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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第五章『天空編』
231/258

231 衝動

 一瞬何が起きたのか分からなかった。

 ごぼっ、と口から血を吐いて、ようやく状況を理解する。

 背中側から刺された——。

 そしてそこには一人しか居なかった筈だ。

 相手が勇者だからと油断していた。

 いや、そもそも私は魔王なんだから勇者に背を預けるとか、あり得なかったのかも?

 一瞬そんな余計な事を考えたが、苦しさが勝って正気に戻る。


「ぐうっ……何で……?」


 心臓を一突きして普通ならそれでお終いなのだから武器を引き抜く筈なのに、私の体を貫いた刀は引き抜かれる事無くそのまま手放されたようだ。

 背中側から刺されているから、人体の構造的に自分で抜くことが難しい。

 まぁ私の場合は毒を自在に操れるから、抜く事なんて造作も無いんだけど。


「けっこう粘るねぇ。普通の人間なら心臓を貫かれたら数秒で終わりなのに、さすがは魔王と言ったところかな?でもその刀は特別製でね。刀身に銀が含まれているからヴァンパイアは自力で抜く事は出来ないんだよ。かなり気も減って来てるし、魔力で身体を動かそうとしても銀の制約で無理だろう?」


 確かにライズさんの言う通り、ヴァンパイアの動力である魔力で身体を動かそうとしたけど、何か封印でもされたかのように動く事が出来ない。

 心臓を貫かれているから、どんどん力が抜けてきて気も練れなくなってきた。


「あぁ、不死王の指輪の効果をあてにしても無駄だよ。『麟器』を停止させる魔導具を帝国から拝借して来たからね。今この空間内では命が尽きたらそこで永遠にさようならなのさ」


 マジですか……?

 それはヤバいね。


「な、何故こんな事を……?」

「何故だって?勇者が魔王を倒すのは当たり前の事じゃないか」


 そう言ったライズさんの瞳は、とても正義の味方である勇者とは思えない程に淀んでいた。

 その瞳に映るものは純然たる狂気。

 普段の飄々としたチャラさの影に、こんなにも深い闇を潜ませてたなんて。

 私だけでなく、他の勇者達にも気付かせて無かったとは恐れ入る。


「おや?まだ納得いってないって顔だね。じゃあ最後に君にだけは種明かししてあげよう。この姿が全ての元凶なのさ」


 ライズさんの背中付近が光を発し、今まで隠されていたものが顕わになる。

 彼の背には一対の白い翼が生えていた。


「俺は天空族と人族のハーフなのさ」


 ハーフなんて別に珍しくもない——と思ったけど、天空族と人族だけは話が別だった。

 天空族は人族を恨んでいたはず。

 そこに子が成されるという事は……。


「あぁ、勘違いしてもらっちゃ困るけど、俺の父と母はちゃんと愛し合っていたからね」


 遙か昔の恨みを受け継がない新しい世代ならそういう事もあるのね。

 なんかほっとしたよ。


「そう、両親は愛し合い、平和に暮らしていたのに……あの天空王はそれを許さなかった。自分達の恨みを俺の家族にぶつけやがったんだ。人族を恨むのなんて勝手にやってりゃいいだろうに、それを父と母に押し付けて殺した。天空族と人族が愛し合うなどあってはならないんだとさ」


 そんな事が……さすがにちょっと同情する。

 その淀んだ瞳も納得がいったよ。

 けど、それと私を刺すのって関係無くない?


「俺は自分のスキルで『存在を隠蔽』する事が出来るんで、両親が殺された時に俺だけは隠れてやり過ごす事が出来た。そしてそのスキルで翼を隠して、人族として生きる事で天空王の目を逃れてたのさ。ちなみにさっき君を貫いた刀も存在を隠蔽したから一切関知出来なかっただろう?」


 確かに。

 私だけでなく、ぼっちさんも何も反応しなかったし。

 クリティカルポイントで不穏な動きがあれば分かる筈なのに、たぶん私に対する敵意すらも隠蔽したんだろう。

 悪意無く殺しに来る気配に気付くのは、かなり難易度が高い。

 私の毒針以上に暗殺向きのスキルだね。

 およそ勇者らしくないスキルだとは思うけど。


「その顔は俺が勇者に相応しくないって顔かな?皆勘違いしてるけど、『勇者の証』ってのは清い心を持つ者にだけ受け継がれる訳じゃないんだよ。俺の場合は魔王に対する激しい憎悪によって得られた。『勇者の証』が魂に刻まれてからは更に魔王への憎悪が増して、ただ『麟器』を継承しただけの君の事も殺したくてしょうがない程だったんだよ。それにしても5つもの『麟器』を受け継いでくれるなんて都合が良かった。後は肝心の天空王を殺すだけで完了コンプリートだ」


 なるほど、ライズさんの背景は分かったし、天空王を殺したいなら勝手にやってどうぞって感じ。

 でも、私もこのままやられるわけにいかないのよ。


「さすがにしぶといねぇ……。『麟器』は使えない、心臓は貫かれて、銀でヴァンパイアの能力も封じてるってのにまだ生きてるなんて。5つの魔王を兼務してるだけあるよ。これはしっかり止めを刺しておかないとだね」


 そう言ったライズさんの右手が魔法陣を描くと、その先に巨大な炎の塊が生成される。


「本来恨みがあるのは天空王だけなんだけど、『勇者の証』の衝動がそれだけに留まらないんだ。だからアイナちゃん、俺の為に消えてくれ。ちなみに勇者の証の衝動とは関係ないけど、俺の復讐を円卓の盟約で縛っていた勇者達もぶっ殺す予定だから……。じゃあね、さよなら」


 ライズさんの放った炎は膨れ上がり、私の視界を覆い尽くした。

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