237 天空族の国へ上陸
え?今師匠が飛び降りて来なかった?
翼も無しにあの高さから飛び降りるって、どんな心臓してんのよ?
着地寸前で獅子の咆哮でブレーキ掛けたみたいだけど、一歩間違えば激突するぐらい際どいタイミングだったし。
無茶するなぁ……。
どうやら私が恐怖を与え過ぎたせいで帝国兵が撤退を始めたから、慌てて殲滅しようと飛び降りて来たようだ。
本来は元不死王と元魔導王で足止めしてる間に天空王を討伐して、それから人族の軍を蹴散らす予定だったけど、それがちょっと早まっちゃったし。
まぁ師匠一人抜けたところで空の方に支障は無いと思うけど。
「アイナ、ダジャレ言ってる場合じゃねーぞ。上の方の勇者達の様子がおかしい」
ぼっちさんに言われて空の流路を探ると、確かに勇者達だけ何か弱ってるように見える。
麟器を停止する魔導具があるぐらいだから、勇者の証に作用する魔導具があっても不思議じゃない。
地上の方は師匠がいるから私はもう空に上がっても問題無いか。
そういえば、ライズさんの気配が消えてるんだよねぇ。
まだ何か企んでるのかな?
目的は天空王だろうから空を目指すと思うんだけど、今空に上ったら勇者の証を持つライズさんも弱る可能性がある。
どこかでひっそりと様子見しててもおかしくないか。
警戒しといた方がよさそうだね。
「じゃあ私は空に上るね」
「承知しました」
「俺も後で行く。それまでに天空王は片づけておけよ」
元魔導王は簡単に言ってくれるなぁ。
天空王だって仮にも魔王の一角でしょうに。
それに例の神器とやらもあるから、そう容易い事ではないと思う。
空に浮かぶ月が赤みを増して落ちて来ている。
あれがどれほど天空族に力を与えるのかだって未知数なのだから。
私は龍化して翼を広げる。
現在リビングデッド状態だからか、翼が何か禍々しい形状になってしまっている。
それ以外はいつもの猿だけど。
まぁ今更外見には拘らないし。
私は翼に魔力を込めて、天空族の国に向けて飛び立った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
既にレーザーによる攻撃は無力化してあるので、あっさりと天空族の国の上面に上陸出来た。
なにやら近代的な金属の建造物が並ぶ凄い光景が飛び込んでくる。
一見したところ居住区らしきものは無いけど、内部の方に居住空間があるのかな?
空飛ぶ大陸を実現する程の技術力だし、全天候型の居住施設ぐらい持っててもおかしくないよね。
私はクリティカルポイントを探って、皆がいる場所へと向かう。
そこでは、レイアさんとミミィとヴァイスさんが主に闘っていて、勇者達は防戦一方でジリジリと後退していた。
やはり勇者達の流路に乱れがあるので、何らかの攻撃を受けているのだろう。
「ぼっちさん、何が起きてるか分かる?」
「うーん、観測はできんが予想としては例の『麟器停止装置』と同様に『勇者の証停止装置』みたいなもんが起動してるってとこだろうな」
「ジャミング出来ないかな?」
「無理だ。俺の所有者は『勇者の証』を持ってない魔王だから、何が起きているのか感じる事すら出来ない」
そっか、私が勇者じゃないから無理なのか。
それはどうする事も出来ないよね……通常であれば。
でも私は異常だから何とか出来ちゃうのだ。
って自分で言ってて悲しくなるわ!
私はとりあえず勇者達の側に降り立ち、攻撃して来ていた天空族達を排除した。
「助かったわアイナちゃん。何か勇者を弱体化させる魔導具が使われてるみたいなのよ」
「まったく不甲斐ない限りじゃ。魔導具を使ってギリギリ闘えてる程度とは」
確かに本来の勇者達の力を持ってすれば、普通の天空族に後れを取る事なんてないだろうし。
「私が来たからには何とでもなるよ。ちょっと毒を注入するだけで」
「ちょっとアイナちゃん、私達に何する気?」
「だからちょっと毒を注入するだけだよ。それで勇者の証に外部から干渉出来なくしちゃうの」
「毒ってのがもの凄く引っかかるんだけど……」
「大丈夫だよ。失敗したらちょっとアホになる程度だから」
「受け入れ難いっ!!」
そうは言っても、後遺症が出ないタイプの毒を生成すると魔力消費量が多くなっちゃうし、緊急時だからちょっとアホになってしまうかも知れない程度は受け入れて貰わないと。
と思ってたら、前線で闘っていたレイアさんが、後方へ跳躍する形で勇者達のいるこちらへと跳んで来た。
そしてジっちゃんを後ろから羽交い締めにする。
「アイナ様、このクソジジイは多少刺激を加えた方がまともになると思うので、ひと思いにやっちゃってください」
「ぬおっ!?レイア、師匠である儂がアホになってもいいのかっ!?あと羽交い締めするならもっと胸を押し付けるようにっ!」
「既に救いようがねーんだよ、クソエロジジイっ!!ちょっとアホになるぐらいの方がいいわっ!!」
いったいこの2人に何があったんだろう?
でも丁度良いので、羽交い締めされたジっちゃんに毒を打ち込んだ。
「ぎゃああああああっ!?何か体中が燃えるように熱いんじゃがあぁっ!?」
数秒悶えてたジっちゃんだが、直ぐに衝動が収まったようで普通に戻る。
「ぜぇぜぇ……これは危険じゃ。ホントにアホになりかねん。じゃが、確かに勇者の証が仕えるようになった感覚はある」
「ちなみに10分経ったら元に戻るから注意してね」
「たった10分しか持たんのかっ!?代償がデカすぎる気がするんじゃが……」
私はジっちゃんの言葉をスルーして他の勇者達に向き直る。
そのジっちゃんの様子を見ていたキャサリン姉は、心配そうに眉を寄せた。
「あ、アイナちゃん……それ、どうしてもやらなきゃダメかしら?」
「現状勇者達の戦力が無いと厳しいと思うからやらなきゃダメだよ。大丈夫、今のところ本当にアホになった人はいないから。ちょっと信仰が変わった人はいるけどね」
「それ全然大丈夫じゃないやつっ!!」




