248 スイッチ
天空族の国に出ると、お父さん達が言ってた通り勇者達は皆無事だった。
「キャサリン姉、リスイ姉……無事で良かった」
無事だって事は聞いてたけど、ちゃんと無事な姿を確認出来てほっとした。
「アイナちゃん、あなたの方こそ無事で良かったわぁ。上空で高威力の攻撃があったから心配してたのよ」
キャサリン姉に抱きつかれて、ちょっと苦しい。
勇者達はまだ魔導具の影響下にあるようで、うまく動けないようだった。
そこへ天空族の新手が襲いかかって来ていたが、レイアさんと白銀の人だけで全て捌いていた。
天空族の幹部クラスの強者は既に倒してあるから、後詰めの部隊はそれほど強く無いみたいだ。
それにしても、白銀の人はこの国ごと転移していてまだ魔力に余裕があるのか、平然と天空族相手に優位に戦いを進めている。
いや、流路を見ると魔力は殆ど使わずに気だけで相手を圧倒しているようだ。
なんか気を使った時の闘い方がキャサリン姉に似てるなぁ。
同じ流派なのかな?
一先ずあの2人に天空族の相手を任せておけば大丈夫そうなので、魔力を使い切ってる私達は休ませてもらう事にした。
天空王が高速でこの国に向かってるので、あまり時間は無さそうだけど……。
出来れば勇者達の動きを封じている魔導具だけでも何とかしておきたい。
そう思ってたら、丁度良く白銀の人に蹴られた天空族がこちらに向かって飛んで来た。
片手で頭部を掴んで、素早く毒を注入する。
「ねぇ、勇者達に影響を与えてる魔導具のある場所教えてよ」
私に頭を鷲づかみにされている天空族は、ジタバタともがきながら反論する。
「は、放せぇっ!!教える訳が無いだろう、魔導具が第三格納庫にある事なんて!!はっ!?」
先程注入した毒はファンタジー自白剤なので、抗う事など出来ないのだよ。
「第三格納庫ってどの辺にあるの?」
「この真下200mぐらいの場所にあるなど絶対に言うものか!!はっ!?」
意外と近くにあったのね。
その在処さえ聞き出せればもうこの天空族は用済みだ。
睡眠毒を注入して、おやすみして貰った。
「真実の宝玉よりえげつないわね……」
キャサリン姉が呆れている。
真実の宝玉は真偽を問うだけだから質問を誘導する事で回避出来ちゃうけど、私の毒は全て自白するから回避出来ないもんね。
だがこれで勇者達を復活させれるぞ。
「真下200mって言っても、この地面鉄で出来てるから破壊も難しいわよ?出入り口も聞くべきだったんじゃ?」
「大丈夫、すり抜けて行くから」
「え?すり抜け……?」
私には幽体離脱ならぬアストラル体離脱があるから、鉄の壁だろうと関係無いのだ。
「じゃあちょっと行ってくるから、私の体を守ってね」
遠隔操作で本体を動かす事は出来るけど、細かい操作は難しく、強い敵と戦ったりはさすがに困難だ。
アストラル体が体から離れている間は、信頼出来る人に守って貰う必要がある。
まぁ殆どぼっちさんがいれば大丈夫とは思うけど。
それに私の両親もいるので、万が一の事も起こらないだろう。
私はアストラル体を分離させ、地下に潜って行った。
しばらく潜り続けると、開けた空間に出る。
そこには巨大な魔導具らしき装置が設置されていた。
半球状の金属で出来たコアから、幾つもの管が飛び出てどこかへ繋がれている。
上からの距離的にも、たぶんこれが勇者達に影響を与えている魔導具に間違い無いと思う。
幾人もの天空族が声を掛け合い管理しているようだ。
その声を聞きながら、魔導具の主要部分を探っていく。
「このスイッチは自壊用のものだから、押すなよ!絶対押すなよ!」
そんなフリみたいな言い方してる天空族がいるのに、他の天空族達は真面目なのか誰も押そうとしない。
そこは押すのが様式美でしょうが。
私は指先に霊気を集中して実体化し、代わりに押してあげる事にした。
「ぽちっとにゃ」
私が自壊用スイッチを押すと、周囲でアラートがけたたましく鳴り響く。
「だ、誰だ押したのおおおおぉっ!?」
私だ。
何か魔導具のあちこちから蒸気のようなモノが吹き出して、崩壊が始まった。
金属片がバラバラと剥がれ落ち、内部に収納されていた魔石みたいなものに亀裂が入っていく。
大騒ぎの天空族達が見守る中、勇者に影響を与えていた魔導具は見るも無惨な残骸へと姿を変えた。
押すなよのフリをしていた天空族は膝をついて呆然としていた。
ちょっと罪悪感が湧いてしまうが、勇者達を解放する為だし、しょうが無いのだ。
私がアストラル体を本体に戻すと、勇者の面々は既に元気に飛び回っていた。
残った天空族の兵達を次々に無力化していってくれている。
勇者が完全復活したし、これで天空王が来ても暫く時間を稼いでくれるだろう。
この物語はファンタジーです。
実在する自白剤とは一切関係ありません。




