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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第一章『逃亡編』
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003 地下道

 石で作られた壁には苔がびっしりと生えている。

 その苔がわずかな光を放っていて、ここは地下にも拘わらず意外に明るい。

 教会の地下にこんな場所があるなんてね。

 これで街の外へは何とか逃げられるだろう。

 でも、その後は?

 我ながらちょっと無計画すぎたかなと思う。

 でもこのスキル付与の儀式しかチャンスは無かったんだし、しょうがないよね。

 普段から私の周りには見張りがいたし、逃げられないように食事もまともに与えてもらえなかった。

 伯爵は、私が強いスキルを得たら奴隷にするつもりだったんだろう。

 弱いスキルだったとしても、売り飛ばすために私を自由にする気は無かったと思う。

 だから逃げるしか無かった。

 でも体力を失っているこの状態で逃げるのは相当厳しいと思う。

 栄養が足りなくて歩くのもちょっと辛い……。


「でも、こんな時こそスキルよね」


 私の『毒針スキル』はイメージしたとおりの毒を生成できる。

 前世でおばあちゃんが『どんなものでも食べ過ぎたら体に毒だよ』って言っていた。

 つまり『どんなもの』でも生成できちゃうのだ。フフフ……。


「とりま栄養ドリンク生成っと!」


 グビグビと飲み干すと、みるみる体力が回復していく。

 ちょっとポーションっぽい効果もイメージしてみたが、ちゃんと効いてるようだ。

 しかし、しばらく地下道を歩くと急にお腹の中からごっそりと何かが消えた。


 私のスキルは万能なようで、実は致命的な欠点がある。

 それは10分経つと生成した毒が消えてしまうという事だ。

 消えたとしても毒によって変化した状態はそのままなので、一応栄養は摂取できてるんだけど。

 体はちゃんと回復するけど、お腹の中はからっぽなまま。

 ぐぅ……と寂しそうにお腹が鳴いた。


「栄養は問題ないけど、お腹いっぱい食べたいという欲求は別物だよねぇ……」


 早めに食料を手に入れる必要があるだろう。

 その前に着の身着のまま逃げ出したからお金も無いし。

 まずはお金を稼ぐところから?

 いや、そもそも人がいるところは避けたいのよね。

 逃亡って難しいなぁ……あぁ、お腹すいた。


「んっ?」


 カチッと何かを踏んだ——と同時に、足下に赤く輝く魔方陣のようなものが現れる。

 一瞬で目の前がまぶしい光に覆われた。

 徐々に目が慣れてくると、そこには今までいた地下道とは全く異なる景色が広がっていた。

 ゴツゴツした岩場に囲まれた場所。

 遠くの山も木すら生えていない岩山ばかり。


「街の近くにこんな場所あったかな?まぁ、この領都の地理にはあんまり詳しくないんだけど……」


 それにしても、こんな転移魔法みたいな仕掛けがあったんだね。

 神官さんからは何の説明も無かったから、罠でも踏んだのかと思って焦っちゃったよ。

 一応外に出れた事だし、ここからは見つからないように注意して進む。

 なんせこの世界には索敵のスキルなんてものもあるみたいだからね。

 私はもう一度栄養ドリンク(毒)を飲んで、歩きだした。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 伯爵家の私兵ゲイツは、一瞬何かの魔法が発動したのを感知した。


「何だったんだ今のは?かなり膨大な魔力だったが、まるで空間転移……まさかっ!?」


 すぐに魔力の発動した付近へ向かう。

 しかし、そこは大勢の人が行き交う市場だった。

 こんな中であれだけの魔法が展開されたら大騒ぎになっているはず。


「……さっきのは気のせいだったのか?間違いなくこの辺りのはずだが」


 困惑しつつも、令嬢アイナを探さなければいけないと思い直して、辺りを注意深く見て回った。

 しかし、結局何も見つける事はできなかった。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「それでは私は別の都市の教会へ行きます。後の事はお願いしますね」


 今日の伯爵家の令嬢でこの領都での『スキル付与』の儀式はひとまず終了した。

 神官ライエルは予定通り、地下道からこの街を出る事にした。

 もうそれなりに時間が経ってしまったし、今からではここから逃がした令嬢に追いつく事はできないだろう。

 できれば彼女に護衛を付けたかったが、今は信頼できる者が近くにいない。

 この国の貴族相手に余計な軋轢を生まない為にも、自分が付いていくという事はできない。

 もどかしかったが、地下道から送り出す事しかできなかったのだ。


 神官ライエルがしばらく地下道を進むと、妙な魔力の残滓を感じた。


「これは転移陣……もしや聖女派の手の者か!?なんてことだ、ここから逃がした事で逆に彼女を危険に晒してしまったのか……」


 あの令嬢が得たスキルの本質までは分からない。

 殺傷能力の低いFランクスキルで果たしてどの程度戦えるものだろうか。

 きっと、転移した先には神官ライエルでも突破困難な何かが待ち構えているだろう。


「教会内では私の動かせる駒が少ない……あちらに相談してみるか。かの者達にとってもあの方は救世主であろうからな。必ず動いてくれるだろう」


 ライエルは力を存分に振るえない自身の不甲斐なさを悔しく思いつつも、手配を急ぐのだった。

 

この物語はファンタジーです。

実在する栄養ドリンクとは一切関係ありません。


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