201 龍族
「ヴァイスさん、ちょっと私に血をくれない?」
「……ヴァンパイアの吸血衝動ですか?」
「いや、そうじゃなくて。ひょっとしたら『龍王の首飾り』を使えるようになるかも知れないから」
「そういう事なら……分かりました。どうぞ」
そう言って首筋を私の方に向けるヴァイスさん。
「いや、別に首に噛み付かなくても指先をちょっと針で刺した程度でいいから」
ヴァイスさんの手を引いて指先を軽く針で突き、小さな赤い粒のように出て来た血を舐める。
龍族の血は普通に赤いんだね。
人化してるからかな?
なんて思ってたら、ドクンと心臓が跳ねるように鼓動した。
やばい!龍族の血が美味しすぎて吸血衝動がめっちゃ激しいんですけど!?
急いで吸血衝動を抑える毒と共に、ファンタジー毒『血から得る遺伝子情報を元に私の体の遺伝子を組み換える毒』を生成して飲み込む。
すると即座に効果は現れ始め、私の肉体が再構成され始めた。
「うああああああああっ!!」
「ア、アイナ様っ!?いったい何をっ!?」
数秒間、全身を燃えるような痛みが駆け巡る。
ボコボコと隆起を繰り返す肉体を見て若干後悔したけど、暫くしたら何事も無かったかのように収まった。
私の体は龍族の資質を獲得出来たんだろうか?
毒は確かに効いていたと思うけど、最終的な見た目は以前と変わらない。
『龍の嘆き』を使った人は、明らかに龍の遺伝子情報を取り込んでドラゴンの特徴を持つ姿へと変わっていたのに。
もっとも私の毒は安全第一で生成してるから、おかしな副作用は出ない筈だが。
「大丈夫ですか、アイナ様?」
ヴァイスさんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「うん。ヴァイスさんの遺伝子情報を元に私の体を組み替えただけだから」
「イデンシ……?」
「つまり私も龍族になったって事」
「……益々分からないのですが?」
ですよねー。
遺伝子とかの概念が分からないとそうなるよね。
私も遺伝子の詳しい事は良く分からないし。
ファンタジー毒が補完してくれるから、私の知識不足な部分は魔力でカバー出来ちゃうんよね。
さて、ちゃんと龍族になれたか検証……ってどうやんの?
「ヴァイスさん、龍族特有の能力みたいなものある?」
「龍化によってドラゴンになれる事でしょうか?」
「まぁそれが一番の特徴か。じゃあそれいってみよう」
体にむむむっと力を込めてぇ、
「『龍化』っ!!」
……という声が空しく響き渡った。
何も起きん!
「出来ないんだけど!」
「じゃあ龍族になってないのでは?」
「いや、なってる筈!何か龍化のコツとか無いの?」
「コツですか?下腹に力を込めて内なる龍を解放する感じでしょうか……」
下腹に力を込めるのね。
気を練る時と同じ感じかな?
あっ、元龍王が使ってた龍気みたいなものを解放すればいいのかも知れない。
龍気……龍気……龍気って何だろ?
こんな時はもちろんぼっちさん頼み。
「ぼっちさんえも〜ん」
「だからやめろと……名称書き換わっちまったじゃねーかっ!!」
「ちょっとヴァイスさん、この棒を握って龍気使ってみてくれる?」
「承知しました」
「じゃあぼっちさんお願い」
ヴァイスさんが龍気を使って、それをぼっちさん経由で擬似体験してみることに。
突然、激流のような気に似た流れが私の中を駆け巡る。
「あばばばばばばっ!!」
全身に激痛が走り、私は気絶しそうな程の痛みに耐え続けた。
直ぐに終わると思ったそれが暫く続く。
ちょっ、長いよぼっちさん!!名称変わったから怒ってんの!?
漸く終わった所で力尽きて項垂れる。
おのれ、ぼっちさん……許すまじ。
でも龍気の感覚は完全に理解した。
「気を取り直して……『龍化』っ!!」
今まで体内にあった気、魔力、妖力の何れとも違う力が全身を駆け巡った。
それが隅々まで行き渡ると急激に体に変化が生じる。
肩甲骨がバキバキと音を立てて、獣化以上に体の骨格から変化していく。
でも、何かイメージしていた龍化とは違う変化が起こっている気がするんだけど?
体を覆うのはドラゴンの鱗ではなく、いつもの獣化した時のような白銀の体毛。
顔の骨格も、ドラゴンというよりは猿に近い気がする。
大きな変化は背中に生えた雄々しい翼ぐらいだろうか?
しっぽもなんか猿っぽいままだし……。
「ヴァイスさん。私、龍化出来てるかな?」
「少々コメントし辛いのですが……」
「はっきり言って」
「翼が生えた以外はいつもの獣化ですね」
「やっぱりかぁっ!!」
色々遺伝子いじりすぎてキメラになってるもんね私。
きっと、龍族の遺伝子は1/4のクォーター状態だから変化が少なかったんだろう。
「でも翼が生えたと言う事は、翼に魔力を流せば飛べるはずですよ。アイナ様は魔力がかなり多いですし、相当な高速飛行も可能かと思われます」
「え?そうなの?」
それはいい情報だ。
私は翼に魔力を流してみる。
しかし魔力を流しただけでは何も起きなかった。
「空を飛ぶイメージで魔力を流しながら、少しだけ羽ばたくんです」
ヴァイスさんの言う通りに翼を少し上下運動させる。
すると猿の体がふわりと浮き上がった。
「う、浮いた!出来たよっ!!ありがとうヴァイスさん!!」
そのまま部屋の天井スレスレを暫く飛行してみた。
「これはいいね!ぼっちさんに乗ってると勝手に進路変更されちゃうから、空を自由に飛べたらなって思ってたんだ。ね、ぼっちさんえもん」
「だからその名称やめろおおおおおっ!!」
この物語はファンタジーです。
実在する遺伝子とは一切関係ありません。




