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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第四章『円卓編』
191/258

191 対龍王 5

 僅か1秒というのは、戦闘に於いては致命的な時になり得る。

 最後の15発目の毒を注入仕切る前に龍王が咆哮を上げた。


「ぐおおおああああっ!!」


 龍王は全力で私を振り払おうと両腕を奮う。


「ぐっ!?」


 運悪くその腕が私の頭部を直撃して毒針が抜けてしまう。

 半端な状態で抜けたせいで、『龍の轟き』を完全には消しきれなかった。

 それでも全てのクリティカルポイントに毒を打ち込んだので、間もなく効果が現れ始める。


「な、何をした貴様っ!!力が……抜ける……!?」


 急激にドラゴンの体表を覆う鱗が劣化して行く。

 雄々しく反り返っていた黒い鱗は衰えたように滑らかに、牙や爪も小さくなり鋭さを失って行く。

 体も萎んで人化状態の倍程度の大きさにまで縮んでしまった。

 しかし、同時に私の方も大猿化と妖魔闘気が解けてしまい、龍王よりも更に弱い存在へと成り果ててしまう。

 いかに『龍の轟き』を不完全ながらも無効化したとはいえ、それでもまだ龍王はうちの元魔王達級の強さが残っているように見える。

 殆ど魔力が枯渇している状態の私では太刀打ち出来ないだろう。


「我が力が消えた……?よくも……よくもやってくれたなぁっ!!」


 怒声と共に私を睨む龍王。

 私は何とか迎撃しようと、なけなしの魔力で魔闘気を練る。

 しかし妖魔闘気無しで龍王の相手は難しい。

 案の定、龍王の放った蹴りを避け切れずに、モロに食らって吹き飛ばされてしまう。


「ぐうっ!」


 何度も地面に打ち付けられて、受け身を取ったにも拘わらずかなりのダメージを食らってしまう。

 そもそも私との体格差がまだ3倍以上もあるのだ。

 攻撃の重みが全く違う。

 そこへ龍王が追撃して来て、何度も殴られる。


「がっ!ぐっ!ぐぅっ!」


 魔闘気でガードしながら急所は外しているものの、もうジリ貧としか思えない状態だった。

 クリティカルポイントが視えている事で相手の動きは読めるのだが、それを上回る膂力で殴られているためにどんどんダメージが蓄積されていく。

 そして遂にガードが間に合わなくなり、腕を鉤爪で貫かれてしまう。


「うあああああああっ!!」

「はぁ、はぁ、やっと捉えたぞ!!」


 そのまま腕を釣り上げるように体を持ち上げられ、突き刺された腕に激痛が走る。

 回復薬に魔力を回そうにも、それを行えば魔力が足りなくて魔闘気が維持出来なくなる。

 今度こそ本当に絶体絶命の状況だと言えるだろう。

 ぼっちさんに送る魔力すら無い状態なので、ぼっちさんもただの金属塊と化している。


「もう抵抗する術もあるまい。お前の魔力が尽きている事は手に取るように分かるぞ。本当に鬱陶しい能力だった。せっかく手に入れた力が水の泡となったが、今後お前に邪魔される事が無ければまた力を手に入れるチャンスも来よう」


 できればもう1発、龍王のスキルを消す毒も打ち込んでやりたかった。

 この世界のドラゴンの支配を解く毒を。

 でもそれももう無理だと思う。

 纏っていた魔闘気も消えかけている。

 風前の灯火となった私の命を見て、龍王が笑った。


「くくく……絶望を与えるのはいつも心地よいものだ。最後に言い残す事はあるか?」

「ふ……わ、私を倒しても第二第三の私がお前を襲うだろう」

「はぁ?何を言って……」

「ただ言ってみたかっただけ」

「……まったく意味が分からん。では、くたばれ」


 龍王は私を刺している腕とは逆側の腕を振りかぶる。

 それが振り下ろされ——空を切った。


「むっ!?まだ抵抗する力が残っていたのかっ!?」


 キョロキョロと消えた私の体を探す龍王。

 その視線の先にいたのは、私を抱える精緻な意匠を施された青い全身鎧を着た人物。


「誰だ貴様はっ!?」


 激高する龍王を青鎧の人物は無視した。


「危なかったね、なんとかギリギリ間に合って良かったよ」


 うん、誰?

 どこかで聞いた事あるような声だけど……。

 無視された龍王は苛立ったのか、私を睨むように目を細めた。


「幾度ものチャンスがありながら殺し切れないとは、何という豪運。さすがに特異点と呼ばれるだけはある。だが、だからこそここで殺しておかなければならんのだっ!!」


 もう抵抗する力も残っていない私を見て、龍王が吠える。

 豪運なのは特異点だからじゃなくて、日頃の行いがいいからだよーだ。

 そして龍王は今度こそ仕留めると言わんばかりに龍気を高め、私へと向かって駆け出そうとした。

 そこへふいに赤い影が飛び込んで来た。


「そんな事させる訳ないでしょーがっ!!」

「ぐぼあっ!?」


 その赤い影は空中飛び膝蹴りをかまして、龍王を吹き飛ばしてしまった。

 よく見ると私を抱えている青い全身鎧の人と同じ意匠の赤い全身鎧を着ている。

 しかし、こちらはボディラインと声から女性であると思われた。

 青鎧の人も赤鎧の人も身長から大人であろう事が窺える。

 いったいこの2人は何者なんだろう?

 声は何となく聞き覚えがあるような気がするんだけど……。

 というか、あの鎧の意匠も見覚えがある。

 サイズは大人と子供ぐらい違うけど、以前に一度だけ見た事があった。

 獣王国の付近で出会った白銀の鎧の人——あの人と同じ鎧だ。

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