234 聖騎士
これで帝国兵は全て撤退するかな?と淡い期待を抱いたが、逃げる帝国兵達とは逆流するように煌びやかな鎧の集団がこちらへ向かって来た。
たぶん教皇国の聖騎士だろう。
帝国兵に対してその数は十数名と少ないが、それなりの強さは感じられる。
魔王相手でも怯まずに挑んでくる気概には感心するよ。
「恐れるな帝国兵よ!アンデッドなど、我らが聖属性魔法の前では虫ケラ同然!」
虫嫌いの私を虫ケラ呼ばわりするとはいい度胸だ。
撤退を始めていた帝国兵も足を止める。
私を取り囲むように聖騎士達は展開し、次々に聖属性魔法を放って来た。
その威力は、舞い上がる土煙に私の体が覆われて見えなくなる程である。
「やったか!?」
もちろんやってないよ。
私の体は聖属性魔法を全て弾き返していた。
いやこれ、私の体じゃなくて白銀の鎧が弾き返してるのかも?
魔法防御の高いリッチではあるが、普通の魔法ならまだしも聖属性魔法はあかんと思うし。
「ば、ばかなっ!アンデッドなのに聖属性魔法が効かないだと……!?」
驚愕に目を見開く聖騎士達。
私は本体へのダメージが無いようなので、再びアストラル体を分離し聖騎士達に向けて飛ばした。
そして、霊気を込めて聖騎士の腕を掴もうとしたが……、
「痛あっ!?」
白く輝く聖騎士の鎧にアストラル体が触れた瞬間、焼けるような痛みが私を襲った。
酸でも浴びたようにアストラル体の右手がズタズタになってしまう。
「我らが聖なる鎧に触れようとしたな?この鎧は聖水によって清められているのだ!悪しき者が触れればその身を焦がすぞ!ふははははっ!!」
急に勝ち誇ったように高笑いを上げる聖騎士。
聖属性魔法が効かなくてビビってたくせに。
それに、誰が悪しき者よ!
邪な心を持ってるのはぼっちさんだけなんだからねっ!
「おい、誰が邪だ!?いいかげん『性剣』っていう汚名を改名しろ!」
だって性剣でしょうが。
なんてふざけてたら、聖騎士達は本体を攻撃出来ないからってアストラル体の方を狙って来おった。
「あぶっ!危なっ!!」
辛うじて聖属性魔法を避けて、アストラル体は本体に帰還した。
無敵に思えたアストラル体も、聖水とか聖属性魔法には弱かったんだね。
触れるだけで無力化出来るのは効率良かったんだけど、直接魂を攻撃されるのは怖いから本体で闘う事にしよっと。
「やはり奴は聖属性に弱いぞ!手持ちの聖水を武器にかけて闘え!」
ふむ、確かに闇属性と聖属性は相克の関係にあるのだろう。
でも必ずしも闇が聖に負けるとは限らないんじゃないかなぁ?
ミミィの『暗黒爆裂掌』で聖域を破壊出来た訳だし。
「では聖より強い闇を召喚して差し上げよう」
地面から人型の闇が召喚されたかのように立ち上がる。
それを見た聖騎士達は、不死王の眷属か何かだと思ったようで警戒の色を強めた。
まぁコーヒー(毒)なんだけどね。
「この闇にはお前達の脆弱な聖魔法や聖水など効かんぞ」
なんせただのコーヒー(毒)だから。
「はったりを!行くぞ!!」
聖騎士達は聖水を振りかけた剣を人型の闇に叩きつける。
一瞬切り裂いたように見えても、何事も無かったかのように闇は元の姿を復元した。
何度切っても、聖属性の魔法をぶつけても、人型の闇は何事も無かったかのように歩を進める。
「な、何故だっ!?何故聖属性が効かないっ!?」
それはコーヒー(毒)だからだね。
さて、いつまでもこんな事して遊んでられないのよ。
私は一酸化炭素(猛毒)を生成して、聖騎士達が吸い込むように周囲に漂わせた。
それまで元気に動いていた聖騎士達が、次々に倒れ始める。
「な、何が……?体が急に動かなく……」
その姿を遠巻きに見ていた帝国兵達が呟く。
「の、呪いだ……。リッチの呪いは聖騎士の聖属性を上回るのか……」
恐怖が伝播し、再びジリジリと後退し始める帝国兵。
でもこれで終わりじゃないのよ。
今まで人型だった闇(コーヒー毒)はバラバラと小さな粒に変わり地面へと落ちていく。
そしてその粒からはおぞましい足と触覚が生えてくる。
前回、龍王国で龍族相手に効果が薄かった芋虫型毒を反省し、新たな虫型を生み出した。
芋虫は地域によっては食す文化もあるからね。
しかし、出来ればこれを使いたくは無かった……。
数ある嫌いな虫の中でもダントツ1位に大っ嫌いな虫だから。
存在自体に怖気が走る。
「ひ、ひいいいいいっ!!」
その悲鳴は果たして聖騎士だけのものだっただろうか?
いや、実は自分で生成しておきながら私も悲鳴をあげていた。
そのおぞましき姿を持つ虫『G』が蠢いているのだから。
いつもは口から這い入るだけだったが、より心を折るために鼻の穴からも侵入するようにした。
「ぎゃああああああっ!!」
「だ、だずげでええええっ!!」
「いやだああああああっ!!」
逃げようともがく聖騎士達に這い寄るG(コーヒー毒)は、見ているだけで吐き気を催す。
でもちゃんと見て操作しないとダメよね。
いや待てよ?
クリティカルポイントで相手の位置は分かってるんだし、見る必要無くない?
私は目を閉じ、おぞましいGの姿を見ないで毒を操作する事にした。
帝国兵達はそのあまりの光景に言葉を発する事が出来なかったようで、耳に届いたのは聖騎士達の阿鼻叫喚の声とカサカサと蠢くGの足音だけだった。
この物語はファンタジーです。
実在するコーヒー及び一酸化炭素及びGとは一切関係ありません。




