196 お礼
レッドドラゴンは吹き飛んで行った元龍王を一瞥すると、こちらへ向かってノシノシと歩いて来た。
元龍王に攻撃を加えたからと言って、敵の敵は味方とは限らないので一応警戒はしておく。
ギリギリ攻撃出来そうな範囲に入りそうなところでレッドドラゴンは人型となり、私に向かって跪いた。
「貴方様が新たな龍王でしょうか?」
「……うん、そうだね」
人型のレッドドラゴンは赤髪の20代ぐらいの青年の姿をしていた。
「では、一先ずお礼を」
「お礼?」
「はい。龍王……いえ、元龍王であったワルズの支配から解き放っていただきましたので」
やっぱりこのレッドドラゴン、支配から解放されてるんだ。
でもなんで?
「何故あなたは支配から解放されてるの?」
「奴のスキルには制限があって、自分よりも上位のドラゴンを支配下には置けないのです。恐らく『龍王の首飾り』が貴方様へ譲渡された事により、ワルズのドラゴンとしての階位が下がって解放されたのだと思います。今この階層にいるドラゴン達はワルズよりも上位のドラゴンだけですので全員解放されています。貴方様に襲いかかる事はありませんのでご安心を」
おお、思わぬ副産物があったみたいだ。
思いつきでやった『麟器』奪取だったけど、最大の効果を持って元龍王を追い詰める事が出来てたんだね。
「分かった。でも、あの元龍王は数千匹のドラゴンを呼び寄せたって言ってたから、他の下位のドラゴンももうすぐ到着しちゃうんだよね?」
「一応支配から解放された我ら上位種達で足止めしておりますので、まだ暫くはここへは来ないと思われます。ですので今のうちに脱出されるのがよろしいかと」
「いや、あなた達が襲って来ないなら、今のうちに全てのドラゴンの支配も解放しちゃおう」
「なるほど、ワルズを殺せば必然的に解放は成されますね。では我らにお任せを」
「いや別に殺す必要は無いよ。スキルを消せばいいだけでしょ」
「は?」
何言ってんだこの人って顔しないでよ。
まぁ普通信じられないか。
というかハヤテさんとミカヅチさんが全然驚いてないのが不思議だ。
まるで私のスキルについて知ってるかのような……。
でもマル婆が救援要請出したんだとしたら、何かしらの情報を貰っててもおかしくないか。
私のスキルについて話すぐらいだから余程信頼できる人達なんだろうね。
元龍王は、さっきのレッドドラゴンの攻撃でかなりダメージを受けてしまったようだ。
フラフラしながらなんとか立ち上がったけど、もう闘う力は残ってなさそう。
「私は次の一撃で魔力切れて動けなくなると思うので、地上まで運搬お願いします」
「ちょっとアイナちゃん、また危ない事するんじゃないでしょうね?」
「今の元龍王相手なら全然危なくないよ」
ミカヅチさんが心配そうに覗き込むけど、あいつのスキルを封じれるのは私だけだから、どうしてもやらないとなのよ。
私は妖魔闘気を纏って元龍王目がけて跳んだ。
一瞬にして距離は縮まり、私の毒針が深々と元龍王の腹に突き刺さった。
「ぐああああああっ!!」
元龍王は私を振りほどこうと暴れるけど、もうそれを成せるだけの膂力は無い。
何度も殴りかかってくるが妖魔闘気を纏った私との差は歴然で、全て片手でいなせる程度だった。
きっちりスキルを消す毒を注入してやると、元龍王は攻撃の手を止め、唖然としたままその場に立ち尽くした。
「そんな……全ての龍族とのリンクが切れた……」
「あ、そうだった。帝国やら教皇国やら動かして面倒な事してくれたお礼をしようと思ってたの忘れてたよ」
「は……?ぶべぇっ!?」
私は残った魔力を全て練り込んで、渾身の拳を元龍王の顔面に叩き込んでやった。
仰向けに倒れた元龍王はピクピクと痙攣したまま動かなくなった。
ぶん殴ろうと思って円卓召集したのが、まさかこんなに面倒な事になると思って無かった。
でも最後に一発ぶん殴れてスッキリしたよ。
私はそこで魔力が切れてフラっと後ろに倒れそうになる。
そこへ素早くハヤテさんが駆けつけて私を支えてくれた。
「もう動けないんで、後はお願いします」
「まったくしょうがない子だなぁ……」
結局呆れられちゃったみたいだ。
ハヤテさんが私を抱えると、そこへ数十匹ものドラゴンの群れが飛来した。
「新たな龍王様。この者を生かしておいてくれた事、お礼申し上げます」
その中の一匹のドラゴンが私に頭を下げた。
こんな奴でも龍族にとっては大切な仲間だったのかな?
「殺してしまっては我らが心は晴れませぬので。これからたっぷり制裁を加えて生き地獄を味わわせてやります」
あ、全然違った。
めっちゃ恨んでるやん……。
まぁ好きにして。
その後、飛来した数千にも上るドラゴン達からもお礼の大合唱を受けた。
めっちゃうるさかったし。
元龍王は大きめのドラゴンが咥えてどこかへ運んでいった。
思いっきり牙が食い込んでたけど、大丈夫かな?
帰り道はレッドドラゴンさんが覚えているとの事だったので案内してもらい、なんとか地上に帰って来れた。
ダンジョンの外はもう暗くなっていて、空にぽつんと浮かぶ月が不気味に赤く輝いていた。
この物語はファンタジーです。
実在するスキルを消す毒とは一切関係ありません。
ここまでで第四章『円卓編』終了となります。
引き続き第五章『天空編』をお楽しみください。
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