239 天空王の神器
落月。
月が落ちてくるというこの世界独特の現象。
空を飛べる者は月に降り立つ事も出来るとか。
それを天空王は既に実現しているようだ。
「天空王は月にいるみたい」
「え?月?」
皆が月を見上げる。
でもまだかなり距離があるから、肉眼では見えないと思うよ?
「あの鎧みたいなのがそうなの?」
「なるほど、確かにおるわい」
ちょっと、勇者達の肉眼どうなってんの?
私でもクリティカルポイントで辛うじて人型に視える程度なのに。
何にせよ居場所が判明したなら向かうしか無いね。
私は翼を広げて月へ向かって飛び上がった。
それに続くように、ミミィとヴァイスさんも天空族の国から飛び立つ。
「レイアさん、勇者達の事は任せた」
「承知しました」
レイアさん、勇者の弟子なのに魔王に対しての方が従順なのはいいの?
とりあえずもう天空族の国からは戦闘系の天空族が出てくる気配は無いのでこっちは大丈夫だろう。
飛び上がったはいいけど、意外と月まで距離がある。
地上から天空族の国までよりも数倍遠かった。
当然それだけ長い事月に向かって飛んでいれば、相手にだってそれは察知されてしまう。
向かう先の一点から高熱源が発生しているのを感じた。
「あれはヤバいっ!」
言った瞬間、熱源から私達3人を覆い尽くすような熱射線が放たれた。
しかし瞬時にぼっちさんが時間停止魔法を展開。
その間にミミィとヴァイスさんを私が掴むと、そのまま転移魔法で熱射線の射線外へ瞬間移動した。
転移した先から熱射線を見れば、かなりの広範囲を高威力で貫いていた。
さすがに地上までは届いていないようだったが、私達のいた位置までは威力が減衰せずに通過していたと思う。
「ぼっちさん、ありがとう」
「今のはヤバかったからな。魔力をかなり消費したけど大丈夫そうか?」
「白銀の鎧のお陰でかなり回復してるからまだ大丈夫だと思う。でもあれを連射されたら拙いね」
「あの出力を連射出来たら世界は終わりだな」
そして我に返ったミミィとヴァイスさんが声を上げる。
「むおっ!?あれ?今攻撃を食らったと思ったのに?」
「くっ!?え?攻撃が来たはずでは……?」
「ぼっちさんが時間停止してくれたから回避出来たよ」
「時間停止じゃと!?アイナはそんな事まで出来るようになっていたのか?」
「さすがはアイナ様ですね」
あ、何かぼっちさんが拗ねてる気配が……。
「俺は所詮武器だからな……」
「あわわわ!わ、私じゃなくてこの武器!ぼっちさんが凄いんだからねっ!!」
ミミィとヴァイスさんはいまいちぼっちさんの凄さが分かっていないらしい。
時間停止とか転移とか収納とか、色々凄いんだよ!
などとやってたら、月の方で魔力の高まりを感じた。
そしてそれが高速でこちらに向かって飛んでくる。
「散開っ!」
私達がその場を離れるように飛ぶと、それまで私達がいた場所を紅色の塊が通過した。
まだかなりの距離があった筈なのにほぼ一瞬でここまで飛んで来た。
私達がいた位置よりも上からだったので重力加速出来たとはいえ、かなり速かったと思う。
なるほど、あれが搭乗型の神器か……。
「脆弱な羽虫諸君、ようこそ我が空へ」
なんか尊大な話し方になっているなぁ。
我が空とは大きく出たね。
「天空族が空の支配者だと言わんばかりだけど」
「当然だろう?この神器『朱雀』を纏った私に勝てる筈も無い」
搭乗型って聞いてたけど、纏うって括りなの?
鎧の全長は5mぐらいだ。
どう考えても乗ってるよね?
いや、中はコックピットじゃなくて全身とリンクする生体反応型のコントロールなのかも知れない。
それなら纏うでいいのか。
「おいアイナ、どうでもいい事考えてる場合か?」
ぼっちさんに注意されてしまった。
確かにどうでも良かった。
いずれにしろ倒さなきゃいけないんだから。
丁度私と対角にいるミミィが、背後から天空王の神器に殴りかかった。
闇属性の魔法を掌に纏って放つ『暗黒爆裂掌』だ……って、射線上に私もいるんですけどぉ!?
「くらえっ!!『暗黒爆裂掌』っ!!」
私は回避しなきゃと思ったけど、その必要は無かった。
朱雀という名の神器は、背中から翼のような赤い炎を吹き出し、ミミィの『暗黒爆裂掌』を完全に食い止めてしまったからだ。
「なんじゃとぉっ!?」
聖域すら破壊する『暗黒爆裂掌』を止めるなんて、かなりの防御力を秘めているみたいだ。
そして次の天空王の言葉に耳を疑う。
「今、何かしたか?」
誰もが言ってみたいあの台詞を言いおった!?
くっ、私もあの鎧纏って言ってみたい!!
どうやら天空王を倒す理由が増えてしまったようだ。
この物語はファンタジーです。
実在する朱雀とは一切関係ありません。




