021 奴隷紋
ついに追っ手に追いつかれた。
結構な人数で来たみたいで、10人ぐらいに囲まれてしまった。
私の前に堂々と出て来たのは伯爵家では見なかった顔の女の人だけで、他は潜伏したまま。
人型のクリティカルポイントで何処にいるのか丸わかりだけどね。
女の人の首筋に奴隷紋がある。
私も捕まったら、ああなってしまうのか……。
すぐに戦闘に突入するが——何かこの人弱いなぁ。
炎を拳に纏って攻撃してくるけど、なんとも洗練されていない動きだ。
ジっちゃんや白銀の人と比べると欠伸が出るほど動きが単調で読みやすい。
しかも私は全身にあるクリティカルポイントを直接脳で視る事が出来るから、目から脳へ情報を伝達する必要がない。
タイムラグ無しで動きが分かるし、何なら筋肉の動きでこれから何をするつもりか分かっちゃう。
なので、多少炎が大きくても余裕で躱せちゃうのだ。
腕輪の力で瞬発力が上がってるし、掠める事すら無いだろうね。
もちろん防戦一方であるはずがない。
程なくして、私の生成した一酸化炭素(猛毒)を吸い込み、奴隷の女の人は地に伏した。
次いで周囲に潜伏している他の人も同様に地に伏していく。
あ、木の上にいた人落っこちた。
私のテリトリーの範囲外だけど、自在に操作出来ないだけで、付近に一酸化炭素(猛毒)をまき散らしておく事はできる。
どこにいるのか分かってるから、開けた場所であろうとも無臭の毒素を吸い込ませるのは容易だ。
クリティカルポイントに打ち込む麻痺毒と違って、肺から吸い込んだ毒は永続的に効果がある。
いかに後遺症が無いように生成したファンタジー毒でも、私が解毒しないと動けるようになるまでかなりの時間がかかるはず。
さて、周囲に潜伏してるのはたぶん伯爵の私兵だろうけど、この女の人は別っぽいからどうしようかな?
たぶんこの人は闘いたくなくて、あえて努力してこなかったんだと思う。
私を気遣うように投降をすすめる事からも、優しくて人を傷つける事を嫌っているのだろう。
そんな人を奴隷にして操るなんて、この国の貴族は腐ってるね。
これは奴隷から解放してあげるのが正解かな?
その後の事までは知らないけど、私より大人なんだし自分で何とかするでしょ。
「今、その奴隷紋を解除してあげるよ」
周囲で伏せている人達が僅かに反応した。
奴隷解放されると何か拙いのかな?
そんな反応されたら、是非嫌がらせしたくなるじゃないか。
恨みって程じゃないけど、伯爵家での生活の仕返しはしたいもんね。
私は奴隷紋を無効化するファンタジー毒を生成して、女の人の首に針を打ち込んだ。
ごっそりと魔力を持って行かれた……。
さすがにイメージすらままならない不可思議毒の生成には反動が来るね。
しかし、毒は見事に効果を発揮し、パキンという音とともに奴隷紋が砕け散った。
「えっ!?何がっ……!?」
女の人が地に伏したまま困惑している。
今、一酸化炭素も中和してあげるからね。
女の人は呆けた顔で起き上がり、自分の手を見ている。
首筋を触って奴隷紋が消えているのを確認すると、ポロポロと涙を流し始めた。
「わ、私は……私はっ……!」
想像しか出来ないけど、やっぱり奴隷って大変だったんだろうな。
しばらく泣き続けた後、私に向かって土下座した。
「このご恩、我が生涯を捧げてでも報います!あなたに忠誠を誓います!!」
「ほーん」
「あ、あれ……?ほーんって……」
だって先日盗賊達にあっさり忠誠を翻されたからね。
忠誠を誓うとか全然信じられんのよ。
まぁ好きにしたらいいよ。
さて、後は周りに潜伏していた伯爵家の私兵達をどうするか。
「それでしたら放っておいても大丈夫だと思います」
「その心は?」
「え?心?……えっと、私を連れて帰れない場合は、たぶん伯爵家はお終いだと思うので」
奴隷一人連れて帰れないだけで伯爵家がお終い?
この女の人そんなに強い訳でもないのに、そんなに重要人物なの?
よくよく聞いてみるとこの女の人——ルールーさんと言うらしい——は、侯爵家の奴隷だったようだ。
それを伯爵が大金をはたいて借りたと言う。
もちろんそれはレンタル料なので、奴隷が戻らないとなれば10倍以上にも上る金額で買い取りという事になるとか。
なるほど、ルールーさんを奴隷から解放したのは大正解だったようだ。
これで追っ手に追われる日から私も解放されるかな?
「もっとも、それによって侯爵家から目を付けられるかも知れませんが」
ダメじゃん!!
この物語はファンタジーです。
実在する一酸化炭素及びファンタジー毒とは一切関係ありません。




