233 リッチ無双
気も魔力も使っていないのに、瞬発力が異常な程高まっている。
これが霊気の力か……。
「あんまり調子に乗りすぎるなよ。リビングデッド状態のせいで、力が限界を超えてても感じ辛くなってるからな」
「あぁ、それでいつもより力出せちゃうのか。体への反動はどれくらいありそう?」
「今の出力で120%ぐらいだから、もうちょっと落とさないと体に負荷がかかり続けるぞ」
ぼっちさんの忠告に従い、少しだけ霊気を抑える。
まだアストラル体から霊気を発するのに慣れてないから加減が分からないんだよね。
ほとんど一瞬で帝国兵の間近まで接近出来ちゃった。
「なっ!?なんだこいつはっ!?一瞬で間合いを詰めて来たぞっ!!」
「鑑定班っ!早く鑑定をっ!!」
「『鑑定』!!……なっ!?不死王——『リッチ』ですっ!!総員警戒をっ!!」
おや?鑑定使える人がいるようだね。
私は普通のリビングデッドではなく、既にリッチになってしまっているようだ。
ちょっと軽く撫でる程度に攻撃してみようとしたけど、当然の如く私の行く手を見えない壁が阻んだ。
普通に殴ってみたけど、やっぱり腕力では壊せそうに無いね。
スキルで破壊しないとダメかぁ……。
でも全部のバリアに対してスキルを使ってたら魔力の消耗が激し過ぎるし。
うーん、どうしよっか?
「ぼっちさん、壁自体にジャミングって出来る?」
「これは無理だな。魔素自体も遮断してるタイプの壁だから、お前のスキルみたいになんでも有りの攻撃じゃないと通らないぞ」
ジャミングすら出来ないのか。
壁の向こう側に転移はなんとなく出来そうだけど、それこそ魔力消費量が大きいし。
あっ、そういえば元不死王が言ってた事を今なら実践出来るじゃん。
私は先日聞いたように、アストラル体だけを体から分離して飛ばしてみた。
魂が体から抜け出るような変な感覚があるけど、一応体の方とのリンクは切れていないので遠隔操作で体を動かす事は可能みたいだ。
抜け出たアストラル体で見えない壁に突っ込んでみたら、衝突する事無くあっさりすり抜ける事が出来た。
出来たけど……攻撃はどうすんのよ?
体はあっちに置いて来ちゃってるし。
「アイナ?お前、今何か変な事やってないか?」
「体からアストラル体を分離して壁の向こう側に飛ばしてみた。壁はすり抜けられたんだけど、こっからどうすればいいのかな?」
「思いつきでアホな事すんな!ったく、それで?アストラル体ってのは魔法ぐらいは使えるのか?」
「うーん、そもそも私は毒で魔法使ってたから、スキルが使えない事には何も出来ないなぁ……」
「……それ、意味あるのか?」
「今意味を見出してるとこ」
帝国兵がリッチである私を警戒して近づいて来ないので、こちらには割と余裕がある。
あっ、魔法撃って来た。
まぁ見えない壁よりこっち側に来たら危険だし、遠隔攻撃ぐらいしか出来る事なんて無いよね。
しかし帝国兵が撃った魔法は私の体が弾き返して、何のダメージにもならなかった。
さすがリッチ、魔法に対する抵抗力は最強だ。
これもホルマリンコーティングの効果?
でも防御力だけ強くてもしょうがないんだよなぁ……。
とりあえず霊気を何とか出来ないか試行錯誤してみる。
霊気はそもそもアストラル体の方から体に供給されている。
つまり大元であるアストラル体には霊気があるという事なので、これでアストラル体側を強化してみた。
「おおっ!?なんかアストラル体が半分実体化した!!」
「ひいっ!?ゴーストっ!?」
半分実体化した事で、他の人にも私のアストラル体が認識できるようになったらしい。
半透明の私の姿を見て帝国兵が驚いていた。
私は面白半分にその帝国兵の手を掴んでみた。
「ぎゃああああああっ!!」
突然悲鳴をあげて倒れる帝国兵。
触っただけなのに、何故?
ひょっとして霊気が高出力状態になってるから、それが攻撃になったのかな?
そういえばゴーストって触れただけでダメージ与えるんだっけ。
倒れた帝国兵は気絶しているだけでダメージを受けた様子は無いけど、相手を無力化する方法としてはかなり使えるねこれ。
私は見えない壁をすり抜けて次々に帝国兵を無力化していった。
アストラル体を先行させ、自分の体はリモートで少しずつ進ませて行く。
「キメラの段階でもうかなりヤバいと思ってたけど、その先があったか」
ぼっちさん、私をヤバい人みたいに言うな!
まぁ、ちょっとこの攻撃方法は防ぎようが無いだろうし、無双し過ぎ感はあるけど。
程なくして夜行の女の目の前まで辿り着いた。
「まったく、特異点ちゃんはとんでもない化物だね。こんなのと『麟器停止装置』無しに闘えってあり得ないんだけど。っていうか、装置盗まれた帝国は責任とってこの化物なんとかしなさいよね」
ライズさん、『麟器停止装置』を拝借して来たって言ってたけど無断拝借だったのね。
向こうの森にあるのは分かってるし、後で返しておいてあげようっと。
もちろん機能は停止してね。
「さて、因縁の対決はここで終止符でよいかな?」
「……そうね。ババアの占いでもここまでって言われてるし、覚悟は出来てるわ。ババアは逃げたけどね」
あのババアは逃れたのか……なんかほっときたくないなぁ。
今後私に絡んで来ない事を願おう。
私は霊気を込めて夜行の女に触れた。
一瞬で夜行の女が気絶した事で、周囲に展開されていた見えない壁は消失した。
すかさずアストラル体を体に戻して、今度こそ夜行の女にスキル無効化の毒を打ち込んだ。
「さぁて、貴方達を守る見えない壁は無くなったよ。命が惜しい人は撤退してねー。ちなみに帝都に戻っても反乱軍に占拠されてると思うけど」
夜行の女がスキル無効化されたのを呆然と見ていた帝国兵達は、我に返った者から脱兎の如く逃げ出した。
この物語はファンタジーです。
実在するアストラル体とは一切関係ありません。




