244 作戦
では作戦を決行するとしよう。
私は天空王にバレないように、今空にいる味方と念話のパスを繋いだ。
最近は慣れたもので、直接接触しなくても付近にいればパスを繋げる事が可能になった。
『あーテステス。聞こえますかぁ?』
『む?念話か?』
『聞こえるぞ』
『問題ありません』
「な、何だっ!?頭の中にアイナの声がっ!?」
「何これっ!?なんで頭の中にアイナちゃんの声がっ!?」
『こら、そこのポンコツ夫婦、声に出して喋るなっ!!これは味方だけに通信してるんだから、喋ったら天空王にバレちゃうでしょ!話したい事は頭の中で喋って』
こんな残念な夫婦の子供もさぞ残念な事だろう。
私やないかい……。
『これより、私と師匠とミミィとヴァイスさんで赤き月に向かいます』
『赤き月にある熱射線の元を奪取するのですね?』
『いや、たぶんあれは神器“朱雀”が無いと起動出来ないと思う。私達の目的は別にあるの』
『何をする気なんじゃ?』
『天空王の鎧は赤き月の影響を受けて強さが増す。だから月を破壊します』
『アイナ、マジで言ってるのか?頭おかしくなったのか?』
師匠とミミィとヴァイスさんは私の正気を疑っているようだ。
頭おかしくなってないからっ!
『マジです。赤き月からのエネルギー供給を断つには、月を破壊するしかない。師匠達と私の最大の技をぶつければたぶん破壊できると思う。ね、ぼっちさん?』
『そうだな。この世界の月は俺達の知る月よりかなり小さいから、元魔王達とアイナの攻撃力なら破壊も可能だ。但し体積はそれなりにあるから、かなり全力でぶっ放さないとだけどな』
前世の漫画で、月を見るとパワーアップする宇宙人が攻めてくる時、事前に月を壊しておいたって話があった。
月でパワーアップさせたくないなら破壊しちゃえばいいじゃない——という事で破壊します。
文学者が告白出来なくなろうが知った事ではない。
お団子は月が出なくても食う。
獣人族が巨大化出来なくなるのはちょっと困るけど、毒でなんとかするよ。
『でも、あの天空王が素直にそれを見逃すとは思えんが?』
『うん。だから、“疾風(笑)”と“迅雷(笑)”の2人には、少しの間だけ天空王の足止めをお願いしたいの』
『二つ名に悪意を感じるのは気のせいか?』
『なんか(笑)とか付いてそうなニュアンスに聞こえるんだけど?』
ちっ、さすが我が父と母。
微妙なニュアンスに勘付いたか?
『仮にも勇者の弟子なんだから出来るでしょ?』
『仮じゃなくて正式に勇者の弟子なんだよ』
『でも今の天空王は勇者でも手を焼くと思うわよ。元龍王より強い気がするし』
『大丈夫、そこは私のスキルでパワーアップしとくから』
『『えっ!?』』
若干不安げな夫婦のお尻に、私の毒針が突き刺さる。
「いだっ!?」
「きゃあっ!?」
これ以上両親がポンコツ化しないように、毒は一時的に魔力をブーストするだけにしてある。
永続的にしてアホになられたら困るからね。
でも一時的とは言え、二人合わされば今の天空王に匹敵出来る程魔力が高まるはず。
そして、それ程の毒を食らえば当然、
「「あばばばばばばばばば……」」
それなりに反動は来るよね。
「ア〜イ〜ナ〜?」
「ア〜イ〜ナ〜ちゃ〜ん?」
「……じゃ、じゃあお願いねっ!10分経ったら効果が切れるから、その時は逃げてね!」
父と母がなんか怖いので早々に離脱する。
「待てっ!!貴様ら逃がさんぞっ!!」
天空王は私達が逃げると思ったのか、炎の翼をはためかせて追って来ようとしていた。
そこへ私の愛する両親が立ち塞がる。
「後でお仕置きだな」
「後でお尻ぺんぺんよ」
不穏な言葉は聞かなかった事にしよう。
今は急がねばなるまい。




