206 収納魔法
一先ず反乱軍が味方してくれるようなので良かった。
「我らが髪、アイナ様の為に!」
「「「「「アイナ様!!アイナ様!!アイナ様!!」」」」」
いささか行き過ぎてるような気もするけど……。
他にもハーゲン所属のメンバーがいたので発毛してあげたところ、何故か反乱軍全体から神——もとい髪として崇められる事に。
まぁ、よきにはからえ。
敵にならないならそれでいいよ(投げやり)。
「じゃあ、私はもう行くね」
「はい。お気を付けて」
反乱軍のリーダー、大男のラリーさんが敬礼で見送ってくれる。
私は頷き、龍化して上空へ飛び立った。
反乱軍は各所へと『転送リング』で手紙をやりとりして連絡を取ってくれた。
帝都の城内にも内通者がいるらしく、その情報によれば人質は2ヶ所に分けて捕らえられているらしい。
一度に全員を奪還出来ないようにするためだろう。
そうすると恐らく時間との闘いになる。
陽動として反乱軍が地方で動いてくれている隙をついて奪い返すしかない。
暫く上空を飛んでいると、突然ぼっちさんが再起動した。
「よっしゃ収納魔法出来たぞぉっ!!」
「おおっ!さすがぼっちさん!」
「だが先ずは何かで実験しないとな」
「丁度良い事にこんなものが」
「……おい、何だこの魔導具?銃型とか物騒だな」
「天空族がドロップした」
「経緯は聞くまい……」
ぼっちさん開発に没頭してて私が天空族と交戦してた事に気付いて無かったようだ。
私がぼっちさんの方に天空族の魔導具を近づけると、ぼっちさんが収納魔法を発動する。
「おおっ!消えた!」
「よっしゃ、ここまでは成功だ」
「ん?完成したんじゃないの?」
「思いのほか亜空間側の位置情報固定が難しくてな。ちょっと微調整が必要だと思うんだ」
そう言ってぼっちさんは収納していた銃型の魔導具を取り出した。
それは無残にも、全部パーツごとにバラバラに分かれてしまっていた。
危うく取り落とすとこだったのを、ぼっちさんが浮遊魔法で辛うじて止める。
高高度を飛行してるんだから、もしバラバラのパーツが落下したら大惨事だったよ。
「……ちょっと、ぼっちさん」
「あれ?おかしいな……」
「これ、いきなりドアでやってたらマル婆にめちゃくちゃ怒られるとこだったよ」
「ちょっとパラメータ間違えたか?」
それから数度調整を重ねて、ようやくちゃんと出し入れ出来るようになった。
天空族の魔導具は残り一つとなってしまい、他は全部部品と化した。
おそるおそるドアも出し入れしてみたが、特におかしくなってはいないようだった。
「せっかく拾った魔導具も残り1個かぁ……」
「悪かったって。でもこれで完全に収納魔法は完成したからな」
「これって収納した中の物は時間が止まってるの?」
「まあな。逆に亜空間に時間軸を付与する方が大変だったから、そのまま時間停止収納にしといた」
時間停止収納は異世界ファンタジーでは定番だよね。
ようやく荷物が全部収納出来て身軽になったところで、丁度帝都の城の真上へ到着した。
かなり高度をとって飛んでいたので、地上からは相当目が良い人でも気付けないだろう。
でもこちらからは全部見えている。
目視では城の外観ぐらいしか見えないけど、クリティカルポイントは直接脳内に描かれるので、どれだけ離れていても人の形状をはっきり認識できる。
今の私は10kmぐらい離れていても正確に捉えられるのだ。
「確かに反乱軍の人の言った通り、人質は2ヶ所に分けられているみたい」
「どうすんだ?時を止めるか?」
「それはいざという時の為に温存しといて。反乱軍の人へ合図を送る魔導具を借りてるの。それで合図したら各地で陽動してくれる事になってるから、それに乗じて救出する」
魔導具のスイッチを押すと、魔導具が一度だけ赤く光った。
これで合図を送れたはずだけど……。
暫く待つと、城内のクリティカルポイントのいくつかが慌ただしく動き始めた。
地方からの連絡を受けた兵士が各所へ通達を出し始めたのだろう。
私は隠密の妖術を発動して姿を消し、一方の人質がいる場所へと降り立った。
騎士団長から貰った見取り図通りに、地下の牢へ続く階段を見つけて下りて行く。
途中見張りをすり抜けて更に降りると、牢の前には誰も見張りはおらず、その牢内には3人の人が捕らわれていた。
ソフィア王女とタケル君と聖女。
私への牽制として攫ったユユちゃんだけ別の場所に移してあるようで、同時に解放は出来ない。
なのでここで大きな音を出して周囲に気取られる訳には行かない。
でも大丈夫。
つい先程、とても有効な手段を手に入れたばかりだ。
『ぼっちさん、鉄格子だけ収納って出来る?』
『もちろんだ』
『じゃあ一瞬だけ収納して、直ぐに元に戻して。中の人達が騒がないようにね』
『了解』
ぼっちさんが収納魔法で一瞬だけ鉄格子を収納する。
高速で移動した私が牢の中に入ると、直ぐに収納から鉄格子を戻す。
一瞬の出来事にタケル君だけが違和感を覚えたようだが、何が起きたのかまでは分かっていないようだった。
さて、本来であればちゃんと声を掛けるべきなんだろうけど、大きな声を出されると私が既に侵入している事が露見する恐れがある。
なので申し訳無いが、3人には眠ってもらう事にした。
睡眠薬(毒)を気取られないように瞬時に注入して、その場で皆を眠らせる。
次々に倒れていく3人を抱えて、収納から取り出したドアの中に放り込んだ。
ドアの向こう側は我が家の屋敷の一室に繋がっているので、向こうへ行けばもう安全だ。
さて、ここからは時間の勝負。
さっきの要領で鉄格子を一瞬だけ収納して高速移動で通り抜けると、そのままもう一方の人質の元へと急いだ。
この物語はファンタジーです。
実在する睡眠薬とは一切関係ありません。




