228 決戦前
師匠にかくかくしかじかと説明したところ、二つ返事でOKを貰えた。
反乱軍に帝国兵を突いて貰うように指示したのが良かったみたい。
獣人国の憂いが無くなれば、寧ろ王国を攻める帝国軍の本体を叩きたいとのことなので、師匠にとっては正に渡りに船なんだとか。
そして更に嬉しい事に、帝国が王国を攻める事で獣人国への侵攻が緩むようなら、白銀の人とハヤテさんとミカヅチさんも参戦してくれるとのこと。
正直謎な部分が多い人達だけど、実力的にはとても頼りになるのでありがたい。
ただし、戦況を見てからになるので当日の状況次第という訳だ。
「じゃあ戦力も十分だし、一旦戻ろうか。ぼっちさんお願い」
「あいよ〜」
「くっ、魔力効率が桁違いだ……。俺はこの転移魔法を完成させるのに10年かかったんだぞ」
元魔導王がまだ復旧できていないようだ。
「もういいかげん現実を認めなさいよ。原典を作れるって事は凄い事だと思うよ。但し誰もがオリジナルを尊ぶ訳じゃないし、より良いものがあったらそっちに乗り換えるのは世の常じゃん。元魔導王もぼっちさんの作った新しい転移魔法に乗り換えたらいいよ」
と、元魔導王を宥めながら帰路についた。
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日に日に赤い輝きが増す月は、見える大きさも拡大していってる。
この世界の月はどれぐらいの大きさなのだろう?
飛べる人が届いてしまう高さにあるって事は、けっこう小さいのかも知れない。
不思議な事はもっとある。
自転と同じ速度で地上付近で回り続けるのは不可能な筈だから、明らかに重力系の魔法のような不思議パワーが働いているはずだ。
天空族が利用しようとしてるのって、その力なんじゃないかな?
月が赤く染まる程に増していってる何かがあるような気がする。
赤みが増したせいか、ちょっと厄介な事も起こっている。
月を見ても巨大化しなくなってしまった。
私だけじゃなく、師匠も月からのパワーが得られないと言っていた。
つい先日獣人国で師匠は巨大化出来ていたのに……。
まぁ私の側にいれば、擬似月で一緒に巨大化できるから問題無いと思うけど。
そして『赤き落日』までの間は皆修行に明け暮れた。
マル婆を早々に呼び戻して、異空間で修行出来るようにしたのだ。
1日で1年分の修行が出来るってのは、はっきり言ってチートだよね。
しかも生涯での使用時間に制限すら無い。
ただし、ちゃんと歳を取るので、私のようにヴァンパイアでもない限り無限に使えるという訳じゃない。
青春したければこっちの世界で歳を重ねた方がいいのだ。
異空間の修行場は人数制限があるため、戦闘力が高い順に使う事となった。
私と元魔王である師匠、ミミィ、ヴァイスさんに加え、元魔導王の5人で最初に入る。
次に元不死王、キャサリン姉、リスイ姉、カク爺、マル婆の5人。
これで2日間が終了してしまった。
2日目のメンバーが入っている間に私が動いて、王国をソフィア王女に返還させた。
金髪リーゼントの父である公爵は当然の如く失脚させて、信頼できるルールーとレオナさんを側近に付けた。
はっきり言って王国兵は殆どあてにならないので、全員王都の守備につかせている。
そしてついに3日目の朝を迎えた。
日が昇っているにも拘わらず、月から放たれる赤い光が、世界が終わるかのような風景を大地というキャンパスに描く。
私達は決戦の場である王国と帝国の国境へ向かった。
月が落ちて来ているせいか空には雲一つ無く、遠目に天空族の島もその上空へと向かっているのが視えた。
恐らく、地上と空の2面での闘いになるだろう。
勇者であるジっちゃんとその弟子レイアさん、チャラ男勇者のライズさんは現地で落ち合う事になっている。
今、最も熾烈な闘いになるであろう最前線に走りながら向かっているのは、私と元魔王達5人と勇者4人だけ。
いや違った——そこに追従してくる魔王候補が一人。
「なんで私も最前線なんですかあああああぁっ!?」
戦士が集う広大な荒野に、レントちゃんの叫びが響き渡った。




