023 気
「ところで師匠、一つ確認しておきたいことが」
「なんだ?」
「師匠は男の人ですか?女の人ですか?」
師匠のこめかみに青筋が立った。
「……お前はこのボンッキュッボンッの素晴らしい体型を見ても分からないのか?」
「分かりません!」
「何でじゃああああああああああああぁっ!!」
「いだだだだだだっ!!」
頭グリグリするのやめてーっ!!
だって、師匠がライオンだった時、鬣があって雄っぽかったし。
それに……
「私がこの腕輪付けた時に尻尾が生えて来たから、最初から尻尾が生えてる獣人の師匠には前にも尻尾が生えちゃったのかなって?」
「生えるかあああああああぁっ!!」
某ペンギンみたいに前に尻尾生える訳じゃないのか。
じゃあやっぱり女の人なんだ。
「……ん?って、お前、尻尾が生えたのか?」
「私、元々は人族なんですけど、腕輪付けたら尻尾が生えて、獣人みたいになっちゃいました」
腰に巻き付けてた尻尾をフリフリと振ってみる。
「そんな能力この腕輪には無かったと思うが……?」
えー、でもタイミング的に絶対腕輪のせいなんだよねー。
「あ、主様しっぽが生えてる!?もう理解が追いつかない……」
ルールーさんが何か呆然としてるんですけど?
「お前の先祖に獣人がいて、腕輪をはめたのがきっかけで先祖返りしたのかも知れんな」
先祖かぁ……。
父方の先祖は王国の貴族だから人族だと思うけど、母方の先祖かな?
まぁいいや。
最初は不便かと思ってたけど、第3の手として使えるから意外と重宝してんのよね。
「あ、あともう一つ。ルールーさんは師匠と知り合いなの?」
若干青ざめているルールーさんと、それを楽しそうに見るライオン師匠。
「そやつは我を暗殺しに来た刺客じゃった。返り討ちにしてやったがのぅ、ワハハハ!」
笑う師匠を見て、複雑な表情のルールーさん。
たぶん例の侯爵が命じた事で、奴隷だから逆らえなかったんだろうね。
もう奴隷じゃないんだし、そもそも師匠も怒ってないみたいだから大丈夫かな?
「ではもういいか?」
「はい。それで、この腕輪の力ってどうやって使うんですか?」
「うむ。腕輪の使っていない力があるのではなく、腕輪の力を十全に使うためにどうするかなのだが。ようは気を使えるようになればいい」
「気を遣う?腕輪を慮るってこと?」
「違うわ!体の中の気を操るって事じゃ」
あぁ、気功か……って、
「そんなの出来るの!?」
魔法があるファンタジー世界だから気功があっても不思議じゃないけど、それってジャンルが違うと思うのよね。
いわばこの世界はライトノベル系だと思ってた。
私自身が異世界転生してるし。
でも、そんな少年漫画の王道系の技が存在するとは……。
「我の言う通りやれば出来るはず。まずはこの先に千尋の谷と呼ばれる場所があるのだが……」
え?突き落とすの?ライオンだけに?
「そこにいるワームを倒して来い」
あぁ、突き落とされるんじゃないんだ。良かっ……
「良くないっ!!無理無理無理無理いいぃっ!!ミミズは無理いいいいいいいぃっ!!」
虫も苦手だけど、ミミズはもっと無理だよおっ!
前世の幼少期に、男子がミミズを持って嫌がらせして来たのがトラウマになってるし。
その男子はミミズ触った手で股間弄ったせいでちん○ん腫れ上がってたけど、それも恐怖に拍車をかけてた。
あれは触れてはならぬモノ。
タ○リ神のようなモノ。
ガクブルと震える私を、ルールーさんがそっと抱きしめてくれた。
「大丈夫です主様。ミミズごとき私の炎で焼き尽くしてくれましょう」
「あぁ、ミミズと言っても魔素を弾く白銀鉱を食っているから魔法の類いは一切効かんぞ。しかもかなり硬いからな」
そんなのどうやって倒すの?
まぁ私の毒針なら硬さは関係無いからやれちゃいそうだけど、ミミズコワイ……。
「お前の妙なスキルも使用禁止だ。気を練って素手で殴って倒してこい」
この人無茶苦茶言うなぁ……。
この物語はファンタジーです。
実在するミミズとは一切関係ありません。




