215 取引
「何で天空族と交戦する事になったの?」
ここは話題を逸らして回避するしかない。
「お前が龍王——もとい元龍王を倒してしまったせいで、『天珠華』が手に入らなくなったのだ」
「天珠華?……ってか、何で元龍王が出てくるのよ?」
「『龍の轟き』の対価として『天珠華』を貰う事になっていた」
こいつ、本当に自分の目的以外に興味無いんだろうなぁ。
その『龍の轟き』のせいで大変だったんだからね。
「その天珠華ってのが必要なの?天空族を敵に回してまで」
「天珠華は天空族の国にしか生えていない特殊な植物だ。天空王に取引を持ちかけたが、奴はそれに応じなかった。元龍王がいない今、もう手段を選んではいられないので俺は忍び込んで奪う事にした。幸い円卓の盟約は破棄されて、敵対的行動を制限するものは無いからな」
あっこら、余計な事言うな!
盟約関係の話すると、キャサリン姉の視線が怖いんですけどぉ!
すると先程まで笑いを堪えていたリスイ姉が急に真剣な顔で問うた。
「それはエレノア姉さんの為?」
「愚問だな。それ以外に何がある?」
それ以外に何にも無いところがあんたの悪いところだよ。
何があったのか知らないけど、そのエレノアって人は何故元魔導王をここまで狂わせるのか?
事情とか教えてもらっていいものか分からないので、リスイ姉には何も聞いてないのよね。
私には関係無い話みたいだから、ちょっと憚られるし。
「あなたが何しようと勝手だけど、世界を混乱に陥れるような事したらこの『麟器』は返さないからね」
このままだと元魔導王はどこまでも暴走しそうなので、一応釘を刺しておく。
「好きにしろ。麟器があってもなくても俺のやる事に変わりは無い」
ぜんぜん刺さらないよ、この釘っ!
まったく、どうやったらこいつの行動を制限できるだろうか……?
またろくでもない薬とか作り始めないように、出来る限り監視下に置いておきたいぐらいなのに。
あっ、そうだ!
「じゃあ、取引しましょう」
「取引だと?」
「私がその天珠華を取ってきてあげる」
「お前が……?」
「そう。その対価として、世界の秩序を乱すような行いをしないと誓ってもらうってので、どう?」
「……本当に天珠華が手に入るならば誓おう」
ちょろすぎるぞ元魔導王。
この人、目的の為なら一切躊躇わないなぁ……。
そーゆーとこがいかんのよ!
「ちょっと、アイナちゃん!また変な事に首突っ込んでっ!」
予想はしてたけど、やっぱりキャサリン姉に怒られた。
だが、これについては勝算がある。
「だってこのまま放置したら、また悪い奴に利用されそうだし。エレノアって人の事以外は頭にないアホだけど、龍の嘆きを作れるぐらいの実力者なんだよ?こっちで制御してやった方が良いと思うんだよね」
私の意見を聞いて、キャサリン姉は考え込む。
「おい、今俺のことをアホって言ったか?」
暫くして、キャサリン姉が顔を上げた。
「確かに一理あるわね。でも、天珠華をアイナちゃん一人で取りに行くのはダメよ」
「分かってるよ。それについてはちゃんと相談してから行動するから」
「おい、俺のことアホって言っただろ?」
さて、そうと決まれば潜入部隊を結成せねばなるまい。
万が一に備えてそれなりの強さの人を選ばないとだし、誰にしようかな?
「無視すんな、俺のことアホって言ったな?」
アホが何か言ってるけどほっとこう。
「じゃあ、ア……元魔導王は魔力回復するまで休んでてよ」
「ア……って何だ?ちっ、まぁいい。お前に一つ忠告しておく」
「ん?忠告?」
「天空族の国で何か動きがある。それを隠蔽する為に天空族は俺を消そうとしていた」
円卓が解散してから、最も早く動きを見せたのは天空族だ。
教皇国と接触を図って帝国にも現れたのだから、何か企んでいるんだろうとは思っていた。
ひょっとして私が消されそうになったのも、天空族の国に近づき過ぎて秘密を探ろうとしたと思われたから?
それはとんだとばっちりだなぁ……。
じゃあ、元魔導王もその何かに繋がる手掛かりに接触した?
「動きって何?」
「『赤き落日』に気をつけろ」
「赤き……落日……?何それ?」
「知らん!」
「知らんのかい!」
何やら気になるワードだけど、何を指す言葉なのかまるで分からない。
まぁそれも含めて潜入して調べてくればいいよね。
そして元魔導王は何故かそのままこの家に居座り続けた。
予期せぬ居候が増えてしまったよ。




