246 月破壊
目の前まで来ると月は思ったより大きいのが分かる。
前世の月は直径3000kmぐらいだっけ?
でもこの世界の月はその100分の1にも満たないと思う。
このサイズで地上から見える位置に浮いてるのがそもそもおかしいのよね。
しかも太陽光を反射してるんじゃなくて自ら発光してるのもおかしいし。
この世界ではこれが普通なのかも知れないけど……。
そんな不思議な月をこれから破壊する。
「これの破壊は無理じゃないか?」
「大丈夫。師匠達にも両親に使ったブーストしてあげるから」
「なんかあばばばってなってなかったか?アレって大丈夫なのか?」
「10分間効果持続するところを1分に凝縮するから、パワーアップしたらすぐに必殺技を撃ってね」
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?アイナ、何とか言えっ!!」
抗議など全てスルーである。
毒針3本に短時間パワーアップ毒を生成して行く。
両手と尻尾の先で持った毒針を師匠とミミィとヴァイスさんに刺した。
「「「あばばばばばばばばば」」」
効果は絶大で、3人の気と魔力がみるみるうちに膨れ上がっていく。
「ア、アイナ覚えてろよ」
「アイナ、後で美味しい血飲ませろ」
「アイナ様、私も後で何か要求します」
パワーアップする為には仕方無かったのに、何か恨みを買ってしまった。
この闘いが終わったらまた逃亡生活に逆戻りじゃないよね?
「じ、時間が限られてるから早めに撃ってね……」
渋々ながらも3人は必殺技の体勢に入る。
師匠は毒の効果により月の光無しで巨大化し、鬣が金色に輝いた。
大きく開けた口の中に膨大な魔力が集積されていく。
「『激・獅子の咆哮』っ!!」
ライオンの口から放たれた咆哮が月の中心に穴を穿つ。
穿たれた穴から縦横無尽に亀裂が走り、そこから赤い炎のようなエネルギーが吹き出した。
ミミィは両掌に闇のエネルギーを凝縮していく。
自身の前で合わせた掌から放たれる黒い光が巨大な球体を作り出す。
「『超・暗黒爆裂掌』っ!!」
放たれた球体は巨大な流星のようになり、高速で飛んで行って激しく月と衝突した。
轟音と共に闇が爆裂し、亀裂の入った月が大きく瓦解し始める。
ヴァイスさんは背中の翼に白銀のオーラを纏う。
そのオーラがドラゴンの口の前に集まって渦巻いた。
「『滅・白焔覇龍』っ!!」
ブレスを吐くようにそのオーラを吹けば、巨大なオーロラが月を切り裂くように突き刺さった。
そして白く輝くように壮絶に爆散して月は大きく四つに分断された。
元魔王達の限界を超えた必殺技により、月はほぼ破壊された。
赤い光は相変わらず放っているが、先程までのような膨大なエネルギーは感じられない。
割れた中心から吹き出した炎のようなエネルギーが、宙に溶けるように霧散していっているからだろう。
これでもかなり天空王の力は減衰したと思われるけど、何があるか分からないので最後に私が完全に月を打ち砕く。
「き、貴様ぁっ!月を破壊するなど正気かああああぁっ!?」
何か下の方から叫び声が聞こえて来た。
両親に施したパワーアップ時間が終了したらしく、天空王が凄い勢いでこっちに迫って来ていた。
でももう遅いよ。
私は自身に打ち込むべく新たな毒を生成する。
打ち込む毒はブーストではなく、自分の中に眠る全ての力を融合するもの。
気、魔力、妖気、龍気、霊気。
普通にやったら融合できるのは気と魔力で練った『魔闘気』ぐらいだ。
そこにいつもなら妖気を融合した『妖魔闘気』が私の切り札となる。
しかし今回は更に龍気と霊気の融合も試みる。
ブーストするより私の能力との親和性が高い、全ての気の融合だ。
使えるモノは全部使っちゃる!
「練り上げろ『龍霊妖魔闘気』!!『真・煌猿の咆哮』っ!!」
白銀の兜が都合良く口の部分を開いてくれる。
私の口から練り上げられた強力な気の塊が、巨大な月すらも包み込むブレスとなって上空へと放たれた。
全身全霊を込めた私の集大成とも言える咆哮は周囲の音を全て奪う。
超高エネルギーの咆哮が月を丸ごと包み込むと、瓦解していた月を粉々に砕き、その赤きエネルギーを微塵も残す事なく消滅させる。
そして徐々に消えていくブレス。
薄く覆っていた雲すらも全て吹き飛ばしてしまった。
世界を照らしていた赤き光は失われ、清浄なる青き空が世界に描かれる。
「どうよ、私の必殺技……」
力尽きて落ちそうになるところを、ヴァイスさんのドラゴンの手が受け止めてくれた。
「正に常軌を逸してますね。私達の技要りました?」
「もちろん必要だったよ。月を完全に消滅させるには細かく砕いておかなきゃだったし」
動かない月相手だから出せる技だし、使ったら魔力も枯渇して危険極まりないから、もう使う機会も無いだろうけどね。
「相変わらずお前の技は出した後の事考えてねーよな」
「それを言わないでよ、ぼっちさん」
ぼっちさんの指摘する通り、いつも大技放った後にぶっ倒れて誰かに助けてもらってる気がする。
まぁそれだけ信頼できる仲間が増えたって事よね。
という事で後は誰かに託す……って訳にはいかないか。
魔力が回復し次第、天空王を討つ!




