247 体当たり
「お、おのれ……よくも赤き月を破壊してくれたな!貴様だけは絶対に許さん!!」
天空王が叫びを上げると、神器『朱雀』の背中から赤い炎がその怒りを顕すように吹き出す。
高速で鎧がヴァイスさんに迫り、そのまま激突した。
「ぐうっ!?」
「わわっ!」
ヴァイスさんは私を守るように抱きかかえようとしたが、それよりも早く天空王がぶつかった為、私はヴァイスさんのドラゴンの手から落下してしまう。
残り少ない魔力で翼に浮力を発生させ、何とか体勢を整える。
怒りに我を忘れたように天空王は次々と標的を変え、体当たりを繰り返していった。
愚直な攻撃は逆にシンプルな為、純粋な攻撃力が乗っていて強力だ。
私は魔闘気すら練れない状態で、それをいなすのがやっとだった。
師匠とミミィも避け切れずにダメージを負って、徐々に弱っていく。
それでなくても大技を出した直後で皆魔力の残りも少ない。
そこへ下方から私の両親も駆けつけ天空王に攻撃を加える。
だが、如何せん私が与えたパワーアップの効果も切れているので、天空王の攻撃を抑えるには至らない。
赤き月というエネルギーの供給源を失ったにも拘わらず、天空王の鎧は殆ど衰えを見せなかった。
いや、体当たりという単純な攻撃に切り替えた事によって、消費を抑えているのか?
怒りに任せているかと思えば、意外に冷静だね天空王。
これは逆にこっちが不利な状況に陥ってるのかも知れない。
「どうしよう、このままじゃみんなやられちゃう……」
「落ち着けアイナ。今は魔力の回復に専念しろ。あと、勇者達がどこに消えたか見つけられないか?」
「この辺にはいないと思う。地上みたいに水平方向だけ探るなら見つけやすいけど、天空族の国は空にあるから立体的に探さないとだし。それにどれぐらい離れたところに行ったのかも分からないよ」
「あれだけの大きさのものを転移したんだ。そう遠くには行けないはずだ」
ぼっちさんの指示に従い、天空王の攻撃は回避に専念して、まずは魔力を回復させる事にした。
同時に周囲のクリティカルポイントが集合している場所を探す。
しかしなかなか天空族の国らしき場所はヒットしなかった。
と、下方から別の2つのクリティカルポイントがこちらへ向かってくるのを感じた。
これは……元魔導王と元不死王?
「ライオンが暴れたお陰で帝国兵は散り散りだ。もう地上の防衛は必要無いと思って空へ上がってみれば、まだ天空王に手こずってるのか?」
来るなり悪態をつく元魔導王。
「月を吹き飛ばしてエネルギーの供給元は断ったけど、逆にこっちがガス欠でピンチなの。早く手伝って」
「月を吹き飛ばしただと?……そういえば月が無い。とんでもない事するなお前」
「月があると強力な熱射線攻撃が来るし天空王の鎧は強化されるしで、他に打つ手が無かったんだよ。地上からも見えたでしょ、あの強力な攻撃が」
「確かにあれは避ける事すら難しいだろうな。よく生きてたな」
「私には頼れる相棒がいるからね」
などと元魔導王と余計な話までしていたら、天空王の攻撃の矛先がこちらへ向いた。
直立した姿勢のまま弾丸と化してこちらに迫る鎧。
それを元魔導王は魔法で作った盾でガードしようとする。
しかし天空王の鎧はその魔法を打ち消し、攻撃を貫通させた。
「ぐあっ!?」
ガード出来ずにモロに攻撃を食らってしまう元魔導王。
「ま、魔法が効かないだと!?」
「天空王の鎧は魔法を無効化するみたいなの」
「それを早く言えっ!!」
仮にも元魔王なら、それを想定して対処しないさいよ。
同様に元不死王も魔法使い寄りの人だから、天空王の攻撃を躱すのに苦労していた。
かく言う私だって毒針スキルは殆ど魔法に近いから、ほぼ鎧に無効化されちゃうんだよね。
あれを止めるには物理で殴るしか無いんだけど、それをやるにはまだ魔力量が足りない。
今この空域にはあの天空王の鎧を止めれる者はいない。
せめて勇者達と合流しないと……と思ってたら、帝国の方角の空に多数のクリティカルポイントを見つける。
「ぼっちさん、天空族の国を見つけた!」
「よし!全員アイナに掴まれっ!!」
ぼっちさんの号令に、私の両親と師匠とミミィとヴァイスさんは即座に私の元へ飛んでくる。
近くにいた元魔導王と元不死王は何の事かよく分かってないようだったので、私が二人の腕を掴む。
「飛ぶぞ!」
「逃がすかっ!!」
天空王の鎧が迫る中、間一髪でぼっちさんの転移魔法が起動する。
私達は天空族の国まで転移し、無双状態だった天空王と距離を取る事が出来た。




