219 不死王の指輪
私は前回の教訓を生かして、毒を使う前に白銀の鎧を身に纏った。
白銀の鎧には魔力回復効果がある。
ファンタジー毒は大量に魔力を使うので、未知の呪いに対抗出来るように保険をかけた。
「なっ!?そ、それはまさか『神器』かっ!?」
元魔導王が白銀の鎧を見て驚いていた。
魔導具オタクはほっとこう。
突然訪問して来て呪いを解けとか、好き勝手言ってくれる不死王。
若干の意趣返しとして、毒針は鼻の穴の奥深くに突っ込んでやった。
骨だけだから咽せるはずないのに、「ふごっ!?」とか言ってた。
準備が整ったところで、私は不死王に掛けられた呪いを書き換える為にファンタジー毒を打ち込んだ。
予想以上に困難な呪いのようで、どんどん魔力が吸い取られていく。
これは白銀の鎧の魔力回復が無ければ、完全に魔力枯渇していたかも知れない。
毒が不死王の体である骸骨を伝って全身に流れていくと、黒い靄のようなものが現れて私の毒と絡み合う。
まるで攻防を繰り返しているように、靄と毒が不死王の体の中でうねり始めた。
私は更に魔力を注ぎ込む。
「ふぬううううっ!!」
ついに拮抗していた力関係が崩れ、毒が靄を飲み込んでいった。
不死王の体がキラキラと黄金色に輝き始める。
そして完全に毒が靄を制圧し、不死王の骨までも覆い尽くした。
しかし、その後の結果を見る事が出来ないまま、私は魔力が枯渇して気を失ってしまった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目を開けると、そこは知ってる天井。
「おおっ!目を覚まされましたぞ!」
私の顔を覗き込んで声を上げたのは、短めの白髪と白髭を生やした渋めのおじさん。
誰この人?
「まったくもう!鎧なんて着るから、止めるタイミングが分からなかったじゃない!」
キャサリン姉が抱きつきながら怒ってきた。
白銀の鎧はフルフェイス兜だから、顔色とか見えないもんね。
でも途中で止められたら完遂出来なかっただろうし、逆に良かったのかも?
そんな事言うとまた怒られそうだから言わないけど。
「それで、不死王はどうなったの?成功してたんなら、情報聞き出さないと」
「あら、やっぱり結果を見る前に気を失ってたのね。不死王ならそこにいるじゃない」
「え?どこ?」
周囲を見回すが、キャサリン姉と白髭のおじさんしかいない。
まさか呪いが変質して完全な霊体になった?
「あぁ、そのお顔は絶対おかしな事考えてますな。自分が不死王——もとい元不死王ですぞ」
あれ?白髭のおじさんの方から不死王の声が聞こえる……?
「まさか、おじさんが不死王?」
「ですな。元ですが」
「骨だけだったはずなのに、外皮がある」
「腐れ落ちた血肉が元の状態に復元されて、人族の外見を取り戻したのです」
「あと、やけに元を強調するけど、まさか……?」
私は自分の左手の指を見る。
以前円卓で見た赤い宝石のついた奇妙な指輪が中指にはまっていた。
あぶなぁ、薬指じゃなくて良かった……じゃなくて!
「ああああああっ!!不死王の指輪が私の手にいいいいっ!!アンデッドになっちゃうううううっ!!」
「アイナちゃん、落ち着きなさい。貴方既にヴァンパイアなんだからアンデッドでしょうに」
「あっ、そうだった」
じゃあ不死王の指輪してても大丈夫なのか。
でもあの骸骨の姿がイメージされちゃうから、変な効果が付与されてそうで怖いなぁ。
「大丈夫ですぞ。不死王の指輪の効果は、『生命活動が停止していても動ける』事ですから。生きてるうちは特に効果はありませんな」
大丈夫の意味辞書で引いてこい。
でも仮死状態でも自分で蘇生の毒を生成して生き返れるのはいいかも知れない。
それにしても遂に5つめの『麟器』を手に入れてしまった。
あと1つでコンプだわ。
別にコンプする気は無いんだけど、これから天空族の国に潜り込むつもりだから、天空王と闘う事になってしまう可能性もあるんだよね。
私が唯一の魔王になっちゃったら、改めて勇者達と和平交渉しようっと。
「いやはや、呪いが解けたら『麟器』も失う事になるので、もはや今生はこれまでと思っておりましたが。呪いが変質したお陰か血肉を取り戻して生き返る事が出来ました。この命、貴方様にいただいたもの。今後は身命を賭してお仕え致します」
呪いの変質はファンタジー毒のファジーな部分に任せちゃったけど、よもやそんな効果になるとはね。
イメージがふわっとし過ぎてたせいもあって、魔力が異常な程消費されたんだと思う。
「まぁ仕えるとかは好きにしたらいいと思うよ。私に敵対しなければそれでいいし。それよりも約束どおり天空族の情報を教えてよね」
「もちろんでございます」
白髭おじさんは骸骨の時とは違う、ダンディーな笑顔で頷いた。
この物語はファンタジーです。
実在するファンタジー毒とは一切関係ありません。




