないけど、ドラゴン倒せたどー!
……と思った矢先、埋もれた木々の奥でクリティカルポイントの塊が消失した。
「……えっ?お肉が消えた?」
そんな消滅する程の攻撃じゃ無かったはずなのに……お肉……。
いや、僅かに小さなクリティカルポイントがある。
私は急ぎお肉——もといドラゴンの元へ駆け出した。
が、途中で空に佇んでいた月が雲に隠れ、それと共に私の体は縮み始めた。
「え、ちょっ!毛が薄くなってくんですけど!?服、服ううううぅっ!!」
持っていた針葉樹はもう大きすぎて針として使えない。
急ぎ魔力測定機を針に戻して、体に纏うように服を生成した。
服の生成に針を一本使ってしまった為、魔力測定機に使っていた針は残り一本だ。
今、ミミィぐらいの敵に襲われたらヤバいかも?
ドラゴンが吹き飛んだ先にあるクリティカルポイントの塊に近づくと、そこには私より少し年上っぽい少年が大怪我をして横たわっていた。
「もしかして巻き込んじゃったのっ!?」
まさかドラゴンが吹き飛んだ先に人がいるなんて……。
この辺って虫ぐらいしかいないんじゃなかった?
とりあえず急いで回復薬(毒)を生成して少年に経口摂取させる。
うまく嚥下してくれたので、体の傷はすぐに回復した。
薄らと目を開けた少年は呟く。
「……天使?」
あれ!?回復したはずなのにお迎えが来てるっ!?
やばそうなので目一杯魔力を込めた回復薬(毒)を針で突き刺し注入しておいた。
「あばばばばばばばば」
だ、大丈夫だよね……?
さすがに無関係な人を巻き込むのは申し訳ない。
暫く経過を観察していると、遠くから誰か駆けつけてきた。
ここに私がいると犯人だと思われちゃうかも?
いや、私がやったんだけど……。
とにかく逃げよう!!
私はその場を離れ、ミミィの元へ向かった。
この物語はファンタジーです。
実在する疑似血及び可燃性のガス及び回復薬とは一切関係ありません。




