243 二つ名
ハヤテさんとミカヅチさんがお父さんとお母さん?
ジャネスの仕掛けた罠に嵌まって世界最大のダンジョンの深層へ転移したまま行方不明だった両親。
それが何故偽名を使って他人のふりをしていたの?
何故直ぐに正体を明かしてくれなかったの?
疑問と不満が募って、素直に喜べない。
そんな私の顔を見て、二人は兜を外した。
その顔は確かに私の両親に間違い無く、申し訳なさそうに眉を下げていた。
「ごめんね、このタイミングまで正体を明かす事は出来なかったのよ」
「すまん。本当はもっと早くお前の元に駆けつけたかったが、理由があって龍王との闘いからしか関われなかったんだ」
龍王との闘いの時にあんなに私の事を心配してくれたのも納得がいった。
初対面にしてはおかしいなと思ってたけど、本当の両親だったんだもんね。
でも、ジャネスを警戒してたのなら分かるけど、娘の私にまで正体を隠す理由って何よ?
「理由って何?」
「う……すまん、それは言えない約束なんだ。でもいずれ分かる事だから」
事ここに至っても言えない理由ってもの凄く気になる。
正体を明かした後なのに私に秘密にするほどの事なの?
まぁ、いずれ分かるんならいいけど……。
それにしても、二人共何の魔導具も装備してないのに、どうやって空を飛んでるんだろう?
「あら、その顔はどうやって空飛んでるのか不思議って顔ね。このレプリカの鎧はかなり凄くて、飛行できる魔法が埋め込んであるのよ。重力が何たらって、私も良く分からないんだけどね」
レプリカなのに凄いんだなぁ……。
ひょっとして本物の神器であるこの鎧にもそんな機能が?
「あ、その神器は特にカスタマイズしてないらしいから、自分で飛ばないとダメよ」
えー、そうなの?
残念。
この神器に飛行能力を付けなかったって事は、もしかして白銀の人は自分で飛べる種族なのかな?
あれだけの強さでしかも飛べるって事は龍族なのかも知れない。
あの人もそのうち兜の下の顔を見せてくれるといいな。
などと話してると上空から高速で近づく者有り。
私達がいる位置より上にいるのなんてあいつしかいないけど。
「心地よい怨嗟の闇の気配がしたのだが、何故か掻き消えたな。麟器の持つ深淵に触れた筈だが、資質が足りなかったか?」
そんな資質いらんわ。
あの怨嗟を心地よいなんて言うって事は、こいつはもう闇に飲まれてるのかも知れない。
そうでなければ同族が残っている国に向けて砲撃なんて撃てないだろう。
人族への怨嗟は天空族全体のものかと思えば、ひょっとしたら天空王個人の恨みによるところが大きい?
過去に何があったか知らないが、その恨みが奴を天空王にしたのかも知れない。
ライズさんが天空族への恨みから勇者になったように……。
危うく私もその恨みの連鎖に巻き込まれるとこだったし、そんなろくでもない連鎖は何とか断ち切りたいものだ。
その為にも、天空王は絶対にここで止めなければならない。
「闇に飲まれるような奴の方が資質としては下の下だね」
「口だけは達者だな。……そこにいる二人は見た事がある。勇者の弟子だった奴らだな。そして、先日の円卓でその二人はお前の両親だと聞いた。まずはその二人を消して、お前にも闇の素晴らしさを教えてやろう」
「そんな事させないし、そもそも出来ないと思うよ。私の両親は世界最大のダンジョンから帰還する程強い上に、『疾風』とか『迅雷』なんていう痛い二つ名まで持ってるんだ。そう簡単にやられる訳が無い!」
「えっ……『疾風』って痛いの?格好いいと思ってたのに……」
「えっ……『迅雷』って痛くないよね?寧ろ格好いいでしょ?」
天空王と向き合う私の後ろで、両親が何か呟いていたが今はそれどころではない。
ここから第二ラウンドが開始されるところだ。
私達は天空王に対して構えを取る。
それを嘲笑うかのように天空王の鎧の背中から炎の翼が吹き上がった。
「赤き月が更に輝き、私に力を与えているのだぞ。貴様ら羽虫共にもはや勝機など存在しないのだ」
相変わらずこちらを見下す態度の天空王。
直ぐにその鼻っ柱をへし折ってやるからね。
出来ればこれは最後の手段にしておきたかったけど、もう天空王の鎧に攻撃が通るイメージが持てないし、やるしかないところまで来ちゃってる。
幸い、最後のピースが今到着した。
「おいアイナ、下の方までとんでもない砲撃が来たが、あれは何だったんだ?」
頭の上に竹とんぼ型魔導具を付けたシュールなライオンが地上から飛んで来た。




