229 作戦
集合場所へ到着すると、既にジっちゃんとレイアさんとライズさんは周囲を警戒しながら待っていた。
この地点までの距離は同じぐらいってマル婆が言ってたんだけどなぁ。
さすが勇者達とその弟子だけあって、移動速度が半端ないね。
こっちも勇者と元魔王なのに。
「おう、来たようじゃのう」
ジっちゃんが手を振って迎えてくれる。
「早かったね」
「いや、そんなに待っとらん。儂らもついさっき到着したところじゃ。負けず嫌いのレイアが移動速度を上げるから、戦う前にちと体力消耗してしもうたわい」
「余計な事言うなジジイ」
「儂、師匠なのに……」
この2人も相変わらずだなぁ。
円卓の時はもうちょっと仲良さそうだったのに。
きっとまたジっちゃんが何かやらかしたんだろうな……。
「やぁアイナちゃん、円卓ぶりだねぇ!会いたかったよ!」
「はぁ……」
円卓ぶりって、そんなに長いこと経ってないと思うけどね。
ライズさんは相変わらずチャラい。
苦手なタイプだし、あんまり近づかんどこ。
「帝国兵の中に教皇国の聖騎士も混ざっておるな。あれでバレてないつもりじゃろうか?」
「そういえば、勇者の皆は帝国兵と戦ってもいいの?」
「正直、あまり良くはないのう。一応、天空族討伐という大義は掲げるが、後で帝国からの抗議はあるじゃろう」
ジっちゃんの見解もほぼ先に私達が話し合ってた通りのようだ。
通信の魔導具では盗聴の危険があったので、現地集合組にはまだ重要な事は教えてなかった。
「帝国に関しては大丈夫だよ。手薄になった帝都を反乱軍が落とす手筈になっているから」
反乱軍の応援として、九曜達元公儀隠密衆、帝国の騎士団長、勇者タケル君らを送ってある。
魔王でも出て来ない限り大丈夫だろう。
更に、教皇国は本来専守防衛を掲げているので、今回の侵攻に参加している事を公に出来ない。
なので、あそこに集う兵を正義の味方である勇者達が一掃しても問題にすることは出来ないのだ。
「うわぁ、アイナちゃんえげつない作戦考えたもんだねぇ。ちょっと引くわ」
「王国を自分勝手な理由で侵略しようとする方が悪いでしょ」
「まぁそうだねぇ。でも、勇者が戦うのはあくまでも『魔王』とであって、帝国の侵攻を蹴散らすのはその障害になる場合だけだからね」
「その辺はキャサリン姉からも言われてるから分かってるよ。帝国兵は元魔王達で対応するから」
いつものチャラさはどこへやら。
ライズさんから結構真面目に注意された。
何か『魔王』って言葉に妙に力が入ってたけど、意外と勇者としての責任感に溢れてる人なのかも知れない。
さて、そうは言ったものの、空を自由に飛べるのは元魔王の方が優れている。
私とミミィとヴァイスさんは自分の翼で飛べるからね。
そして攻撃力に秀でている師匠も天空族の国を攻めるのに欠かせないので、誰かが乗せて行く事になる。
なので、地上の戦闘はほぼ元魔導王と元不死王に任せることになる予定だ。
2人とも魔法が得意なようなので、遠距離からの牽制に向いてるし。
さらにここで秘密兵器、もとい最終兵器、というか終末兵器、いやいや究極兵器かな?レントちゃんの登場である。
「アイナさん、私の事なんだと思ってるんですか?」
「……も、もちろん友達だと思ってるよ?」
「その間は何ですかっ!?」
荒ぶるレントちゃんを何とか宥めて、作戦決行である。
「レントちゃん、とりあえずあの帝国兵がいる一帯の大気中の水分は0にして」
「とりあえずの規模が大き過ぎる気がしますが……分かりました」
レントちゃんのスキル『水操作』で周囲の水分を奪われた帝国兵は、急に進軍速度が低下した。
慌てて水を飲もうとするも、水筒を開けた途端に中の水は気化して失われる。
かなりの恐慌状態に陥っているようで、間もなく進軍は完全停止した。
「うわぁ、アイナちゃんの友達、円卓で見た時も思ったけど、えげつねぇ……」
ライズさんがドン引きしているが、これで終わりではない。
レントちゃんは集めた水分で、上空に厚い積乱雲を作り始めた。
「アイナさん、こんな感じでいいですか?」
「うん、上出来だよ。後は王国に戻っていいから」
「よかった。直接戦うようなことにならなくて」
なんなら直接戦ってもらってもいいんだけど……。
と言う前に、ぼっちさんが転位魔法を発動して、レントちゃんを返してしまった。
「戦いの素人にゃ、ここから先は無理だぞ」
まぁぼっちさんの言う通りか。
敵の攻撃が効かない上に自身の攻撃力もえげつないけど、つい先日までまともに戦闘なんてしたことなかった普通の平民なんだもんね。
目の前で凄惨な本物の戦いを見せたらトラウマになりかねない。
戦力は大幅にダウンしちゃったけど、ここまでやってくれれば十分だ。




