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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第五章『天空編』
197/258

197 襲来

 人を惑わせる森、蠢く魔物達。

 その中を苦も無く進む集団があった。

 先頭を歩く長い黒髪の女性が手を翳せば、そこに壁でもあるかのように魔物は近づけなくなる。

 本来であれば相当数の戦闘を繰り返さなければ辿り着けない森の深層へ、全員が無傷で辿り着いた。


「へぇ、本当にババアが言った通り森の奥に家が有ったわ。さすがババアの占いね」


 森の中の開けた場所に、どうやって建てたのか不明な豪奢な屋敷が佇んでいた。

 まるで迷路のような道順を追って漸く辿り着ける場所だというのに、いったい誰が住んでいるのか。

 もっともこの集団はそこに誰がいるのかを正確に把握しているのだが。


「さて勇者が帰ってくる前にさっさと片付けようか」

「おい、油断するなよ。勇者が居なくても他に手練れの者がいるとあのババアも言ってただろ」

「大丈夫よ。私の『見えざる壁』スキルで生成したバリアは、勇者の魔闘気でも破れないからね」

「あの小娘には破られてただろうが」

「あれは特異点だから特別よ」


 貴族のような出で立ちの男が注意を促すが、黒髪の女性は取り合う気は無いようだ。

 屋敷の玄関へ向かおうとした所、それより先にそこの住人らしき人物が扉を開けて出て来た。

 腰に東の国の武器の一種『刀』を差した年若い青年。


「おいおい、とんでもねぇ面子だなぁ。知らない顔もいるが全員やべぇ感じ漂わせてやがる」

「ふふっ、中々勘が良いのね。私の元で働かない?」

「お断りだね。そっちの伯爵崩れにゃ偉い目に合わされたからな」


 青年が睨んだ先には白髪の背の高い男がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。


「心配せずとも、これからこの家にいる全員を切り刻んでやるよ」

「ちょっと、全員はダメよ。人質にしなきゃいけない奴もいるんだからね」


 白髪の男と黒髪の女性の言葉を聞いた青年は、怒気を抑えて腰の刀を抜く。


「留守を預かる身としては、そんな事絶対させる訳にはいかねぇんだよ」


 そう言いつつも青年は心の中で拙いと呟いていた。

 この家の主、正確には主の妹分である最強の少女は不在。

 それに加えて勇者の爺と婆、元魔王3人、次期魔王候補とか言われている少女までが不在。

 故にこの家に残されている戦力は、本来の世界を統べる事が出来る程のものよりも遙かに脆弱だった。

 不可思議な異空間で修行を重ねた者達もいるので、普通の狼藉者程度ならば容易く撃退できる。

 しかし相手方はざっと見知っている者だけでも、不可視の障壁を持つ女、自己治癒によって無限に再生できる男、周囲の味方の力を底上げする男といった具合に化物揃いなのである。

 それでも家を守る為にも逃げるという選択肢は取れない。

 この家の主達が帰宅するまで、なんとか持ちこたえねばならないのだ。


 ふいに白髪の男が体に力を込める。

 吹き出した闘気は勇者の魔闘気にも匹敵する程の力を感じさせた。

 だが青年は動かない。

 何故なら既に味方が両側から忍び寄っていたから。


「せいっ!」

「はぁっ!」


 突如何も無いところから二人の人物が現れ、刀と鎌のような武器が白髪の男の首を襲う。

 しかし、キンッ!という音とともに簡単に弾き返されてしまった。


「なんと……、以前に見た時よりも強くなっておるようじゃの」

「武器が通らない程とは……厄介ですね」


 不意の襲撃を仕掛けた老人と狐の獣人は、反撃されないように直ぐに離脱する。


「ふふふ、以前はあの少女に不覚を取ったが、私のスキルに対抗出来る者はそういないだろう」


 白髪の男は笑顔を浮かべたまま、青年達に殴りかかった。


 その攻防は、青年達の卓越した技によって暫く拮抗する。

 元東の国の公儀隠密は、相手を倒せないまでも家には近寄らせないでいる事は出来た。

 しかし、相手の白髪の男は疲れる事を知らない『自己回復』スキルの持ち主。

 徐々に押され始めるのも仕方無い事だった。

 そして貴族風の男がスキルを使った事で戦況は一変する。


「ぐっ!?急に攻撃力が上がった!?」


 もはや貴族風の男と白髪の男の2人だけで、青年と老人と狐獣人の3人を圧倒している。

 その隙を突いて黒髪の女性と他の随行者達は家の中へと押し入ってしまった。


「くそっ!家の中へ入られた」

「大丈夫じゃ、家の中には龍族もおる。簡単にやられはせん。寧ろこいつらが戦闘の本命じゃろう」


 だが老人の言葉も空しく、家の中から大きな爆発音と共にその龍族の苦悶の声が響いて来た。

 目の前の2人以上の脅威となる気配は感じなかったのに、まさかの事態となって3人は焦燥に駆られた。

 その隙を突いて白髪の男が青年達を次々に無力化していく。


「くくく、まさかまたお前達を切り刻める日が来ようとは。今日は良き日だ」


 倒れ伏した3人へ近づき白髪の男が手を伸ばしたその時、家の中に入っていた黒髪の女性達が戻って来た。


「残念だが撤収だ。用意周到に呼出コールの魔導具を持ってやがったよ。まぁ人質は手に入れたから目的は果たしたんだし、良しとしよう」

「おいおい、全然良しじゃないぞ。せっかくこれからこいつらを切り刻もうと思ってたのに」

「時間が無いし、ほっときな。連れていくのも無し。転移魔導具の人数制限で無理だからね」

「じゃあ、そっちの人質達を後で切り刻んでもいいか?」

「それもダメよ。こいつらは依頼を受けて連れていくんだから、商品に傷つけたら価値が下がるでしょ」


 黒髪の女性は白髪の男を宥める為に渋々提案する。


「どうせこの人質を取り返しに例の少女がやってくるんだから、そっちは好きにしていいわよ」


 それを聞いた白髪の男は一転、喜色を浮かべる。

 納得した様子を見せたので、黒髪の女性は転移の魔導具を起動した。


「特異点ちゃんに伝えてくれる?人質は帝国が預かってるから一人で来てねって」


 転移によって消失した姿を見つめたまま、青年は悔しそうに地面を叩いた。

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