235 侵入
私は頃合いを見てG(コーヒー毒)を消し、目を開き状況を確認した。
聖騎士達は全員泡を吹いて気絶してしまったようだ。
「教皇国の教典に付け足しておきなさい。『一寸の虫にもゴキの魂』ってね」
このG型毒ならきっと龍族にも効果がある筈だ。
今度試してみよっと。
一先ずやる事を終えた私は元不死王と元魔導王がいる後方へと戻る。
「見えない壁は排除して来たよ」
「……ついでに帝国兵も撤退し始めて、俺達のやる事が無くなった訳だが?」
後ろを振り返ると私が攻め込んだ先だけでなく、広く展開していた全ての帝国兵が下がって行ってた。
Gが予想以上の効果を発揮してしまったようだ。
「結果オーライ?」
「全然オーライじゃない。お前が無駄に魔力を使う事になっただろうが」
あら?元魔導王ったら、私の事心配してくれてるの?
「作戦に支障が出て『天珠華』が手に入らなくなったらどうするんだ?」
全然違ったし。
こいつブレないなぁ……。
「アイナ様、この後空へ向かうかと思いますが、先行した勇者達は思いのほか苦戦しているようで、まだ天空族の国に上陸出来ていません」
元不死王が見上げた先には、天空族の国から放たれるレーザーを回避する集団が視えた。
レントちゃんが作った積乱雲によって減衰しているとはいえ、砲撃の数が想定していた以上に多い。
私を狙ってた時は全砲門を開いてた訳じゃなかったようだ。
あの数の中は、さすがに時を止めたりでもしない限り抜けられないだろうね。
まだ上陸すらしていない段階では、カク爺も魔力を温存する為に時を止めるスキルは使ってないようだ。
でもこのままだとジリ貧だよね。
「じゃあ今度はそっちを何とかするよ」
「おい、またお前がやるのか?余計に魔力を消耗するだろうが」
元魔導王が静止するけど、魔力は使わないから問題無い。
「大丈夫、ちょっと触ってくるだけだから。私の本体を守っててね。リモートで操作は出来るけど、強い敵が相手だと闘うのは難しいから」
「アストラル体を飛ばすのですね。お気を付けて」
元不死王は経験者だけあってリッチの行動をよく理解しているようだ。
私はアストラル体を飛ばして天空族の国を目指す。
霊気を高めていない状態だと認識されないようで、私へ向けてレーザーは放たれなかった。
時々流れ弾のようなレーザーが目の前を通り過ぎて行く。
たぶん半分実体化したらダメージ受けるだろうけど、アストラル界側にいる魂状態なら通り抜けちゃうんじゃないかな?
でも怖いから自ら当たりには行かないけど。
そうこうしているうちに天空族の国に辿り着いてしまった。
アストラル体、超便利。
「さて、入口はどこかな?」
あちこち見て廻ったけど、どうやら下側には入口らしき場所は無かった。
そりゃそうよね。
敵は主に下から来るだろうから、そっち側に出入り口なんて付けたら危険だし。
そもそも私アストラル体なんだから壁とか関係無いし、すり抜けちゃえばいいだけだった。
岩肌と金属が入り交じったような底面をすり抜けると、そこは近未来の宇宙ステーションのような通路になっていた。
壁、天井、床を研磨された金属で囲まれているだけで、天空族の技術の高さが窺える。
伊達にレーザーのような地上の技術力を凌駕する兵器を作ってないね。
通路に沿ってふよふよと飛んで行くと、何度も分岐路に行き当たった。
まるで迷路のようで、いつまで経っても目的地に辿り着けない。
「これは侵入者を惑わす作りになっているから迷ってるんだね、きっと」
決して私が方向音痴だからではない。
ないったらない。
面倒なので、クリティカルポイントが集まる場所まで壁をすり抜けて行く事にした。
迷路アトラクションじゃないからズルじゃないもん。
そして、いきなり当たりを引いた。
さすが私、日頃の行いが良いからだね。
キャサリン姉に怒られた後はちゃんと反省するし。
そこでは指揮官らしき天空族が各所に指示を出していた。
「レーザーが減衰して速度が落ちる為、的を捉え切れません」
「細いレーザーでは限界があるな。相手は勇者だ。出し惜しみせずに行くぞ」
「では『対勇者砲』を使いますか?」
「ああ。準備に入れ」
たぶん私が帝国で食らったアレが『対勇者砲』なんじゃないかな?
かなりのエネルギー量だったし、あれが放たれたらいくら積乱雲で減衰すると言っても危険だ。
そんなもの使わせる訳にはいかない。
でも霊気を高めて実体化したら騒ぎになって警戒されちゃうか……。
指先だけ霊気を集めたら指先だけ半分実体化出来ないかな?
試しに霊気を指先に込めたら、指先だけ半分実体化した。
これならバレずに触れるぞ。
「『対勇者砲』出力チャージ20%です。っぎゃあああああああっ!!」
あ、気絶する時に叫び声を上げたらバレちゃうじゃん!
「な、何が起きたっ!?」
まだ私がいるって事は理解してないみたいだし、今のうちに全員やっちゃおう。
「ぎゃああああっ!!」
「どうしたっ!?うわあああああっ!!」
「こ、攻撃を受けてるぞっ!!警戒し……ぎゃあああああっ!!」
次々に気絶させて行き、部屋の中に居る天空族達は全員無力化出来た。
それと同時に外の砲撃も止んだようで、勇者達が天空族の国へ近づいて来るのが感じられた。
この物語はファンタジーです。
実在するコーヒーとは一切関係ありません。




