184 解体
「ズバリ聞きますけど、龍王、あなたは『龍の嘆き』を作っていたのではないですか?」
「……そんな同族を犠牲にするような事をするはずがなかろう?」
んん?
微妙に嘘が混じってる感じがするけど、何が嘘なんだろ?
作っていない?というよりは、同族を犠牲にはしていないという所だけ嘘なのか?
つまり同族の肝は差し出してるんだよね。
「薬を作っていないと?」
「当たり前だ」
作ってないのは嘘じゃない。
ってことは、龍王以外の誰かが薬を作ってるの?
チラリとヴァイスさんに視線を送るが、何故か困惑顔。
『ヴァイスさん、龍王が薬を作ってるんじゃないの?』
『分かりません。龍王が龍族を犠牲にしている事は知っていたのですが、誰が薬を作っていたのかまでは知らされていませんでしたので』
うむむ……?
じゃあ聞き方を変えてみるか。
「作ってはいなくても薬を誰かに渡していたとかは?」
「作っていないものを渡せるはずがないだろうが」
龍王、私が嘘を感じ取れる事に気付いたかな?
明確にNOと言わないで、はぐらかしたね。
誰かに命令して薬を作らせたんだろうか?
龍王なら絶対服従の支配下にある部下に作らせる事もできると思う。
いや、それだと龍王が指示を出しているから私の嘘センサーに反応するはず。
完全なる第三者が薬を作るために龍の肝を渡したって事?
そうした場合の龍王にとってのメリットは何?
お金じゃないよね——やっぱり力か。
それを得る為の実験段階ってのが一番しっくり来る気がする。
だから自分自身のパワーアップにはまだ使っていなくて、失敗作を無作為にあちこちへ配っているのか。
色々考えてたら龍王がイライラした感じで反論した。
「そもそもその『龍の嘆き』が何だというのだ?龍の肝が使われている事などお前には関係無い話だろうが」
「それがそうも言ってられないのよね。何故か私に絡んで来る人達が持ってたりして面倒な事になってるし。どうも私の首を狙ってる人がいるようで、いいかげん鬱陶しいから根元から断っておきたいのよ」
と根元に向けて言ってみると、龍王の纏う空気が変わった。
「それはこちらも同じだ」
向こうが先に焦れたか。
「いいかげん目障りな小娘を叩き潰したいんでな」
流石魔王、血の気が多いから論破する前に本性現しちゃったよ。
「お互い目障りだと思ってたなんて、私達相性バッチリだね」
「吐き気がするわ」
正に相性はバッチリ最悪だ。
さて、ここからが本番だね。
この先は、勇者達が必ずしも味方になってくれるとは限らない。
逆に魔王の方が私寄りかも知れないぐらいだ。
事前に話を通してあるカク爺とマル婆は、目を閉じて覚悟を決めたようだ。
「さてお互いに気に食わない訳だけど、円卓の盟約により勇者と魔王はもとより、勇者同士や魔王同士でも争うことには制約がある。これではムカつく奴をぶん殴ることも出来ないよね。そこで……」
僅かに溜めて円卓に座する面々を見回すと、勇者であるキャサリン姉とリスイ姉が僅かに焦燥を浮かべた。
「ち、ちょっとアイナちゃん?まさか……」
「アイナ、それは……」
ごめんね、別に勇者の敵になるつもりは無いから。
「魔王として提案する!この円卓の解体を!」
私の言葉を聞いたキャサリン姉がガタンと椅子を倒して立ち上がる。
「バカな事言い出さないでっ!!そんなことをしたら世界の均衡が!!」
「キャサリン姉、暗躍してる奴がいる時点でもう均衡は保ててないよ」
「っ!?それでも解体なんてしたら大きな混乱が」
「大きな混乱は解体しなくても訪れるよ。というかもうあちこち巻き込まれてるのよ。私は政治とかよく分からんし、力ずくで解決するために円卓の盟約が邪魔なんだ」
私が魔王である限り、龍王に手出しすれば勇者からの討伐対象になってしまう。
それを避ける為にも円卓は解体して貰わなければならない。
いつになく真剣な顔のキャサリン姉がまっすぐ私の目を見つめる。
「アイナちゃんの為だとしても、私は賛成しないわよ」
「うん、分かってる」
「……まったく、後で説教追加だからね」
「うへぇ……」
私の膝、がんばれ……。
さて、他の面子の様子を見ると……。
天使——ではなく天空王は不気味に微笑んでいる。
端正な顔立ちで微笑むと逆に怖いね。
龍王は相性バッチリなだけあってノリ気なのがはっきり分かる。
不死王は……髑髏だから表情なんて分からん。
顎がカタカタ言ってるから楽しいのかな?
魔導王はそもそも円卓を煩わしく思ってたようだし、きっと賛成するだろう。
私が魔王2人分として、不死王以外は確実に賛成するような気がする。
対して勇者は……。
カク爺とマル婆には「反対なら反対してくれてかまわない」と言ってある。
だからこそ円卓の召集を了承して貰えたんだし。
きっと反対だとは思うけど。
ジっちゃんはきっと反対するだろうなぁ。
レイアさんが勇者の後継者として認められたばかりだから、世界が混乱するのは避けたいんじゃないかな?
キャサリン姉とリスイ姉はいかに私に甘いとは言え、勇者としての使命を放棄する事は無いと思うので確実に反対であろう。
ライズさんは……知らん。
ニヤニヤと奇妙な笑みを浮かべていて、何考えてるか良く分からんし。
勇者側はライズさん以外ほぼ全員反対だろうね。
不気味な浮動票が命運を決める。
「では決を取ります」




