198 天空の島
月が不気味ですね。
ダンジョンから出たら赤く光るおかしな月が出ていた。
何となくいつもより月が大きく見える。
こんな月では口説き文句も出ないだろうね。
ハヤテさんとミカヅチさんとはダンジョンから出たところで別れた。
「またすぐに会うと思うけど」ってハヤテさんが言ってたのはちょっと気になるなぁ。
近い将来また私がピンチになるって事じゃないよね?
白銀の鎧は私が預かる事になった。
あの白銀の人もレプリカを持っているという事で、これは私がそのまま持っててもいいらしい。
鎧化したままだと誰なのか分からなくなるので、盾に戻して戦闘の邪魔にならないように背中に背負うスタイルにしてみた。
ダンジョンから出るまでに魔力はそこそこ回復していたので、私はぼっちさんに乗って帰路についた。
戦闘中は余計な魔力を使わないように静かにしていたぼっちさんも、安全な空の上では饒舌だ。
「時間停止は今後使うのを控えた方がいいかもな。消費魔力が大きすぎる」
「でも今回はどうしても使わないとあの龍王は倒せなかったよ。注入に1〜2秒かかるような強力な毒を使う時は、やっぱり時を止めた方がいいと思う」
「そうか。そうするともうちょっと省エネになるように構築し直さないとだな。関数組み直すか」
魔法って関数使えるんだ……。
ぼっちさん、意外と頭いいよね。
「心の声が漏れてんぞ。意外とってどういう事だ?」
「みんな心配してるだろうし、急いで帰るぞー!」
「おいこら、無視すんなっ!」
帰路は平和なもので特に何事も無……なんだあれ?
ぼっちさんが飛んでいる高度よりも更に遙か上空に巨大な島が浮いている。
下からしか見えないけど、島の下部には機械的な部分も多く見られ、まるで空飛ぶ空母のよう。
「ラ○ュタ……っていうより、マク◯ス?」
「言うと思ったけど、あれは天空族の国だ。昔は有翼族なんて呼ばれてたけどな」
「天空って、もしかしてその国の王様が天空王?」
「そうだな。ちなみにあんまり近づきすぎると攻撃されるから注意しろよ」
何それ怖いんですけど。
天空王か——凄く顔立ちは整ってるのに何考えてるか分からない怖さがあったなぁ。
まぁもう会う事も無いと思うけど。
私はもう少し近づいて空飛ぶ島を観察したかったけど、ぼっちさんが勝手に迂回してしまったのであんまり見れなかった。
ようやく家まで辿り着いた時はもうかなり夜も更けていた。
でも何故か家には灯りがついているので、たぶん誰かしら起きているのだろう。
皆心配してるだろうし、早く無事を知らせる事にしよう。
「ただいま〜」
「アイナ、無事だったか!」
元気よく扉を開けて館に入ると、血相を変えてカク爺が談話室から飛び出して来た。
それに続くようにゾロゾロと皆出てくる。
あれ?心なしか皆元気が無いような……?
私の無事を喜ぶって雰囲気じゃ無さそうだけど、なんで?
すると、その中の一人である九曜が突然頭を下げた。
「お嬢、すまん!留守を守り切れなかった!」
その言葉を聞いて、背筋にざわりと悪寒が走った。
「何があったの?」
皆沈痛な面持ちとなり、私の問いには即答出来なかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
場所を談話室に移して、詳しく話を聞いてみることに。
その話に出てきた連中は、どれも私と因縁のある者ばかり。
他にも何人かいたらしいが、九曜達は知らない人物だったようだ。
カク爺とマル婆は緊急コールを受けて、私の捜索には加わらずに直ぐに家に戻って来たが、相手は転移の魔導具で逃げたので間に合わなかったらしい。
元魔王達とキャサリン姉とリスイ姉は私を探してあちこち飛び回っているとの事。
一応魔導具で連絡はしたので、暫くしたら戻ってくると言っていた。
しかし、いかに勇者と魔王が集うとは言っても、円卓の方に戦力を割きすぎたか……。
「夜行……あの首領の女は早めにつぶしておいた方が良さそうだね」
あの無敵とも思えるスキルを野放しにしておけないし、次に合った時に決着はつけるつもりだ。
「それで誰が攫われたの?」
この部屋にいるのはカク爺とマル婆、九曜と叢雲と吹雪だけ。
襲撃によって怪我をした人は別室で療養中とか。
その人達は後で私が治療するけど……。
そして九曜が重い口を開く。
「攫われたのはソフィア王女と帝国の勇者と聖女。それから……ユユも」
ぞわりと全身の毛が逆立つ。
獣王の腕輪も激しく振動している。
獣人の危機に呼応する『麟器』だが、これほど強く反応するなんて。
たぶん才能的に次世代の獣王としてユユちゃんを選んでいるのかも知れない。
いや、私の感情もそこに乗ってる。
私の可愛い妹分を攫うとか、もう絶対容赦しないからね!
でも、何故ユユちゃんを攫った?
帝国や教皇国とは何の関係も無いと思うけど……。
向こうの利益というよりも、私に抵抗させない為の人質か。
苛立ちで体内の気が膨れ上がってくる。
そんな状態の私を、カク爺が厳しい眼で見て告げる。
「しかしアイナ一人で来いと言うのは明らかに罠じゃろうな」
「……それでも行くしかないでしょ。カク爺、今回は隠れて付いて来るのもダメだよ。万が一バレて人質に影響があると拙いし」
「そうは言うが、人質が居ては闘えないじゃろう?別働隊で救出しなければなるまい」
以前隠密の術も魔導具で看破されてしまった事がある。
そのリスクを考えると、人質の救出も私一人でやるしか無いと思う。
ぼっちさんなら数人乗せても普通に飛べるし、何なら巨大化して抱えて逃げてもいい。
でもカク爺が言う通り罠である可能性が高いよね。
確実にスキルをジャミングぐらいはしてくると思う。
ジャミングぐらいなら私とぼっちさんはジャミング仕返す事が出来るので問題無いが、それだけと考えるのは楽観的過ぎるだろう。
と、そこへ扉を開けて一人の男が入室してくる。
その人物は帝国の騎士団長。
怪我をしていて苦しそうなのに無理を押して来たようだ。
苦しそうな顔を見せながらも騎士団長は声を発した。
「人質を取るなど武の国としてあってはならない事だ。私にも協力させてくれ」
この物語はファンタジーです。
実在するラ○ュタ及びマク◯スとは一切関係ありません。




