245 空中戦
翼の無い3つの鎧が宙を舞い交錯する。
この世界で空を飛ぶには、基本的に魔力を浮力に変換する翼が必要となる。
しかしこの鎧達に翼は無かった。
正確にはこのうちの一つの鎧の中にいる者には翼が生えているのだが。
「ちぃっ!鬱陶しい!」
「これは凄いな。飛行速度まで跳ね上がって、地上にいる時と遜色無い動きが可能だ」
「ホントに凄いわね。これ程までにパワーアップさせる事が出来るスキルとか、世界中から狙われそうね」
「まったく、娘の成長は嬉しいけど、ちょっと心配にもなっちゃうよ」
軽口を叩きながらも、魔王の一角を相手取って不足無し。
伊達に二つ名を持っていない。
その二つ名がどれ程残念なものであったとしても。
「それにしても『疾風』って格好いいよな?」
「あら、『迅雷』だって負けてないわよ」
「なんであの子にはこの二つ名の良さが分からないんだろうな?」
「誰に似たのかしら?」
どうでもいい事に悩む余裕まである程だ。
足止めだけとは言え、攻撃がほぼ効かない神器『朱雀』相手に一歩も引かない。
「邪魔だぁっ!!」
天空王の鎧が唸りを上げる拳を奮うも、それをいなし、体勢が崩れたところに蹴りを入れて押し戻す。
決定的なダメージにはならないものの、鎧はそれなりにデコボコになっていく。
それを赤い炎の翼で修復してしまうので堂々巡りではあるのだが。
端から倒す気が無い2人は特に気にも止めない。
「雷撃が通じたらもっと楽なのに」
「それを言ったら風刃で切り刻めたら簡単に倒せちゃうよ。魔法が効かないんだからしょうがない」
さすがに神器だけあって魔法への抵抗力はかなり強い。
魔王クラスの本気の魔法であれば通じるかも知れないが、赤き月によって強化されている鎧にはそれも怪しい。
そこは諦めざるを得ないところであった。
「彼奴ら逃げたと思いきや上空へ行っただと?まさか朱雀の装備に気付いたか?どうせ使おうにも朱雀が無ければ起動できんというのに」
アイナ達が月へ向かったのは装備を奪う為だと思い込んでいる天空王。
それを見て夫婦は鎧の中でほくそ笑む。
(うちの娘を過小評価し過ぎだね。常識の範囲内で考えすぎだよ)
(まさか月を破壊しに行ってるなんて夢にも思わないでしょうね)
煌々と辺りを赤く照らす月がこの世界から消えるまであと僅か……。




