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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第一章『逃亡編』
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019 肉

 あれから何日経っただろうか?

 私はいまだに山から出れていない。

 いったいどこまで続いてるんだろう、この山?

 鬱蒼としている訳ではないが、そこそこ木々が有り、視界も狭まっている。

 一向に進んでる気がしないのは、目印にしたい太陽がはっきりと確認出来ないせいもあるだろう。

 方位磁石を毒針で生成してみたけど、ダンジョンの中同様にグルグル回り続けるだけだった。ダメだこりゃ。

 この世界の地磁気は一定方向を向いてないのかも知れないね。

 その原因として考えられるのが月だ。

 この世界の月は前世の世界の月に比べて大きいので、たぶん月の磁場も地上に影響を与えているのではないかと思う。

 更に、チートと思われたダウジングも、地上では役に立たなかった。

 ダンジョンの中の不可視の何かにしか反応しないのかも知れない。

 色々イメージし直してやってみたが、ダメだった。


 なかなか目的の帝国領土へ到達出来ないが、その分色々な魔物と遭遇した事で自分の力の研鑽にはなったと思う。

 今も新たな魔物が私の方へ近づいて来ている。


「ガオオオオオァっ!!」

「あぁ、また熊か……。あんまり美味しくないんだよね」


 出来れば猪か鹿が良かったなぁ。

 昨日の猪肉ステーキは、毒で生成したソースと絡んでとても美味かった。

 次は牡丹鍋が食べたいかも。

 鍋はどうやって用意しようか?


「ガオオオオオァっ!!」

「うるさいなぁ」


 前足を高らかに上げて私を威嚇する熊。

 あの巨大ライオン見た後じゃ、ヒグマ程度の大きさなんて全然怖くないよ。

 百獣とはいかなくてもせめて五十三獣の王ぐらい名乗れるようになってから出直して来なさい。

 とりあえず、戦う前に一言。


「ねぇ、あなたは話せるの?」

「ガオオオオオァっ!!」


 よし、普通に魔物だ。

 あのライオンみたいに元が人だったら困るから、あれ以来一応確認している。

 食べないものは極力殺したくないもんね。

 襲ってきたらその限りではないけど……。

 ちなみに獣と魔物の境界は、目が赤いかどうかだけ。

 魔物の方が魔素を多く帯びているから、身体能力が高いし獰猛だと両親が言ってた。

 でも魔素が多い分、お肉は美味しくなるらしい。

 魔素最高!魔物最高!

 熊肉も毒で加工すれば美味しくなるかな?


「ガアッ!」


 待ちきれずに熊が私に向かって爪を振り下ろした。

 でも、今の私にとってはスローモーションだ。

 腕輪の能力は全身の筋力を強化するものらしく、それは動体視力や脚力にも影響している。

 脳まで筋肉質にはなっていないと思いたい……大丈夫だよね?

 なので、余裕を持って爪を避けた。


「ガッ!?」


 避けられると思って無かったようで、一瞬私を見失う熊。

 では、新たに習得した技を披露しようじゃないか。

 私は毒針から一酸化炭素(猛毒)を生成する。

 気体な上に無色無臭だが、私は毒針を介してどこにあるかをはっきり認識できる。

 そしてつい先日気付いたのだが、私は生成した毒を操作して毒針から切り離しても、半径10m以内にある間は自由自在に操れてしまうのだ。

 つまり、今生成した一酸化炭素を熊の口元付近に移動させる事も出来るというわけ。

 私を見つけた熊は再度爪を振り下ろす。

 それをまた軽く躱す。

 苛立ち始めた熊は両手を振り回そうとして——突然崩れ落ちた。

 この世界の生き物にとってもやっぱり一酸化炭素は毒みたいだ。

 もっとも、この一酸化炭素は私のイメージによって、実際のものよりも更に毒性が高められている。

 一応、後遺症等は残らないように生成してるけどね。

 何か肉の味に影響有ったらやだし。


「グ?グモォア?」


 何故体が動かないか分からないと言った様子の熊。

 はっきり言ってクリティカルポイントに麻痺毒を打ち込んだ方が早いけど、今後人との戦闘があるかも知れない事を考えると、一酸化炭素による搦め手も使えるようになっておいた方がいいと思う。

 そんな訳で実験台になってもらった熊は、ナイフ(毒)を生成して首を切ってそのまま血抜きした。

 更に、肉の獣臭さを抑えるハーブ(毒)を注入。

 美味しく出来るといいな。

 生命をいただくのだから、敬意を持って、より美味しくいただきたいものだ。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 シュバイネ・フライシュ伯爵は苦虫を噛み潰すような顔で吐き捨てる。


「ちっ!Aランクの奴隷を借りれたはいいが、まさか侯爵自ら名乗りを上げるとは——感づかれたか?」


 Aランクスキルはそれなりに稀少だ。

 高額な料金を払ってまで借りるという事は、それだけの利益を見込めるという事。

 後に力を貸せと言われるぐらいなら、派閥に属するのだから吝かではないが。

 しかし、あの小娘をよこせと言われたらどうするか?


「詳細は伝えていないが、奴隷から情報が行ってしまうだろう。奴隷だけで当たらせず、肝心な部分は私兵にやらせるしかないな」


 今回の奴隷を借りるに当たって、伯爵は全財産の3割もの金額を支払っている。

 絶対に失敗する訳にはいかなかった。

 決して経営に明るくない伯爵は、領地の経営も満足に行えていない。

 年々減る税収に業を煮やして、高ランクのスキル持ち奴隷に稼がせる方向へ舵取りを決めたばかりだった。

 幸先悪くその先駆けとなる小娘に逃げられて、余計な先行投資をする羽目になっている。


「奴を捕まえれば一気に取り戻せる。あのババアは手を出すなと言ってたが、Aランクの奴隷に勝てるものか」


 破滅への序曲はもう奏でられているのに、伯爵の耳にはまだ届かないらしい。

この物語はファンタジーです。

実在するソース及び一酸化炭素及びナイフ及びハーブとは一切関係ありません。

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