227 謎多き白銀の人
上空から見下ろした獣人国では、隣接する帝国へ向けて牽制するように遠距離攻撃が行われていた。
基本近接戦闘を好む獣人としては珍しい攻撃だと思って近づいてみると、案の定戦っているのは見た事のある鎧を着た人達だった。
あの人達相手だと、一般の兵ではとても歯が立たないだろうね。
空からドラゴンが降り立っても特に気にした様子も無いとは、流石としかいいようがない。
遠巻きだった獣人達はドラゴンの姿に慌てふためいてるけど。
そして攻めきれずに右往左往していた帝国兵達もドラゴンの来襲だと思って逃げていった。
「おーい、ハヤテさん、ミカヅチさん!」
「……ハヤテ?」
「……ミカヅチ?」
偽名忘れてるし……。
いや、まさかと思うけど鎧が同じ別人じゃないよね?
「あっ!俺、ハヤテだった!お、おうアイナ元気か?」
「あっ!私、ミカヅチだった!アイナちゃん、ハロー!」
純粋に自分の偽名忘れてただけだった。
偽るんならちゃんと覚えやすい偽名にしなさいよ。
そしてそこにはもう一人私の知っている人がいた。
「白銀の人も久しぶり」
「あぁ、久しぶりだね」
私がまだ満足にスキルを使えてなかった頃に、当時獣王だった師匠が襲って来たところを助けてくれた人。
全身を白銀の鎧に包み、兜の隙間から見えている髪の色もまた白銀色。
正体は分からないけど、たぶん悪い人では無いと思う。
元龍王との闘いの時には大切であろう白銀の鎧という『神器』まで貸してくれた、とても恩のある人だ。
「そういえば、この鎧ありがとうございました。大事なものでしょうし、やっぱりお返しします」
私は背負っていた鎧になる前の状態の白銀の盾を、白銀の人へ差し出した。
今白銀の人が着ているのはおそらくレプリカだろう。
でもレプリカを着てまで正体隠さなきゃいけない人なのかな?
まぁ、修行前の師匠とはいえ魔王の一角だった獣王を赤子扱いで倒してしまう人だし、何らかの秘密を抱えていてもおかしくないか。
というか、出会った当時は分からなかったけど、この人とんでもない化物だ。
私もかなり強くなったつもりだったけど、この白銀の人の方がまだもう一段階ぐらい強い気がする。
そりゃ師匠も勝てないわけだよ。
「いや、その鎧はそのまま君が使うといい」
「え?本当にいいんですか?」
「この後の戦いで必ず必要になるからね」
何でこの後戦いがあるって知ってるの?
元龍王との戦いでも、救援出したのがマル婆じゃなかったから、たぶんこの人の指示でハヤテさんとミカヅチさんが動いた筈だ。
つまり、あのタイミングであの場所で戦いが起こると知っていたってこと。
未来予知系のスキルでも持ってるのかな?
夜行のババアも未来を知ってるかのような言動をしていた。
でもあれは、やや不確定な未来のようだったし、精々占い程度のものだろう。
それに対してこの白銀の人の言葉には確信めいたものを感じる。
謎は深まるばかりだけど、絶対に敵に回しちゃダメな人だと思う。
まぁ何にせよそのまま白銀の鎧を使わせてもらえるのは、魔力運用に難がある私にとってありがたいことだ。
「じゃあ、そのまま使わせてもらいますね」
「うん、そうして。私にはこの剣があるから大丈夫」
白銀の人の腰には立派な片手剣が下げられていた。
柄の部分に綺麗な意匠が施してあり、何やら尋常じゃないほどのオーラを発していた。
恐らくあの剣も白銀の鎧と同じく『神器』なのだろう。
あれ?でもあの意匠、どこかで見たような気がするなぁ?
どこで見たんだろ?
そんなことより、ここ獣人国に来たのはこの人達に会うためだけじゃない。
肝心の人物はどこにいるだろうか?
「元獣王なら、ここよりも南の方の国境で防衛戦を行なってるよ」
「あ、ありがとうございます」
何故師匠を探してる事まで分かったんだろう?
読心術まで使えるんですか、白銀の人?
私はちょっと怖くなってきたので、そそくさとその場を後にした。
暫く南に向かって進むと、帝国兵に向かって『獅子の咆哮』を放つ巨大ライオンの姿が見えてきた。
相変わらず雄々しい鬣を靡かせている。
ライオンの時の姿は完全に雄なんだけどなぁ……。
それもキャサリン姉と仲悪い原因か?
「う、うわああああぁっ!!今度はドラゴンの襲来だああああぁっ!!」
私達を乗せているホワイトドラゴンの姿を見て逃げ惑う帝国兵達。
獣人国を攻めている帝国兵は、随分と軟弱だなぁ。
というか、統率が取れてないし練度も低いように感じる。
まぁ部隊によって個性はあるだろうし、そんなものか。
ヴァイスさんにお願いして空を覆い尽くすようにブレスを吐いてもらったら、帝国兵は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。




