214 魔導王の籠手
別に魔導王がどうなろうと知ったこっちゃないんだけど、家の前で何かあったら気になっちゃうでしょ。
私はうつ伏せになっている魔導王を仰向けに寝かせ直して、頬を叩いて意識があるか確認する。
「ちょっと、大丈夫?」
ペシペシと軽く叩いても反応が無いので、脳を揺らさない程度に強めにバシンと叩いた。
「ぐっ……!?お、お前は……」
僅かに目を開けて私の姿を確認したが、直ぐにまた気を失ってしまった。
結構拙い状態なのかも知れない。
「しょうがない。助ける義理は無いけど、ほっとく訳にもいかないか」
私は回復薬(毒)を魔導王に投与した。
みるみるうちに傷は塞がって行き、顔色も良くなって呼吸も安定した。
それなりに魔力を込めたので急速に回復したようだ。
しかし、意識はまだ戻らない。
九曜を呼んで家に運んで貰おうかと思ったら、突然魔導王の腕に装着されていた『麟器』が白く輝き、腕から離れて宙に浮かんだ。
……ねぇ、ちょっと待ってよ。
それ前にも見た事ある動きなんですけど?
そして案の定、私の腕に向かって飛んで来て装着されてしまった。
「あちゃ〜、やっぱり『麟器』の継承だったか……」
でも私が魔導王を倒した訳でもないのに、なんで私に装着されちゃったの?
もしかして、回復薬による急激な身体の変化が、体に負荷となって攻撃認定されちゃった?
しかも既にかなりの重傷だったから、私が止めの一撃入れた事になったとか?
どうしよ……麟器4つ目になっちゃったよ。
しかも魔導王って魔導具オタクっぽくて、この『魔導王の籠手』持ってる事をとても自慢げにしてたんだよね。
起きた時に絶対何か言われそう……。
そこへキャサリン姉とリスイ姉も駆けつけた。
「えっ?魔導王じゃないのよ」
「アイナ、これどうしたの?」
「私の方が聞きたいよ。なんか急に家の前に現れたんだけど」
始めは魔導王の事を気にしていた姉達だが、私の腕に装着されている『魔導王の籠手』を見て目を見開いた。
「アイナちゃん……まさか殺ったの?」
「殺ってないからっ!!回復してあげたら勝手に私に装着されたの!!そもそも生きてるでしょ!!」
とんだ濡れ衣だよ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔導王を家の中に運んで、ベッドに寝かせてあげた。
外傷は治したけど魔力が回復していなかった為か、暫く起きて来なかった。
数時間経って日も傾き始めた頃、クリティカルポイントと流路を常に見張って警戒していた私は、魔導王が起きた事を感知した。
すぐに寝室へ向かうと、上半身を起こした魔導王が部屋の中を見回していた。
「ここはどこだ……?」
「ここは勇者キャサリンの所有する家だよ」
私の声を聞いてこちらへ視線を寄越した魔導王は、目ざとく私の腕に装着されている『魔導王の籠手』に気付いてしまった。
しかし、何故か怒るでもなく、静かにじっと私の腕を見つめていた。
「一応言っとくけど、これ私が奪ったんじゃなくて、勝手に装着されちゃったんだからね」
「ふっ……思うところはあるが、既に継承されてしまったのでは一年は取り戻せないからな。暫く預けておく。寧ろ奴らに奪われなくてほっとしているぐらいだ」
まぁ今後の行い次第では一年後に返してあげなくもない。
でもまた『龍の嘆き』みたいな薬をばらまいたら絶対渡さないからね。
それにしても、何か妙な事言ってるな。
「奴らって?」
「……天空族だ」
あら、また天空族か。
こいつも天空族の国に近づき過ぎたのかな?
と、そこへキャサリン姉とリスイ姉もやって来た。
「魔導王、目が覚めたようね」
「魔導王——もとい元魔導王。プププッ」
リスイ姉が笑いを堪え切れてない。
何やらリスイ姉と魔導王——もとい元魔導王は何やら因縁があるみたいだからね。
今回ボコボコになってたあげく、私に麟器が継承されちゃったのがツボったらしい。
何やらかしたんだか、元魔導王。
「ケガしてたのって天空族にやられたの?」
「……やられた訳ではない」
「何その無駄なプライド。完膚なきまでにやられて逃げて来たようにしか見えなかったけど?」
「交戦はしたが、負けてはいない。ちょっと劣勢だったので転移魔法で立て直そうとしただけだ」
え?この人転移魔法使えるの?
あとで見せてもらおっと。
「まったく、円卓の盟約が無くなったお陰で、勇者vs魔王じゃなくて魔王同士の争いが起こってるじゃない」
キャサリン姉が私をジト目で見る。
私はもちろん目を逸らした。
見たら負けだ。
この物語はファンタジーです。
実在する回復薬とは一切関係ありません。




