199 成長限界
とりあえず騎士団長を治す為に治療薬(毒)を生成してあげた。
「す、凄いな……普通の治療薬ではこんなに劇的に治らないものだが」
騎士団長が驚いて自分の体の各所を触って確かめている。
私の毒はファンタジー毒だから魔力さえ込めれば回復速度も自在だからね。
「それで協力ってのは?申し訳ないですけど、襲撃時に顔を見られてるあなたを連れて行く事はできませんよ。味方を連れてきたと思われたら困るし」
「もちろんついて行くような事はしません。帝国に関する情報を教えるだけです。人質のいる場所が分からないと困りますよね?」
確かに人質救出の為に、捕らわれている場所の間取り等は知っておきたい。
「おそらく人質は帝都の城の地下牢に入れられてると思います。そこまでの地図を書いてお渡しします」
地下牢か……救出困難な場所だなぁ。
そりゃ警備の面からも地下の方がやりやすいだろうからね。
行きは隠密の術でいいけど、地上に出ないと人質を運べないのか。
いや、その場所まで行ければあとは何とかなるかも?
「あと、帝国の各所には組織された反乱軍もあります。そこに話が通れば連動して騒ぎを起こしてくれるかもしれません」
「うーん、それって人質に影響ない?」
「この家の人と関係ない者達が動くのですから問題ないかと。地方でだけ動いてもらえば、城が手薄になるでしょう」
なるほど。
でもタイミング次第で疑われそうだから、決行時間を慎重に決めないとだね。
「わかったよ。動くタイミングは教えてもらってね」
「はい」
早速騎士団長は手紙を書くべく談話室を出て、自分が今間借りしている部屋へ戻って行った。
それにしても、反乱軍とか流行ってるのかな?
つい最近王国でも反乱があったばかりだし。
もっとも王国のは現体制に不満とかじゃなくて、乗っ取りの側面が強いけどね。
帝国のトップがどんな人か知らないけど、人質とるような奴だし、反乱軍に味方して殲滅してもいいかも知れない。
騎士団長との話を終えたところで、カク爺がエロジジイとは思えない真剣な面持ちで問う。
「アイナよ、本当に一人で行く気か?」
「うん。人質取られてるし、そうするしかないでしょ。大丈夫、無茶はしないから」
「お前さんの無茶しない程信用できん言葉はないのぅ」
いや私はいつも無茶する気は無いんだよ?
たまたまいつも無茶せざるを得ない状況になるだけで。
でも、いつもそんな事になってたらいつか失敗してしまうかも知れない。
そうならない為にも、更なる力が必要か。
力こそパワーって偉い人も言ってたし。
「お嬢……」
九曜と叢雲と吹雪が思い詰めた顔で私の前に並ぶ。
「俺達もレント嬢ちゃんにやったように強化してくれないか?」
「儂らの今の力では主殿について行く事すらできんでの」
「異空間で修行しましたが、私達はもう成長限界のようで……主殿のスキルに縋るしか無いのです」
今回の襲撃を受けて、九曜達は自分達の力を信じられなくなったようだ。
私が見る限りまだまだ成長の余地はあると思うけどね。
外的要因による急激な成長は歪な強さしか生み出さない。
ちゃんと修行して得た力じゃないと使いこなせないし、逆に過信による危機を呼び込んでしまう事にもなりかねない。
九曜達は既にかなりの達人だし、ちゃんと修行して武を極めていくのがいいと思うんだけどなぁ。
でも時がそれを待ってくれるとも限らないか……。
今力が必要なのであれば、多少歪でも強くなっておきたいだろうし。
しょうがないか……と思ったら、ぼっちさんが会話に割って入る。
「お前ら、まだ成長の余地あるぞ。この妖術使ってみ?」
ぼっちさんが何やら新たに構築したらしい妖術を見せる。
何でぼっちさん妖術使えるのよ?
伝説の武器だから?
ぼっちさんまだ謎な部分があるなぁ。
「なんだこの妖術……見た事無い印で構成されてるが?」
「こいつはアイナの使う妖魔闘気の構造を元に構築した『妖闘気』を使えるようにする妖術だ。まぁ勇者が使う魔闘気に近いものを妖術で再現したんだよ。これを使いこなせるようになれば、アイナの変な毒を受け入れなくても強くなれる筈だ」
おいぼっちさん、変な毒って何よ!?
確かに失敗したらアホになる可能性があるヤバい代物だけど。
「『妖闘気』……俺達妖術を使う者には勇者の魔闘気は使えないと思ってたのに。これがあれば俺達は強くなれるのか?」
「使いこなせればって言っただろ。使えただけじゃダメだから、ちゃんと修行しろよ」
「ありがとう、ぼっちさん!」
「感謝するわい」
「ありがとう」
九曜達に感謝されて、ぼっちさんのドヤ顔が見えるようだ。
武器だから表情とか分からないけど。
毒で無理矢理強くするよりはいいよね、きっと。
さて、九曜達の顔に覇気が戻った事だし、私もパワーアップする為に何かしないとね。
人質達の安否が気になるから、あまり時間は掛けられないけど。
この物語はファンタジーです。
実在する治療薬とは一切関係ありません。




