186 崩壊
カク爺が額に青筋を立てて立ち上がる。
「どういうつもりだ、ライズっ!!勇者としてあるまじき判断だぞ!!」
そんな怒声を受けていながらも、ライズさんは顔色を変えずに微笑んでいる。
あれ?でもちょっと雰囲気が変わってダークになったような……?
「勇者として魔王を滅ぼす為に盟約が邪魔だったんだよね〜」
あ、こいつやべー奴だった。
ヘラヘラしてるチャラ男だと思ってたら、内側にめっちゃ闇抱えてそうなんですけどぉ。
ってか、魔王滅ぼすとか言ってるけど、それに私も含まれてたりしないよね?
マジヤバ、近寄らんどこっと。
「いやぁ、中々楽しい会議だったよ。俺とってもアイナちゃんに興味湧いちゃったなぁ」
ひいいいいいぃっ!!ロックオンされてるうううううぅっ!?
チャラ男の目がなんか怪しい光を帯びてるじゃないのぉっ!!
だめだ、こいつ怖い……闘おうという気さえ起きないよ。
早く逃げねば……。
いやでも、その前に龍王との決着をつけないとなのよ。
当の龍王は不気味な笑みを浮かべて魔導王に近づいていた。
「例の薬は完成しているんだろうな?」
「ああ、これだ」
「おおっ……これさえあれば……」
「おい、対価を忘れるなよ」
「あの娘をぶっ殺した後で天空王もぶっ殺して取ってきてやるよ。俺は取引には誠実だからな」
「約束を守ってくれるなら何でもいい」
おいこら魔導王、今龍王に何渡した?
凄く見覚えある形の薬みたいだったけど……。
「魔導王、まさかあんたが『龍の嘆き』を作ってたの?」
「そうだが?」
「そうだが?じゃねーしっ!あんたが元凶か!何でさっき言わなかったのよ!?」
「聞かれなかったからだが?」
こいつは……マジで自分の目的以外に何の興味も無いのね。
「それで、今龍王に渡した薬も『龍の嘆き』なの?」
「あれは特別製だ。さしずめ『龍の轟き』といったところか。龍の嘆きは龍族が使うと拒否反応が出るんでな。改良した」
私が魔導王と話してる間に、龍王は『龍の轟き』という薬を飲み込んでしまった。
今までそれなりの強者が『龍の嘆き』を使うと、場合によっては魔王級の強さにまでパワーアップしていた。
それがさらに強化された薬を既に魔王級の強さを持つ者が使えば……?
「グオオオオオアアアアアァーッ!!」
雄叫びを上げるように吠えた龍王は、人の形でありながら『龍の嘆き』を使った者達のような龍の特徴を併せ持つ姿へと変貌した。
そして変化したのは外見だけでなく、内包する気と魔力の量も桁違いに膨れ上がっていた。
「ぐ……ぐふ……ふふふ。俺は遂に魔王を越えた……。俺は『真魔王』となったっ!!」
真魔王とは大きく出たね。
対してこっちは魔王(仮)だ。
前世で仮免落ちた時に友人から言われた「あれって落ちる人いるんだ」を思い出してちょっと心が疼いたわ。
許すまじ龍王!
真魔王だろうが何だろうがやる事は変わらない。
ここですぐにやり合うのかな?と思ったけど、急に円卓の広間が小刻みに振動し始めた。
「円卓の解体に反応して広間が崩壊し始めたか……」
何それ?AIでも積んでるの?
自律思考型魔導具みたいになってるんだろうか?
まるでぼっちさんのよう……ってそういえば最近ぼっちさんが大人しいな。
ミミィが妙に大人しかった時はろくでもないこと考えてたけど、まさかぼっちさんも?
まぁそのうち復活するだろうし、武器としては私の意思で自由に変形できるからほっといても問題無いか。
「ねぇ、崩壊するって事はここに居たらやばいんじゃないの?」
「いや、自動的に排出される筈じゃ」
ふーん、じゃあ排出されるまで待ってますか。
なんて思ってたら龍王に私の腕を掴まれた。
「お前は逃がさんぞ」
「いや、端から逃げる気なんて無いけど」
レディの腕を無造作に掴むとか失礼極まりないね。
ムカついたから私を掴んだ腕に魔闘気を流し込もうとしたけど、手のひらにまで生えた鱗に弾かれてしまった。
それを感じたのかニヤリと口の端を釣り上げる龍王。
「真魔王となった俺は魔闘気すら弾けるようになったようだぞ。いつまでその涼しい顔を保っていられるかな?」
思ったより強くなってるなぁ。
しかも今は人化している状態——龍化した時はいったいどれだけ強くなるのだろうか?
これは一人で倒す事に拘るとちょっとやばいかもしんない?
プライドに拘って殺されるよりは、元魔王達に助けを求めた方がいいかも。
円卓の広間の崩壊が進むと、次々に転移するように皆排出されていった。
そして私と龍王が同時に排出される。
一瞬にして変わった景色は、見覚えの無い広い草原。
円卓の広間の入口付近はゴツゴツした岩場だったと思うんだけど、全然違う場所に排出されちゃったみたいだ。
そしておかしな事に周囲には誰の気配も感じられない。
あれれ?今の私ならかなりの広範囲までクリティカルポイントが視えるはずなんだけどなぁ?
そして急に腕を引っ張られて、放り投げられた。
「わわっ!?」
空中で体勢を立て直して、足場を作って宙に降り立つ。
「何すんのよ」
「くくく、どうやら俺達だけかなり遠方に排出されたようだな」
うわぁ、やっぱりそうなのか……。
「助けは来ないぞ。お前の命運は尽きた」
そう言った龍王が内包する魔力を解放すると大気が怯えたかのように震えた。
しゃーない、一人でやったるか。




