188 対龍王 2
龍王の攻撃がまた飛んでくるのを、今度は妖魔闘気を強めに練ってなんとか躱す。
次々に繰り出される拳を避けて、隙を見つけてはこちらも攻撃を仕掛ける。
僅か1分にも満たない攻防の中で息が上がりそうだ。
対して龍王は呼吸を乱す事無く連続で攻撃してくるし、よく見ると先程与えたダメージも既に回復してしまっている!?
自動回復はズルいと思うんですけどぉ!
自動回復無効にしてやりたいけど、クリティカルポイント7箇所に毒を打ち込まなきゃいかんって、一撃入れるのも大変なのに……。
それより『龍の轟き』を無効化したいとこだけど、そっちは何と15箇所もクリティカルポイントを突かなければならない。
そんなのある程度相手の動きを封じてなきゃ不可能だ。
これ詰んでない?
「どうした?攻撃の手が止まってるぞ」
いやらしい笑みを浮かべながら左右の拳を高速で撃ち出す龍王。
せめてあのムカつく顔を歪ませてやりたい。
しかしなんとかガードした腕も弾かれて、どんどん劣勢になっていく。
小細工はそう何度も効く訳じゃないからなるべく取っておきたかったけど、今は一旦距離を置きたいからやるしかない。
反撃して蹴りを繰り出すと見せかけて、足に仕込んだ針から毒を生成する。
「バ○スっ!!」
「ぐあああぁっ!?」
聖属性の光を龍王の目の前で爆散させてやった。
気や魔力で感知出来るとは言っても、不意に目の前で高光度の光が放たれれば身体の強度に関係無く怯むもの。
案の定、強気で攻め続けていた龍王は光の奔流の中で立ち尽くしていた。
「貴様……やってくれるな」
でも、これもそう何度も使える技じゃない。
毒針が自分の方向を向いた時を警戒していれば防げちゃう程度の技だ。
ひとまずここぞとばかりに距離を取っておく事にして、大きく後ろへ跳躍した。
それなりにダメージを受けてしまったので、回復薬(毒)を自身に打ち込んでおく。
あ、自動回復ズルいって言ってたけど、私もやろうと思えば出来たわ。
口の中に仕込んである針で回復薬生成してれば自動回復と同じだった。
次からはそれでいこう。
って言ってもそれは魔力が尽きるまでという有限の回復だ。
対して龍王のは、一応何らかの消耗はあると思うけど……あれ魔力とか減ってるのかな?
すぐに復活した龍王はギロリとこちらを睨む。
「そんな小細工がいつまでも続くと思うなよ」
「思ってないよ」
私の返答が届く前に、一瞬で眼前に迫る龍王。
蹴り上げて来た足を妖魔闘気を込めた左腕でいなす。
次に突き出された拳は半身で躱し、それをカウンターで突き返すが、龍王は避けもせずに頭突きで相殺してくる。
近距離での応酬が数秒続いたかと思えば、突如龍王が大きく口を開けた。
——やばっ!?
咄嗟に私も口を開けて、師匠直伝『獅子の咆哮』をアレンジした『煌猿の咆哮』を放つ。
妖魔闘気状態でしか使えない奥の手の一つだ。
充填されたエネルギーが口から放射されて、龍王の吐いた光弾のような炎を相殺する。
至近距離でぶつかり合った巨大なエネルギーが目の前で弾け、余波が両者の顔面を襲った。
「きゃあっ!」
「ぐおぁっ!」
素早く口の中で回復液を生成して飲み込んで顔のダメージを回復した。
よく考えたら、咆哮で口の中の針を破壊したら回復できなくなっちゃうじゃん。
次からは注意しよっと。
それに今のはちょっと危なかった。
一瞬でも判断が遅れてたら頭が吹き飛んでたかも知れない。
ドラゴンの姿になってなくても人化したままで炎吐けるとは、思い込みで油断したのは反省だね。
龍王もすぐに自動回復で再生していく。
治った顔に先程までの余裕の表情は消えていて、鋭い目つきが現れていた。
「まったく不快な存在だな……」
「光栄だね」
「このまま闘い続ければ、いずれお前はドラゴンの大群に飲み込まれるだろう。だが、やはり俺自らの手で殺さねば気が済まんわ!」
龍王の気が大きく膨れ上がった。
まだ強くなるの?
いや、これは……
「グオオオオオオオオオッ!!」
咆哮を上げながら龍王の体が巨大化して行き、背中から大きな翼が生えてくる。
顔や手足は爬虫類のように凶悪な形状へと変わって行き、頭部に大きな角が生えたところで龍王の変貌は完了した。
龍族の力を最も発揮できるといわれる姿——雄々しきドラゴン。
龍化して巨大なドラゴンとなった龍王はこちらを見下ろすと、胸部が膨らむ程大きく息を吸い込んだ。
「やばいっ!?」
私は妖魔闘気を全力で練って地面を蹴り、その場を急遽離脱する。
直後、私の居た場所を業火のブレスが薙ぎ払った。
跡にはドロリと融解した地面が赤く煮えたぎっている。
先程の人型のブレスとは桁が違っていた。
ちょっと……何あれ、ヤバ過ぎでしょ!?
この物語はファンタジーです。
実在する回復薬とは一切関係ありません。




