223 認めない
別に龍王って認めて貰えなくてもいいもん。
支配とか統率とか興味無いし。
ただし自己肯定感はめっちゃ下がったよ、こんちくしょー!!
「それでアイナ様、何故ここへ?」
「あのね、ちょっと面倒な事になってきて、ヴァイスさんの力を借りたいんだけど」
私の言葉に、困ったような表情を見せるヴァイスさん。
思ってた反応と違うけど、ひょっとしてダメだった?
なんか理由があるのならしょうがないけど、ヴァイスさん程の実力者が敵に回るのだけは勘弁してね。
「申し訳ありません、まだこちらの案件が片付いてなくて……」
「そういえば龍族の仮の代表を決めようとしてたんだっけ。候補者が多いって事?」
「その……ちょっと言いにくい事ですが、若い龍族達が新たな龍王を認めないと吠えてまして」
さっきの敵意はそれかぁ!!
「前龍王は支配のスキルを使って君臨していただけで、力は弱いものと思われてますので。実際上位種の龍族よりも基本的には弱かったですし。そのため、支配下に無かった人族の少女が倒したとしても、龍王に相応しい力を持っている事にはならないと言い張っているのです。更に、上位種の中にもそれに乗る者もいて、仮の纏め役という事に納得がいかないと申しております」
「なるほどねぇ。まぁ私は別に龍王の地位なんてどうでもいいからくれてやってもいいけど、『麟器』は一年経過しないと渡せないよ?」
「いえ、私としてはアイナ様にそいつらを叩きのめして欲しいです。力を示せば納得するのが龍族ですので」
ええー、面倒くさいなぁ。
赤き落日の決行日が迫ってて、それどころじゃないのに……。
でもそれを解決する事でヴァイスさんが心置きなく参戦してくれるというなら、全力で叩き潰してやろうじゃないか。
「分かったよ。どこか広めの場所に全員集めて」
「承知しました」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私達は龍王の城の中央部にある闘技場へとやってきた。
何故城にそんなものがあるのか?とヴァイスさんに聞いてみれば、多くの揉め事は戦って解決する脳筋政治だからだそうだ……ダメだわこの国。
寧ろ、前龍王のスキルでの統率による政治運営の方が健全に見えるわ。
そして、私とヴァイスさんと元魔導王が立つ位置の対面には、多くの歳若い龍族達と、それに便乗した上位種の龍族達が集まっていた。
その数実に100匹以上。
単位は匹で合ってるかな?
「あんなちんちくりんな小娘が龍王だと?」
「本当に前龍王を倒したのか?」
「あれなら俺でも勝てそうだぜ」
相変わらず私の外見は相当弱く見えているようだ。
そこに種族差がないというのも解せん。
さて時間も無いことだし、さっさと始めますか。
「数が多いから、ちょっと間引きさせてもらうよ」
私は体内で練っていた気を一気に解放して、正面に立つ龍族達にぶち当てた。
年若い龍族達の殆どは白目をむいて倒れてしまったが、流石龍族と言うべきか、半分近くは私の気当てに耐えることが出来たようだ。
「ば、馬鹿な……。人族ごときがあれほどの気を練れるなど……」
「狼狽えるなっ!!なんらかのスキルを使っただけだろう!脆弱な人族のスキルなど、我ら龍族の龍気の前では何の役にも立たん!!」
おっと、聞き捨てならないなぁ。
力でねじ伏せてやろうと思ったけど、スキルを甘くみると大ケガするって事を教えてあげよう。
私は毒針に一酸化炭素(猛毒)を生成して、龍気を高め始めた龍族達の下へ放った。
力だけでは抗えない世界へようこそ。
効果があるか若干不安はあったけど、やはり生物としての基礎は近しいらしく、一酸化炭素を吸い込んだ龍族達は次々にバタバタと倒れていった。
「な、なんだ!?体が思うように動かん!?」
「人族のスキルなんぞ、龍気で吹き飛ば……ないっ!?何故だっ!?」
意識はあるのに動けないと困惑する龍族達。
もちろんここで終わりじゃないよ。
多足型蠢く悪意、野菜汁(芋虫型毒)を生成して、龍族達の口元に這い寄らせる。
「きしゃー!きしゃー!」
「うわああああぁっ!!ま、魔物が口から体の中に入っていくううううぅっ!!」
「ぎゃあああああぁっ!!たっ、助けてくれえええええぇっ!!」
うむ、鳴き声もかなりリアルになって、禍々しさが増してるね。
もはや私のアイデンティティでもある『毒針スキル』をバカにした報い、受けるがいい。
ふはははははっ!!
全員が気絶したところで、ヴァイスさんに勝敗の判定を委ねる。
「あの〜、アイナ様。こういうやり方ではたぶん納得しないかと……」
「お前、やる事えげつないな」
なによ、元魔導王まで。
勝ったんだからいいじゃん。
この物語はファンタジーです。
実在する一酸化炭素及び野菜汁とは一切関係ありません。




