212 勘違い
「きゃああっ!」
「な、なんだっ!?」
「ひゃぁっ!魔物っ!?」
何処にでも行けるドアから転がり込んだ私の姿を見て皆が驚く。
ぼっちさんがギリギリで時間停止してくれたおかげで、ドアを通って脱出する事が出来た。
ドアを閉めた瞬間、ドアが蒸発するように消失してしまった。
……ヤバい、マル婆に怒られるかも?
そして龍化したままだったので、我が家に送り届けたソフィア王女達が驚いてしまった。
あれ?この人達って獣化すら見せた事無かったっけ?
「アイナお姉ちゃん……?」
おっと、ユユちゃんだけ私だと気付いたようだ。
でも何故に疑問形?
あ、翼生えてるからか。
すぐに妖魔闘気の効果時間が終了して、元の姿に戻る。
「アイナさんですか、驚かせないでくださいよ」
「驚かすつもりは無かったよ。ちょっとギリギリの状況だったから」
そして私はユユちゃんに抱きついた。
「ごめんねユユちゃん、危ない目にあわせる事になって」
「え?何が?」
えっ!?もしかして記憶が飛ぶ程の暴行を受けたのだろうか?
あと、なんかユユちゃんの頭トマト臭い……?
「ユユちゃん、攫われて酷い目にあってなかった?」
「えっと、吹雪お姉ちゃんと追いかけっこして、喉渇いたからミミィお姉ちゃんのトマトジュース飲んで、そしたら眠くなって来て、起きたらアイナお姉ちゃんがいた」
ふむ、要領を得ないけど、何か私が思ってたのと違うような……。
それをソフィア王女が補足してくれる。
「あのアイナさん。ユユちゃんはたぶん暴行は受けてないです。吹雪さんと追いかけっこしていて、あちこちぶつかって青痣作ってました。それでトマトジュースを飲みながら寝た時に頭からかぶってしまって。それを拭いてあげようとしたところを攫われました。そのまま手当等もしないまま別々に連れていかれたので……」
じゃあ頭から流れてたのは血じゃなくてトマトジュースか!
さらに暴行を受けたかのような痣は、ユユちゃんが自分でぶつけてしまった痕であると。
私の怒りは全部勘違いからだったのか……。
「なんだ、そっかぁ……。とりあえず酷い目にあってなくて良かったよ」
「ほぅ、それでドアが消えてるのはどういう訳なんだい?」
急に背後にマル婆が現れる。
「たぶん消滅した」
「説明になってないよ。ちゃんと話しな」
「天空族の超兵器が私に向かって放たれたので、ドア通って逃げてきたの。たぶん向こうのドアが攻撃で破壊されたからこっちのドアも消えたんだと思う」
マル婆は頭痛を堪えるように額に手をあてる。
「天空族の超兵器?何がどうなったら天空族から攻撃を受けるんだか……」
「帝国まで飛んで行く途中で、天空族の国に近づき過ぎて攻撃されちゃったの。その場は何とか逃れたんだけど、帝国にも何故か天空族の人が現れて、報復されちゃったんだよね」
「帝国に天空族が現れた……?」
「なんか教皇国の教皇と一緒だったよ」
「教皇国が天空族と繋がってるってのかい?」
マル婆は考え込んでしまった。
とりあえずドア壊した事は有耶無耶になったようで助かった。
と思ったのも束の間。
「ア〜イ〜ナ〜ちゃ〜ん?」
低いトーンで私を呼ぶ恐ろしい声が。
ゆらりと私の前に現れたキャサリン姉が私を見下ろす。
色々なやらかしが頭を過ぎり、これから始まる説教に戦々恐々とした。
しかし、急にゴツい腕で包み込むように抱きしめられた。
「何で帰ってすぐにまた出掛けちゃうのよ!心配したんだからねっ!」
「ごめんなさい……」
人質とられちゃったから時間との勝負だったし、とは言えない。
純粋に心配されると謝るしか出来ないよ……。
そして結局説教もされた。
その後全員揃ったところで、談話室で情報を擦り合わせる。
「私と龍王、もとい元龍王だけ別の場所に飛ばされたって事?」
「そうね。他の皆は入口の前に吐き出されただけだったから。でもどうしてそうなったのかは謎のままよ」
円卓が崩壊した後の事などを聞いたり。
「妾のトマトジュースが無いいいいいぃっ!?」
ユユちゃんがミミィのトマトジュースを飲んじゃったから、美味しい血(毒)を生成してミミィに飲ませてあげたり。
賑やかながらも楽しく情報交換する。
それもこれも皆無事で帰ってこれたからだ。
今後は襲撃に備えてなるべく家の方にも戦力を残す事になった。
夜行の幹部クラスになるともう家の防衛能力も役に立たないから、必ず一人は魔王クラスの実力者を家に置く事に。
九曜達はぼっちさんのアドバイスを元に修行を始めた。
「ぼっちさん、あの『麟器』を封じる魔導具に対処する方法ある?ジャミングとか出来そうかな?」
「一応あの時のデータを元に魔法を組んでるから、何とか出来るとは思う」
「良かった。後は白銀の鎧をなるべく着てるようにして、魔力を回復しながら闘う事にするよ」
「それがいいだろうな。でも今回危機に陥ったのは、お前が『絶壁』に反応して無駄に妖魔闘気を放出したせいだと思うぞ」
「ぐぅ……わ、分かってるもん!」
私は精神修行を優先的にやる事にした。
この物語はファンタジーです。
実在する美味しい血とは一切関係ありません。




