238 天空王の居場所
戦う前から満身創痍の勇者達。
そんなんで大丈夫なの?
「誰のせいだと思ってるのかしらぁ?」
キャサリン姉が恨めしそうな眼で見てくるけど、それはもちろん天空族のせいよね?
「それより、時間制限があるから早めに殲滅してね。効果切れ後のインターバルがあるわけじゃないから延長も可能だけど、打つ回数が増えればそれだけアホになる確率が上がるよ」
本当は大元の魔導具を止めれればいいんだけど、どういうものか分からなきゃ止めようがないし。
私の言葉を聞いた勇者達は、いつになくやる気を漲らせて天空族へ向かって行った。
やる気があるのはいい事だね。
最前線で戦っているミミィとヴァイスさんは、思ったより苦戦していた。
敵の数が多い上に、立体軌道から攻撃してくるので手を焼いているみたい。
2人とも飛べるけど、仮にも天空を名乗る種族だけあって空の攻撃は向こうに分があるようだ。
私は空中に透明な足場を毒で生成して跳び、宙を飛び交う天空族を地面に叩き落としていった。
それをレイアさんとミミィとヴァイスさんが無力化していく。
我ながらなかなか連携の取れた動きが出来ていると思う。
と余裕ぶっていたら、急に強い流路を持つ天空族達が宙を飛び回る私に襲いかかってきた。
なんとか攻撃を躱わすも、連続で追撃されて他への援護が立ち行かなくなってくる。
「どうやらあなたが主戦力のようですね」
「そう言って貰えるのは光栄だね。でも勇者達が復活した今、私にばかりかまってていいのかな?」
下では天空族をなぎ倒す勇者達の姿が。
ジっちゃんは大きな戦斧を振り回し、天空族を寄せ付けない。
キャサリン姉は高速で天空族に近づき、的確に急所を打ち抜いて無力化している。
リスイ姉は無詠唱で魔法を展開して、遠距離の天空族を撃ち落とす。
カク爺は時々消えてるから、たぶん時を止めて攻撃してるんだと思う。
マル婆は空間を歪めて空から地上に引きずり下ろして無力化していってる。
それぞれ特色ある闘い方だが、皆かなりの戦闘力を持っているね。
それを見た強い天空族達も若干焦りを見せ始めた。
「くっ!早くこいつを片付けないと!」
焦って攻撃が雑になってきた。
私はチャンスとばかりに毒を生成して飛ばす。
実は何の変哲も無い見かけだけの毒なので、当たっても影響は無いんだけど、初見でそれが何か見極める事はほぼ不可能。
案の定それを避けてバランスを崩す天空族達。
その隙を逃さずに順次撃墜していった。
粗方空を飛んでいる天空族を片付けたところで、勇者達の毒の効果が切れて次々に膝をついていく。
「キャサリン姉、追加毒いる?」
「とりあえず今はいいわ。相手の後続が来たらお願いするかもだけど。本音を言えば、それよりも大元の魔導具を探してほしいわね」
確かにその方がいいのは分かってるんだけど、今は探す手段が無いから無理だねぇ。
一先ず外に出て来ていた天空族はほぼ無力化した。
でもその中に天空王はいなかった。
まだ様子見してるのかな?
あるいは何かを待ってる?……って月か!
赤い月の影響力が最大になるのを待ってるんだとしたら、早く叩く必要がある。
私達にはどの時点が最大なのか分からないけど、天空王はきっとそれを知ってるのだろう。
私は天空族の国の内部にいる者のクリティカルポイントを探った。
天空王のクリティカルポイントは円卓の会議の時に見たから覚えている。
しかしいくら探しても、天空族の国の内部からは天空王のクリティカルポイントは見つけられなかった。
「え?外出してるの?勇者が攻めて来てるこの時に?」
「どうした?天空王の居場所を探したんだろ?」
「うん。でも何故か見つけられなかった」
ぼっちさんにも天空王の居場所を探ってもらったけど、やはり同様に見つけられなかった。
隠密系の魔導具でも、私のクリティカルポイントを視る目からは逃れられないはずなんだけどなぁ?
ただ、ライズさんクラスの隠蔽するスキルで偽装されたら発見出来ない可能性はある。
現に今もライズさんの居所は掴めないし。
でも、今天空王が隠れる意味なんてあるんだろうか?
さすがに勇者が5人も攻めて来たから逃げたとも考えられるけど、『赤き落日』なんて作戦まで立ててた奴が逃げるとは思えない。
そう思ってふと上空に赤く輝く月を見上げた。
「どんどん月が不気味な色に染まって……って、そこかああああああっ!?」
「何だっ!?どうしたっ!?」
私が叫んだ事で、周囲の皆の視線を集めてしまった。
そりゃ叫びたくもなるよ。
天空王——月にいるんですけどぉ!?




