024 気解放
「とりあえず気を使う見本を見せてもらってもいいですか?」
もちろん時間稼ぎである。
その間になんとかミミズ……もといワームを諦めて貰う作戦を立てないと。
「見本なんぞ見なくても硬いワーム殴ってれば、そのうち使えるようになるぞ?」
「それって獣人族だけでは?人族も使えるものなんですか?」
ナイスフォローだよルールーさん。
「勇者なんかは人族でも使ってるから、たぶん使えるだろ」
「基準!基準おかしいからっ!!ワタシフツウノヒトっ!!」
「獣王の腕輪を付けた時点でもう普通じゃないわ」
私は既に一般人の道から踏み外していたようだ……。
「まぁよい。じゃあやって見せるからよく見ておけよ」
そう言って師匠は、よくある少年漫画の主人公が力を高めるポーズで気合いを込めた。
「はあっ!!」
ドンっと衝撃波のようなものが私達を襲った。
錯覚ではなく、本当に圧が加えられたようだった。
そして、師匠の体を薄らと黄金の光が包み込む。
ライオンの時の師匠が黄金色に輝いてたのはこれのせいだね。
クリティカルポイントを探ってみると、何か流路のようなものも視えた。
あれが気の流れなのかな?
普通の人の流路もはっきり捉えられれば、毒針の効果ももっと上がるかも?
「どうだ?」
「何か凄いって事だけは分かりました」
でも気合い入れただけで出来たら、みんな出来ちゃうよねぇ。
特に体を鍛えてきた訳でもない私が、ミミズ殴ったぐらいで覚えれる気がしない……。
これは裏技を使うしかないね!
「ねぇ、ルールーさん」
「主様、私の事はルールーと呼び捨てにしていただいて結構です」
「じゃあ、ルールー。ちょっと思いついた事があるからやってみてもいい?成功したらたぶんルールーも気が使えるようになるから」
「……失敗した時は?」
「……さて、じゃあ準備を」
「ねぇ、失敗した時はっ!?目を逸らさないで主様っ!!」
前世の知識からいくと、気を遣うには気穴を開く必要があるって何かの漫画で読んだ。
この世界の気がそういうものかどうかは分からないけど、私のファンタジー毒なら多少の不合理もイメージで覆せるかも?
「ちょっとチクッとしますよー」
「主様、やる前に説明をお願いします」
「はーい、ちょっと我慢してねー」
「説明ーー!!説明を求むぅーーっ!!」
ルールーの二の腕に気穴を開くファンタジー毒を打ち込む。
「あばばばばばばばば」
あれれー?おっかしいぞー?
「おい、これ気が溢れ出してるだけじゃぞ?気の流れが制御できないと干からび……」
「え?マジっ!?やばっ!気の流れを制御する毒生成っ!!」
「ぷひゅー……」
ルールーがその場に崩れ落ちた。
「……あーるーじーさーまー?」
上目遣いでこっちを睨むルールー。
ごめんね。
でもいきなり自分で試すと、何かあった時にリカバリー出来ないじゃん?
ルールーのクリティカルポイントを視ると、師匠のものと同様に流路が明確になっていた。
「せ、成功したし……おk?」
「おk?……じゃ、ないですよおおおおおぉっ!!」
「ごめんってば。で、どう?」
「どう、と言われても……んんっ!?なんか凄く力が漲っている!?」
よしよし。
まずは気穴を開いて、次に気の流れを制御させれば気を解放できるのね。
「お前のスキル、ぶっ壊れてんのぉ。気を使える戦闘員を量産できるとか、世界中から狙われるぞ」
「なるほど、伯爵が主様に執着していたのはこういう訳ですか……」
え?伯爵から侯爵にランクアップしたと思ったら、今度は世界から狙われちゃうの?
勘弁してください……。
「な、内緒でお願いします……」
「まぁ我も今は世間に顔を見せられんでな、話そうにも話せんわい」
「元より忠誠を誓った身。絶対に漏らしたりしません」
ならひとまず安心かな?
ルールーはあれだけやってもまだ忠誠誓ってくれるんだ。
盗賊よりは忠誠心あるのかな?
じゃあ、自分にも気解放ファンタジー毒を打ち込んで……
「あばばばばばばばば、ぷひゅー……」
崩れ落ちる私……。
何これ……、失敗したらアホになりそうな程やばいんですけど!?
っていうか、たぶん才能無い人にやったらアホになる!
ルールーは才能があったみたいで良かったね。
私もなんだかんだ才能あったみたいだ。良かった。
「よし、気が使えるようになったどー!!」
「よし、じゃあワーム殴って試してこい!!」
結局行くんかいっ!
この物語はファンタジーです。
実在する気解放ファンタジー毒とは一切関係ありません。




