236 勇者達上陸
天空族の国の下方で攻めあぐねていた勇者達は、急に止んだレーザーの雨に困惑する。
「どうして攻撃が止んだのかしら?」
「罠?」
「そうだとしても、抜けるなら今しかあるまい」
警戒しながらも、時を置けばまた攻撃が再開されるかもしれないと、正面突破することを選択した。
しかし、罠などは一切無く、あっさりと天空族の国へと上陸を果たし、勇者達は拍子抜けした。
「奇妙な事が起こる時ってのは、あの子が関わってる気がするのよね」
「あり得る。アイナは特異点とか呼ばれてるらしいし」
「でも、アイナちゃんの気配は地上の方から感じるのよねぇ。妙な気配に変化してるのは気になるけど」
「アイナが妙なのはいつものこと」
姉達に言いたい放題言われる特異点は今、一仕事終えてアストラル体を地上へ帰還させていた。
勇者達は、上陸したはいいが戦闘になりそうな動きが今の所無い事に違和感を覚える。
早急に内部へ侵入したいところではあるが、ある程度は外部でも迎撃して無力化しておきたかった。
そこへやや遅れて到着した元魔王達が俄かに騒ぎ始める。
「帝国の奴ら、撤退を始めたではないか!足止めと言うから我は先に空に登ったのだぞ!せっかく帝国軍の本体が出張って来とるんだから、我は叩いてくるぞっ!!」
「おい待てシルヴァ。お前さん一人では飛んで来れないじゃろ」
「ライズの分の飛行魔導具があっただろ?それ貸せ!」
元獣王シルヴァは、一つ余っていた飛行魔導具をひったくるように掴むと、天空族の国から身を翻した。
「ぬおっ、落ちおった!?」
「重力加速で飛行魔導具の浮力を上回ってしまうぞ!?」
しかし元獣王は、減速するどころか体を真っ直ぐに伸ばし、更なる加速を試みる。
そして地上まであと僅かというところで獣化し、ライオンの姿へ変化すると同時に地上へ向かって口を開いた。
「『獅子の咆哮』っ!!」
逆噴射のように放たれたブレスは、地面を大きく抉ると同時に、元獣王の落下速度を弱める事に成功した。
くるりとネコ科特有の動きで回転しながら着地するライオン。
一見可愛くも見えるが、その正体を知っている帝国兵達は騒然とした。
「じゅ、獣王だあああぁっ!!」
撤退する軍の目の前に、さも逃がさんとばかりに立ち塞がった元獣の王。
その佇まいだけで弱い兵などは身を竦ませる。
前門のリッチ後門の獅子。
帝国兵達は撤退すら許されない状況に絶望した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もともと連携等はあてにしとらんが、勝手が過ぎるのぅ」
カク爺は元獣王の突飛な行動を非難する。
そこへ元闇王ミミィがめずらしく庇うように反論する。
「仕方なかろう、あやつにとって帝国兵は自国に攻め込む仇敵じゃ。妾にとっては食糧だがな」
「それはそれでどうなんじゃ?」
余計な一言に呆れたように呟くカク爺。
そんな悠長なやり取りをしていられたのもそこまでだった。
天空族の国の上面は堅固な要塞のように全体が金属の人工物で覆われているのだが、その突き出た一角の鉄の扉が突然開き、天空族が数人中から出て来た。
「勇者であってもここまで来れるのは半分程度と予想していたのですが、全員無傷で上陸されてしまうとは……。ですがあなた方が勇者である時点で、既に敗北は決しているのですよ」
一人の天空族が前に出て見下すような目を向けてくる。
その天空族には、皆見覚えがあった。
円卓にて天空王の従者として付き従っていた者である。
つまり、天空族の中でもそれなりの地位にあるという事だろう。
それ程の人物が出て来たという事は、既にかなり大規模な作戦が決行されようとしているという事。
勇者達は即座に警戒するが、そんな事はお構いなしにそれは起こった。
「ぬぅっ!?力が抜ける……?」
「これは何かの魔導具が発動してるっぽい」
「勇者にだけ効果がある仕掛けのようだね……」
突然その場にいる勇者達5人が膝をつく。
狙ったように勇者だけが攻撃を受けているが、何故そうなっているのかは魔導具の専門家であるマル婆にも理解出来なかった。
「対勇者砲は何者かによって阻止されてしまいましたが、対勇者用装備は他にも用意してありますよ。しかし、数名勇者ではない者もいるようですね。何の目的でここへ来たのでしょうか?」
この場にて膝をつかずに平然と立っている者は3名。
一人は勇者ジオの弟子、閃紅姫レイア。
「私はジジイのお守りだ。まだ勇者ではないので、正直天空王などどうでもいい」
一人は元闇王ミミィ。
「妾は親友が助けを求めたから来ただけじゃ。天空族の血にはちょっと興味があるが、天空王とかどうでもいい」
一人は元龍の女王ヴァイス。
「私は主であるアイナ様の命にてここまで来ただけです。主命には従いますが、個人的には天空王とかどうでもいいです」
三人共に、自分の仕える主を『どうでもいい』と断ぜられた天空族は額に青筋を浮かべた。




