182 麟器
『アレ別にどうでもよくない?あんまり強くなさそうだし』
『いやほっといたら闇王として発言するぞあいつ、権限も無いのに』
そっかぁ、魔王としての権限を持ってない人が行使しちゃうのは拙いか。
12分の1の発言力でしかないにしてもね。
でもそうすると私が2つ権限を持ってると知られて余計面倒な事にならないかな?
まぁ龍王とも繋がってそうだしちょっと突いてみますか。
「そういえば『麟器』って魔王ならみんな持ってるんでしょ?ちょっと見せてほしいなぁ」
はい、あからさまに一人汗の量が増えたのがいます。
ヴァンパイアって汗かくんだね……。
「何故お前に見せねばならぬ?見せる理由が無い」
「そ、そうだそうだ!お前になんて見せる必要無いだろ!」
金髪金眼の天使様に断られたのはいいんだけど、分かりやすいぐらいに便乗するヴァンパイア。
小物感凄いなぁ。
魔王名乗るならもっと悠然と構えなさいよ。
まぁ持ってない麟器は見せようが無いもんねぇ。
「そんなくだらん事を言ってないでさっさと会議を進めろ。麟器などどうでもいい事だろうが」
おっと、思わぬところで本命が釣れたよ。
龍王が話を打ち切ろうと口出しして来た。
でも釣れたと言っても辛うじて針が掛かった程度で、庇ってる証拠も無いから今合わせるとバレて釣り逃しちゃうだけだ。
大物を釣る時は逃げられないように慎重にいかないとね。
でも逆に今の口出しのおかげで偽闇王を追い詰める事が出来るよ。
「あら龍王様、これは異な事をおっしゃる。世界に魔王と認められていない者に円卓の発言権があってはならないでしょう?それとも今拒否をされたお三方はもしや麟器をお持ちでないと?それじゃあ魔王としての発言を認める訳にはいかないんじゃないのかな〜?」
私の魔王たり得ぬと言わんばかりの発言に、2人はピクリと反応し、1人はビクリと身を竦ませた。
この中に犯人がいます……分かりやす過ぎるわ。
「私の頭を見れば一目瞭然だろう。この『天空王の小環』が麟器だ」
「……この『龍王の首飾り』が麟器だ。これで問題あるまい」
天使——もとい天空王と龍王が麟器を示した。
天空王は頭部に付けてるサークレットで、龍王は赤い宝石が付いたネックレス。
すると不気味な声を上げる者が一人……いや一匹?アンデッドの単位って何?
「ぐふふふ、我が麟器はこの『不死王の指輪』だで。お前もはめてみるか?永遠の命を得られるぞぅ」
不死王が髑髏をガクガク言わせながら骨だけの指にはめられた指輪を見せた。
永遠の命じゃなくて永遠に死ねなくなるだけじゃないそれ?
絶対お断りだわ。
そして魔導王が自慢げに自分の麟器を見せてくる。
「これは『魔導王の籠手』と言ってな、魔法の効果が倍増するのだ。数ある麟器の中でも、装飾品ではなく防具のような形状を持つ物はこれだけで……」
長い。
この人魔王についての説明の時も魔導具についての解説が多かったし、ひょっとして魔導具オタクなの?
この手の人は話長いから割愛して、最後の一人に目を向ける。
「それで闇王さん?あなたの麟器はどこにあるの?」
「ぐっ、そ、それは……」
ガクブルし始める偽闇王が龍王へ助けを求める視線を送るも、龍王はもう見限ったのか一切目を合わせようとしない。
『よし、ここで華々しく妾が登場したらかっこええよな?』
ミミィがそんな事を念話で言い出した。
この目立ちたがり屋は、それを狙って偽闇王の正体を暴けって言ったな?
まぁこのままだと中々登場するタイミングも無かったし、確かにドッキリとしては最高のタイミングかも知れない。
しかしそのタイミングより僅かに早く、偽闇王のヴァンパイアが自暴自棄になって叫んだ。
「ち、ちくしょおおおおっ!!もうここで使うしかねぇっ!!」
ヴァンパイアは懐から薬らしきものを取り出した。
またか……っていうか、やっぱり持ってたか。
薬無効化する毒をまだ打ち込んでないから龍化しちゃうなぁ……。
ヴァンパイアはゴクリとその薬を飲み込んだ。
ジャネスもだけど、よく水無しで錠剤飲み込めるよね。
私は絶対水で流し込まないと無理だわ。
「グオオオオオアアアアアァッ!!」
青白いヴァンパイアの体は空の青を通り越して海の深い青へと変わって行く。
何度か見た鱗のようなものが全身に生えてきて、人に近い形状だった顔立ちも爬虫類のように変貌した。
例によって見た目だけではなく内包する魔力量が爆上がりしていた。
素がヴァンパイアだからか、王国の城で闘った2人よりも強い気がする。
『あいつめ、妾の登場シーンをぶち壊しおって……絶対に許さん!だが次のチャンスを待つ!今登場したら格好悪いからなっ!!』
ミミィ、念話で叫ぶとうるさいよ……。




