222 新龍王
生い茂る密林に囲まれた中に悠然と構える巨大な城。
城の上空には複数のドラゴン達が飛んでいる。
空からの侵入は不可能だろうし、本来であればこの城の入口へ辿り着くのすら、密林を彷徨くドラゴンによって妨げられる。
でも、転移で一瞬にして移動したのであれば、誰の干渉も受けずに辿り着けてしまうんだよね。
「な、何者だっ!?」
人型の姿は歳若く見える龍族が、私と元魔導王を威嚇する。
「ま、待てっ!そちらの御仁は魔導王様ではないかっ!?」
「えっ!?し、失礼致しましたっ!!」
ふむ、元魔導王は以前ここを訪れているから、門番の龍族も覚えていたのね。
しかし、現龍王である私に対しては不遜な目を向けたままだ。
あっ!もしかして以前ドラゴンの皆さんに会った時は白銀の鎧を着てたから、素の私を見ても龍王だと認識出来てないとか?
上位種のドラゴンは鎧越しでも私を龍王であると判別できてたのに……。
まぁ別にいっか。
魔導王が顔パスなら通して貰えるだろうし。
「も、申し訳ありませんが、いかに魔導王様でも今はお通しする事は出来ません。龍王が代替わりしたので、前龍王に会わせる訳にはいきませんので」
ダメじゃん。
そうか、元魔導王は元龍王からフリーパスにしてもらってたけど、代替わりした龍王からは許可を得てないもんね。
私がその龍王だけど。
ここで職権行使したら、門番はちゃんと従ってくれるだろうか?
そもそも元龍王に会いに来たんじゃなくて、恐らくこの城にいるであろうヴァイスさんに会いに来たんだから、その辺ちゃんと話せばいいんじゃないかな?
「あのー、ここにたぶん元龍の女王であるヴァイスさんがいると思うので、会いたいんですけど」
「小娘、何故それを知っている!?確かに今ヴァイス様が滞在しているが、お前のようなちんちくりんの小娘を会わせる訳ないだろうが!」
「ぶふっ!」
おい元魔導王、何笑ってんのよ?
私の外見が弱そうに見えるせいか、めっちゃ侮られてるし……。
しゃーない、奥の手を使うか。
「この姿を見てもそんな事が言える?」
私は気を高めて、龍化を行った。
白銀の体毛に包まれ、背中に雄々しい翼が伸びる。
「そ、その姿はっ……!!」
「ふふふ、ようやく理解出来たかな?」
「魔導王様、魔物をけしかけるとはどういうおつもりですかっ!?まさか、龍王の代替わりの隙を狙って我らが龍王国に侵攻しようと!?た、大変だ!!敵襲!敵襲だあああぁっ!!」
何故だっ!?
わらわらと人化した龍族達が入口へと集まってくる。
空からは、ドラゴンの巨大な姿の龍族達が降りて来て、こちらを睨んだ。
「ワタシリュウオウナノニドウシテコウナッタ?」
「お前、その姿で龍王だと言い張れると思ってたのか?」
まぁ確かに、猿が翼生やした姿でドラゴンですって意味分からんよね。
龍の嘆きを使った侯爵の方が遙かにドラゴン寄りだったぐらいだし。
そりゃ魔物扱いもされるわ……。
でも、私が魔物扱いされるのはしょうがないにしても、敵襲だと思われてるのは多少元魔導王のせいもあるのでは?
うーん、なるべく戦闘は避けたいんだけど。
と思っていると、入口の扉が開いて白髪の女性が出て来た。
「何事ですか?……って、アイナ様?何してるんですか?」
余計な戦闘をする前に目的の人物であるヴァイスさんが出て来てくれたので、助かった。
勝てなくはないけど、余計な遺恨を残さない方がいいもんね。
時間もない事だし。
「良かったよ、ヴァイスさんが出て来てくれて」
「はぁ……何やら強い気配を感じたものですから」
龍化した時に気を高めたのが功を奏したね。
「ヴァイス様、あれは何者ですか?」
「あの方が新しい龍王よ」
「なっ!?あ、あれが新しい龍王……!?」
ヴァイスさんが私の事を龍王と呼んでくれたお陰で誤解は解けたようだ。
あれ?誤解、解けたよね?何で敵意が増してんの?
新しい龍王だよ?姿形はこんなだけど、多少は敬ってほしいなぁ……。
キメラじゃダメですか?




