194 龍王の首飾り
深々と刺さった毒針による痛みから、龍王は咆哮を上げる。
「グオオオオッ!!貴様あああああぁっ!!」
私めがけて鉤爪を振り下ろしてくるが、それを空いている方の手で受け流す。
やはり妖魔闘気を使える私に分があるようだ。
しかし、この至近距離でいつまでも受け流し続ける事は出来ない。
そこへ、足に雷を纏った赤鎧の人ミカヅチさん(偽名)が援護に入ってくれる。
ミカヅチさんは宙を舞いながら龍王に向けて連続で蹴りを放ち、さっきまでとは別人のような怒濤の攻撃を見せていた。
ここを正念場と見てくれて力を注いでいるんだろう。
それは正解だ。
私の毒が龍王を完全に浸食できるかにかかっているからね。
次いで、両腕に風の渦のようなものを纏った青鎧の人ハヤテさん(偽名)が躍りかかる。
ミカヅチさんとの息の合ったコンビネーションに龍王は翻弄されていた。
しかし、攻撃の要点となっているのが私であると気付いたのか、ハヤテさん達の攻撃を無視して私を串刺しにしようと鉤爪を振るって来た。
「お前を殺せば全て終わりだ!」
「くっ!?あと少しなのに」
片手で防ぎ切れない連続攻撃が、何発か体を削って鮮血が飛び散る。
白銀の鎧が無ければとっくに引き剥がされていただろう。
更に攻撃は激しくなり、徐々に押されて捌ききれなくなっていく。
ただ、龍王は鎧の2人を甘く見ていた。
決して無視していい程度の強さではないというのに。
ハヤテさんの纏う風量が増し、ミカヅチさんが纏う雷が煌めく程に発光する。
2人の放つ拳と蹴りが、龍王の頭部を挟み込むように炸裂した。
「ガッ……!?」
一瞬ドラゴンの瞳が白く転じたように見えた。
いかに強固な鱗を纏っていようと、頭部への衝撃はある程度脳に伝わってしまったみたいだ。
そのまま気絶するかと思われたが、直ぐに意識を取り戻し私へ向けて爪を振り下ろした。
しかし、ギリギリで毒の注入が完全に終わる。
「よしっ!」
素早く離脱しようと毒針を抜き後方へ飛ぶ——が、そこで妖魔闘気が切れてしまった。
躱しきれずに私の左足を龍王の爪が深々と貫いた。
「うあああっ!!」
「アイナっ!!」
「アイナちゃんっ!!」
ハヤテさんとミカヅチさんが駆け寄ろうとするが、それを龍王がブレスによって牽制する。
「グフフフ、これでようやく終わりだ!」
勝ち誇ったように笑う龍王。
でも、残念だったね。
毒は既に注入されているから、終わっているのはあんただよ。
突然『龍王の首飾り』が辺りを照らす程に煌々と輝きだした。
「な、何だっ!?何故今『龍王の首飾り』が!?」
龍王の首の後ろにあったであろう留め具が外れ、『龍王の首飾り』は宙へ浮かび上がりそのまま浮遊する。
そして新たな主を見つけたかのように急降下を始めた。
『龍王の首飾り』が選んだ新たな主は、ドラゴンの足下で貫かれている少女。
そう、この私だ!
通算3つ目となる『麟器』は、私の前でふわりと停止し、反転して私の首に巻き付いた。
「何が起こったっ!?何故『龍王の首飾り』がお前に装着されるっ!?」
龍王は私に止めを刺す事も忘れ、疑問を口にしながら狼狽した。
私は『龍王の首飾り』を装着した事で僅かに魔力が増えたので、再度妖魔闘気を発動させて龍王の鉤爪を叩き折った。
そのまま出血も構わずに全力で離脱する。
「アイナっ!怪我を見せろっ!!」
慌てたようにハヤテさんが足に刺さった残りの鉤爪を引き抜き、回復薬を私の足に振りかけた。
今日初めて会ったとは思えない程の焦燥感をハヤテさんから感じる。
そんなにも心配して貰えるのは逆に何か違和感があるんですけど?
「大丈夫だよ。『龍王の首飾り』を得た事でパワーアップしたから、これぐらいの怪我何てことないよ」
心配無いと言いたかったんだけど、何故か怒気をはらんだミカヅチさんが私の白兜を両手で叩くように挟み込んだ。
「無理しちゃダメって言ったでしょ!」
「ご、ごめんなさい……」
あまりの勢いについつい謝罪してしまう……。
でもあの場面では多少無理してでも毒を完全に打ち込まなければならなかったんだよ。
するとミカヅチさんが急に兜から手を放して、私を包み込むように抱いた。
「無事で良かった……」
ハヤテさんもだけど、ミカヅチさんもあり得ない程心配してくれて、ちょっと戸惑って何も言えなかった。
そんな心温まるような抱擁をぶち壊すように龍王が咆哮を上げる。
「貴様っ何をしたああああああぁっ!?」
私の想定した通り、龍王は完全に弱体化していた。
今の龍王ならハヤテさんとミカヅチさんで倒せるんじゃないかなと思う。
っていうか、もう龍王って言っちゃダメね。
さて、じゃあ元龍王に種明かししてあげましょうか。




