254 逆行
方法がある……?
今は藁にも縋りたいので、僅かでも希望があるならやってみたい。
「ぼっちさん、それってどんな方法?」
「100年前まで時を遡って、赤き月が天珠華を生み出したところで採取してくればいい」
時を遡って……。
「ぼっちさん、空気読んで。今はぼっちさんの厨二拗らせに付き合ってる場合じゃないんだよ?」
「厨二拗らせてないわ!!お前、時を遡れないと思ってるだろ!?」
「そんなの無理に決まってるじゃん」
「おいおい、俺は時を止める魔法を再現したんだぞ。実は時を止める魔法を作る過程で、時を遡ったりしてたんだよ。ある一点で時間を止める方がはっきり言って難しい。時ってのは一定方向に常に進んでるものだからな」
「マジですか……?つまりぼっちさんは時間逆行の魔法も使えると?」
「おうよ」
「凄いよぼっちさん!!さすが伝説の武器!!」
これで万事解決じゃん!
いやぁ、よかったよかった。
ん?でもぼっちさんは、「出来ればやりたくは無い」って言ってた。
「ぼっちさん、それって何らかの不都合もあるって事?」
「……まあな」
そりゃそうよね。
何の対価も無しにそんな大技使える訳がないもんね。
まさか生け贄とかが必要なの?
その辺に棲息してる魔物じゃダメかな?
「ちなみに生け贄とかは必要無いからな」
「心読むなし」
「時間逆行の魔法ってのは虚数空間に入るからか、100年前に戻るのはほぼ一瞬で行ける。しかし、逆は無理なんだ」
「逆が無理って……?」
「時間順行は加速出来ないって事だ。つまり100年前に戻るのは一瞬でも、そこから元の時代に戻るには100年の時を歩まなければいけない」
「物理学上では未来への時間跳躍の方が現実的なのに、魔法じゃ出来ないの?」
「開発はしてみるが、カク爺の時間停止スキルみたいな見本が無いとな。時間逆行は時間停止を再現する為に試してたらたまたま出来ちゃっただけなんだよ」
うむぅ、原理とか私には理解出来ないから、ぼっちさんが出来ないならどうにもならない。
「問題はそれだけじゃない」
ぼっちさんの口調が急に真剣なものになる。
更なるデメリットがあるっていうの?
「俺単体では魔力が足りないから、俺の所有者であるアイナ、お前も一緒に行く必要があるんだよ。そもそも俺単体での行動は、魔素が豊富なダンジョンの中でも無い限り制限されてしまうから、天珠華を取りに行くなんて不可能だ。どうしても自由に動ける誰かが一緒に行く必要がある」
「なんだそんな事か。私が月を壊しちゃったのが原因だし、元々その責任を取って行くつもりだったよ」
自分がやらかしてしまった事なんだから、そうするのは当然でしょ。
と思ったら、周囲から反対の声が。
「ダメよ!100年前に行くなんてどんな危険があるか!しかも100年歩まないと戻れないなんて、人族の寿命が尽きちゃうじゃない!」
「アイナがそこまでする必要無い。アイナの人生を犠牲にしてもエレノア姉さんは喜ばない」
キャサリン姉とリスイ姉が私の腕を掴んで説得してくる。
でもちょっと勘違いしてる部分だけは訂正しておこう。
「大丈夫。私の命、今尽きてるから」
「はい?」
「アイナ、頭おかしくなった?」
「頭おかしくなってないからっ!!ライズさんに心臓を貫かれて殺されたんだけど、不死王の指輪の効果でリビングデッドになって動けてる状態なの!!」
私の発言でライズさんが勇者達から睨まれる。
「ゆ、勇者が魔王を倒すのは当然の事だろうっ!?」
若干狼狽えるライズさんだが、私はフォローしないよ。
「そういう訳で、100年経っても平気なの。不死王の指輪のホルマリンコーティングで腐敗もしないし」
「でも……」
キャサリン姉は凄く心配そうな目で私を見つめる。
リスイ姉も不安そうな顔のままだ。
「心配しないで。今や私は6つの麟器を持つ真なる魔王なんだから。100年程度の冒険なんて余裕だよ」
「アイナちゃん……」
「アイナ……」
ぎゅっと私を抱きしめるキャサリン姉とリスイ姉。
「絶対無事に戻って来なさいよ」
「無理はしないで」
「うん」
暫し姉達の胸に顔を埋めた。
この物語はファンタジーです。
実在する時の概念とは一切関係ありません。




